彼女のもとが最良だろう。
.高校1年生の時に、出版社に投稿し1次選考を通らなかった残念賞です(笑)。 日の目を見る機会があまりなかったので、載せてみたくなりました。 この作品をもっと良くして、またどこかに投稿したいと思います。 もっとよくしたいので感想やら指摘やらお願いします。
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「何で、あたしがこんなことまでしなきゃいけないんだ」
季節は夏。溜息を愚痴とともに吐き出しながら、その少女は青々とした草の上を歩いていた。成人にはまだ見えない容姿。身に着けた衣服は季節に反してどちらもウェアのようなもの。ただそれらの衣服は、アウトドアライフにむきそうな素材で作られているようだった。さらに格好には似合うが、背丈には似合わない大きなリュックを背負っていた。
事情を知らない他者が見たら、彼女は自然と戯れようとしているのだろう、とそう考慮するものもいるだろう。ただ、今草原を歩いているのは少女一人だけだった。これが他者の導く仮説を鈍らせる。周りの景色は乏しく、生い茂った草原が広がっているばかりだ。唯一、少女の格好に合う地形を考えると、進行方向に存在する森林程度だろう。その背後にはそこから来たと思われる街が遠くに見えた。少女の目的地と思わしき森林帯は、現在地から遠く距離がある。歩いていくには半時あっても足りなさそうだ。その位置はちょうど街と森林の中間辺りだった。
成年者に達しているように見えない少女が、広大な草原で一人取り残されたように歩いている光景は、なかなか異形だった。
少女がまた投げやりに呟く。周りに誰もいないこの場では、それも虚しいものだ。
「ったく、どこの国に街の外で狩りをする女子がいるんだよ」
……異形な状況は、これまた異形な真実を与える。
『狩りをする女子』という言葉に、少し憂鬱そうだ。当てはまっているのだから仕方がないだろう。何処の国でも狩りが似つかわしい少女などごく稀な存在だと思われる。
「あの、バカ親父が」
原因となったらしい父親はいったい何をしでかして、少女をこの場に追いやったのか。ただ子供一人を狩りに行かせるとは、果たして『バカ』で済ませられるか疑問だ。人間が狩りと言うからには凶器となりえる道具を使うのだろうし(素手ではやらないだろう、多分)、得物によっては命に関わる。少女の父親は子供の安否を気遣うということに、大いに欠けている。
その他の大衆なども彼女の考えているように、少女が一人狩りをする行為を認める者はごく僅かだろう。彼女とてやりたくないの当前のこと――
「ああ、〝面倒〟」
……もっと指摘できる部分が他にあると思えるのは気のせいか。世間にとって危険だと思われる行動もこの少女には気にならないみたいだ。親子共に、能天気なのか、それこそ世間知らずなのか、どことなく外れている。
寂しさを紛らわすためか、父親への鬱憤を晴らすためか、独り言が多く少女は歩き続ける。
「しまいにはこれも修行だ~! とか言いやがって何の為の修行だよ。母さんまで後押しするし。あ~少し強くなり過ぎたかぁ」
これまたいったいどんな生活を送っているのか。分かることは、彼女は強くなり過ぎならしい。目的不明なことを修行という名目で何かしらを行っているためとのことだ。その修行には狩りも含まれている(明らかに後付されたようだが)。親がこの調子で強く育ってしまえば、周りが考える危険が面倒と思えてしまうのは、ある意味当然のことなのかもしれない。
「フェオもいれば少しは楽しくなりそうなんだけどな~、あの親父、この子には危険だから~なんて言いやがって。こっちの心配もしろ!」
と、またここにはいない相手に向かって愚痴る。面倒な仕事だと思えるぐらいなら、心配されなくても良いのではないだろうか。
「がさつで適当で社会的にも浮きすぎなんだよウチの親は、こないだだって……」「だいだいあの程度の怪我で、娘に押し付けるなんて、ふざけんな」などと親に対する文句を時折(むしろ常に)口に出しながら、少女は歩き続けていた。
