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第3章 不合格と監察官の呼び出し

結果発表は、思ったよりもあっさりしていた。


試験を終えた受験者たちは、学院の広間に集められていた。

壁際に掲示板があり、そこに紙が貼り出される。


それだけだ。


ざわ、と人の波が動く。


「出たぞ」


誰かが言った。


受験者たちが一斉に掲示板へ向かう。


エレナとアンソニーも、人の隙間を縫うようにして近づいた。


 


合格者一覧。


そこには十数名の名前が並んでいる。


エレナは上から順に視線を動かした。


一行目。


二行目。


三行目。


 


(……あれ)


 


もう一度、最初から見直す。


ゆっくり。


丁寧に。


だが。


どこにも――


 


アンソニーが「え、マジ?」


と言って掲示板を覗きこむ。


自分の名前をすぐに見つけたらしい。


少しだけ肩の力が抜けたように笑う。


 


「よかったね」


エレナが言う。


アンソニーは振り返った。


「……エレナは?」


 


エレナはもう一度紙を見る。


上から。


下まで。


 


ない。


 


「……落ちたみたい」


 


アンソニーが固まった。


「は?」


 


「いやいやいや」


掲示板を指差す。


「待て待て待て」


「絶対おかしいだろ」


 


紙を何度も見直す。


「いやお前、実技めちゃくちゃ早かったじゃん」


「面接だって普通だったろ」


 


エレナは少し苦笑した。


「普通じゃなかったかも」


 


アンソニーは顔をしかめる。


「……あの監察官」


 


思い出す。


灰銀の瞳。


氷の刃みたいな視線。


 


「ケンカしただろ」


 


「ケンカじゃない」


 


「いやケンカだろ」


 


エレナは肩をすくめる。


「まあ、ちょっと反論はした」


 


アンソニーはため息をついた。


「監察官に?」


 


「うん」


 


「お前ほんと……」


 


言いかけたその時だった。


 


「エレナ・ノクティス」


 


静かな声が呼んだ。


 


振り向くと、学院の職員が立っていた。


 


「監察官がお呼びです」


 


一瞬、空気が止まった。


 


周囲の受験者たちが振り向く。


 


「監察官?」


「呼び出し?」


 


ざわ、と小さなざわめきが広がる。


 


アンソニーが小声で言った。


「……やっぱりケンカじゃねえか」


 


「違うって」


 


「絶対怒られるやつだろ」


 


エレナは少しだけ困った顔をした。


 


「まあ……」


 


否定できない。


 


職員が言う。


「こちらへ」


 


エレナは頷いた。


 


「行ってくる」


 


アンソニーは腕を組んだ。


「無事帰ってこい」


 


「大げさ」


 


「監察官だぞ」


 


エレナは苦笑して歩き出す。


 


学院の廊下を抜ける。


石の階段を上がる。


さらに奥へ。


 


普段は来ない区域だった。


 


占星府の執務区画。


 


廊下の空気が変わる。


静かで、重い。


 


突き当たりに、大きな扉があった。


 


職員がノックする。


 


「監察官。エレナ・ノクティスをお連れしました」


 


短い沈黙。


 


内側から声が返る。


 


「入れ」


 


低い声だった。


 


扉が開く。


 


職員は一礼し、去っていった。


 


エレナは一歩踏み入れる。


 


広い部屋だった。


 


窓から差し込む光。


書棚。


机。


 


そして。


 


その奥に、男が座っている。


 


黒い外套。


長い脚を組んだ姿勢。


 


灰銀の瞳。


 


監察官ルシアン・ヴェリオナ。


 


彼は書類から視線を上げた。


 


「座れ」


 


短い言葉。


 


エレナは椅子に腰を下ろす。


 


沈黙が落ちる。


 


やがてルシアンが言った。


 


「星位昇格試験だが」


 


エレナの背筋が伸びる。


 


「不合格にしたのは私だ」


 


エレナは目を瞬いた。


 


「……そうですか」


 


思ったより落ち着いた声だった。


 


ルシアンは観察するようにエレナを見る。


 


「不満はあるか」


 


「少しだけ」


 


「ほう」


 


エレナは正直に言った。


 


「理由が気になります」


 


ルシアンはしばらく黙っていた。


 


そして言う。


 


「能力の問題ではない」


「むしろ逆だ」


エレナは首を傾げる。


 

「逆?」


ルシアンの灰銀の瞳が細くなる。


「お前の星読みは


 危険だ」


危険って?と聞き返しそうになったが、

目の前の鋭利な美貌の圧を感じて黙る。


「だからこそ、お前は私の下で働け」


エレナは言葉を失った。


「じ、時間をください」


と狼狽するエレナから手元の書類に目線をうつし、

ルシアンは指先を組む。


「3日だ」

「3日後の6時、監察局に来なさい

 それ以降は返事は不要だ」

 

「それと、アレクシス・ノクティス」


その言葉で、エレナの心臓がわずかに跳ねた。


ルシアンは静かに言う。


「お前は、血縁者で間違いないな」


エレナはゆっくり瞬きをした。


どうして。


 


監察官が。


 


祖父の名前を。


 


「……はい」


 


そう答えると。


 


ルシアンの視線が、ほんのわずかに深くなった。


 


「やはりな」


 


小さく、そう呟いた。


 


その声には。


 

どこか確信の色が混じっていた。



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