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【短編小説】17年蝉

掲載日:2025/12/21

「あー、猫は人気なのでかなり待ちますよ」

 白いじゃがいもの様な造形をした物体が素気なく言う。

 素気ない、と言うのはその音から判断しただけで実際は呆れていたり笑っていたりするのかも知れない。

 とにかく白いじゃがいもの様なものに顔が無いので何も分からなかった。

 おれも今は似たような形をしているのだろう。

「やっぱ生物は人気ですか?」

「そうですね、比較的サイクルが早いのもあって人気傾向が強いですね」

 白いじゃがいもが、手──触手とも言うべきか、芽なのか、本体から伸ばした何かを揺らしがら言った。


 おれもその板状の何かに視線を落とすが何も見えない。

「植物ってどうなんですか?」

「サイクルが長い分、与えられるカルマの量も緩いのでその方が良いと仰る方も少なくないですよ」

「とは言え長いですよね」

「まぁ一般的には長いとされますね」

 何万回も同じやりとりを繰り返してきただろう白いじゃがいもは、それでも丁寧に受け答えしている。


 その丁寧さのまま、伺うような声で

「まぁ生物でもナメクジとかミミズなんかは並ばずに行けますけど」

 と言った。

 おれは考える間もなく抵抗した。

「それはちょっと……」

「大丈夫ですよ、今の意識が保たれる訳じゃないので」

「とは言えですよ」

 何となく厭だ。


 白いじゃがいもは分かりきっていたと言うように短いため息をついた。

「まぁ皆さんそう仰いますね」

 改めて白いじゃがいもの様な存在を見る。

 これが何を意図した造形なのか、どんな理由でここにいるのか。

 もしかしたら、彼らもおれと同じような存在だったのかも知れない。

 そして仕事としてここにいる。

 もし仕事としてここにいるのなら、どんなみかえりがあるのだろう。

 そう言えば生前に眺めていたマンション下の交差点には、よく交通違反者たちが減点免除の代わりに交通整理などをしていたけれど、似たようなものだろうか。



「まぁそんなところです」

 白いじゃがいもはこちらの思考を読んだのかこともなげに答えた。

「あまりお勧めしませんよ、スパンが長い上にカルマの量も穏やかとは言えないので」

 後悔では無いにしても、疲れたような声だった。

 なるほど、そう言うものか。

 白いじゃがいもは滞りかけた空気を変えるような高い声で話を再開した。



「あ、どうしても都内の猫が良いと仰るようでしたら、北区や足立区の雑種などはそこそこ待ち時間が短いですね」

 地域猫ってのもありますよ、と言う。

 つまりは野良猫だよな。

「やっぱ港区の血統書付きは難しいです?」

 メシと寝床の確保をしたい。

 自由なんて要らんのだが、現実は厳しいらしい。

「いやー、厳しいですねぇ。地方のブリーダー経由で都内のペットショップと言うルートもありますが、あまり期待はできないです」

 特に地方のブリーダーはね、と言って言葉を濁した。

 多頭飼いで崩壊したニュースを見た事がある。そう言うことだ。


 猫人気の高さには参った。

 さっきから遠回しに猫をやめろと言われているのは理解している。

 でも猫がいい。

 存在しているだけで全てが許される存在、と言うものに対する全国民的な理解が素晴らしい。


 白いじゃがいもが続ける。

「まぁ猫に限らず人間もそうなんですよ。良家は待ちますし、条件を下げると……ねぇ?」

 また人間をやりたい奴もいるんだな。

 やり直したいものだろうか。

「北区とか足立区の貧困家庭とかは早いと」

「まぁ有体に言うとそうですね」

 別におれはまた人間をやりたいとは思わないが、どうしても人間と言うのであれば慣れた日本人が良い気になってしまう。

 それならマシな地域が良いなと考えてしまうからそれも当然だ。

 いくら生前の記憶などが引き継がれる訳じゃないとは言え、知らない国のスラム街で上手くやれる気もしない。


「あ、予約待ちします?」

 白いじゃがいもが思い出したように言った。

「例えばですけど、世田谷区の猫とかに予約しといて、その間は他の生物で過ごして頂く事になります。その代わり、その他の生物での活動が終了したら優先的に世田谷区の猫をやれます」

「そんなパスあるんですか?」

「はい、あまりにも猫が人気で最近になって実験的に導入されました。まぁみなさん、割と仮初の転生に満足されてますがね」


 すっかり忘れていたのか、埒があかないので早く終わらせたいのか。

「じゃあその猫を予約してみます」

「かしこまりました。ではその間の生物や植物をお出ししますね」

 あれ、それはこっちで選べる訳じゃないのか?と訊こうとすると白いじゃがいもは「えぇ、そんなに色々と選べませんよ」と当然かの様に言った。


 たしかにあれもこれも選べる訳が無い。そこまで優しいシステムじゃないか。

 黙って待っていると、白いじゃがいもはひとつの札を持ってきて

「お待たせ致しました。それではこちらが猫の予約票です。こちらはそれまでの仮初の生物になります。これをもってあちらの出口から進んで下さい」

 と言った。


 おれはその札を持って出口と呼ばれた黒い空間に向かった。

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