「……まあいい、ラナは大好物だし。でも父さんには少ししか分けてやらない」
ようやくと言うべきか、目的地に着いたときには前向き(?)な考えも抱いていた。
懸念となっている狩りは、やはり進行方向にあった森林で行うようだ。
少女が狩りをするのは今日が初めてらしい。森林に入るあたりで呟く言葉にそのことがあった。その手順については特に難しいことはない。ラナの生息している場所については詳しく聞き、あとはその場所でラナを捜索し狩る。今日彼女がここですることだ。幸いにしてラナは肉食でありながら人間の脅威にはなりがたい。
それでも、脅威ではないことが狩りの結果に繋がるかはまた別のことだ。今のところ成果は芳しくない。まだ太陽が真上にいたるまで何時間か必要だが、片道が結構かかった道のりだ。午前中だけで終わらせて帰ることにしても十分な成果は得られまい。彼女もそれを承知か午後も通して行うつもりのようだ。
ラナの生息している流れの緩やかな河川付近でひとまず手を止めた。無造作に放置されたリュックへと近づき中を覗く。中身を見るなりしかめっ面となり、詰め込まれていたレジャーシートを広げ、腰に下げているラナの入った皮袋を置いた。腰を下ろし、一人森林浴を(不機嫌そうに)味わいながら弁当をリュックから取り出す。「いつの間にこんな準備万端にしてんだが」などと言い、また溜息。そう言うのも少女のリュックは、父親がいつも使うものよりも大きいものだったからだ。渡されたときは中身を確認する気になどなれなかった。そして今、中を覗いてみれば、虫除けスプレーや傷薬、タオル、レインコート、懐中電灯、キャンピングナイフといったまさにアウトドア用の物が詰め込まれている。この環境では、使い道の不明なナイロン製のロープや、ステンレス製のスコップまで入っていた。
母親あたりが娘の初めての狩りを、一応心配して準備をしたのだろう。しっかりと狩りをさせようとしていることは、気にしてはならないことかもしれない。
少女もしかめた表情のまま、それ以上のことは言わなかった。一通り中身を確認し、弁当にありつくことにするようだ。フォークを動かしながら、少女はシートの端を止めるために置いた皮袋を見つめる。
「今日は少し不景気なのかねぇ」
それにはラナが三匹入っていた。いつも父親が捕まえる量には五、六匹足りていない。
……でも初めてなら仕方がないよな。
一見合理的な考えを抱いてみる。しかし彼女の気質が、そんな理由で納得することを許さなかった。ラナを狩るのは食糧確保のためである。切羽詰った生活を送っているわけではないが、父親の狩る量に劣っていることは、やはり悔しい。いつも変なことをさせる父親が行っているこの仕事。あんな父親なのに超えられない。
少し沈んできた心情を紛らわすためであろう。彼女は食事の手を止め、脇の道具を手に取り底の浅い河川へと歩み寄った。素足になり、足を入れてみる。この時期の河川の水はとても心地よかった。
緩やか流れを足で感じ、今回ラナ狩りに使用している道具を見てみる。
「こんなのあたしんちにもあるんだな」。
半ば強制的に狩りをすることになったとき、せめてものの抵抗として、普段父親が使わない物を持ってきていた。蔵の中をあさり見つけ出したのである。
彼女は『それ』を軽く振り回していた。
………………?
「――――ッ!!?」
突如、閃光が走った。
わけの分からない事態に思わず、声にならない叫びを上げ尻餅をついてしまう。「ひゃあっ!」先ほどとはこめられた意味の違う叫びだ。後ろからついたときでは、結構冷たかったのかもしれない。そうしながらも強い光から目を庇った。
光の発生も束の間で徐々に収まっていく。光はここから四、五メートル離れた河川から発生したようだ。まだ残光がある。
何が起きたのか全く予測できないまま事態を見守った。強い光を受け目が眩んでいる。
それが元に戻ってきたころには光の発生は完全に止んでいた。
「ぅん?」
眩んだ目をこすりながら見つめる先に真っ黒で変な何かがいた。
後々続きを載せていきます