第1章 星位昇格試験
待機室は、妙に静かだった。
面接試験の前の緊張はあるものの、
それにしてもどこか張りつめた空気が漂っている。
長机を挟んで、受験者たちが思い思いに座っている。
学院卒業後数日の元六年生が二人。
占星府の若手職員が十人ほど。
そして、学院生は。
エレナ・ノクティスとアンソニー・セリヴェルの二人だけだった。
「……やっぱり見られてるな」
アンソニーが小声で言った。
「まあ、そうだよね」
エレナは肩をすくめる。
無理もない。
学院生、それもまだ四年生の年齢でこの星位を受験する者はほとんどいない。
初めてではない視線だった。
昇格試験のたびに、同じような反応をされる。
だから二人とも、今ではもう気にしていない。
「それより」
アンソニーがぼそりと続ける。
「さっきの星学、やらかした」
「え」
「計算一個、単位違っているのに途中で気づいた。たぶん一問落とした」
「一問なら大丈夫でしょ」
エレナは軽く言う。
「星学は?」
「たぶん満点」
「じゃあ大丈夫」
あっさり断言すると、アンソニーは微妙な顔をした。
「お前なあ……」
言いかけたその時だった。
コン、コン、と。
扉がノックされた。
一瞬で、室内の空気が変わる。
誰かが椅子を引く音。
誰かが息を整える音。
扉が開いた。
まず視界に入ったのは、黒い外套の裾だった。
静かに床をかすめる布。
次に現れたのは、すらりとした長身の影。
無駄のない体躯。
背筋の伸びた立ち姿は、どこか軍人を思わせる。
足音はほとんどしない。
それでも、
その人物が一歩踏み込んだだけで、部屋の空気は完全に支配された。
視線が、ゆっくりと室内を巡る。
灰銀の瞳だった。
冷たいわけではないが、逃れようのない圧がそこにある。
視線が一人ひとりを確認するように動く。
六年生。
占星府の職員たち。
そして――
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
その瞳が、エレナの上で止まった。
わずかな沈黙。
気のせいかと思うほど短い時間だった。
だが。
その視線の奥で、何かが確かに揺れた気がした。
「……」
次の瞬間には、何事もなかったように視線は外れる。
男は室内の中央で足を止めた。
静かな声が落ちる。
「監察官、ルシアン・ヴェリオナだ」
その名が告げられた瞬間。
部屋の緊張は、さらに一段階深く沈んだ。




