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やみ、きさらぎ、かたす、…

作者: 森田
掲載日:2025/11/08

あれは今から何年も前のこと。私が遠州鉄道に乗ったときのことだった。私はいつものように夜遅くに退社し、終電に近い電車に乗った。今回は空いており、席に座ることができた。私は憂鬱だった。

(もう嫌だな。会社では毎日こき使われてばかり。友達と言える人もいない。もう死んでしま…)



(あっ、寝てたんだ)

「次は冥水(めいすい)、冥水です。冥水でございます。」

電光掲示板には''冥水''と表記されていた。

(あれ、そんな駅あったかな)

少し肌寒い気がする。窓の外を見ると、電車の左側に非常に大きな湖が広がっている。果てが見えないくらいの大きさだ。そして、手前側の湖の縁には桜が咲き誇っている。季節外れの桜だ。

やはり何かおかしい。


電車が駅についた。電車にも駅にも誰もいなかったが、誰かが乗ってきたような気がした。

(気のせい、だよね)

ここは別世界なのかもしれない。ならば、ここで降りるべきなのか分からない。考えているうちにドアが閉まった。

「次はやみ、やみです。やみでございます。」

(あれ?)

電光掲示板の文字はぐちゃぐちゃで、読むことができなかった。

気が付くとうっすらと人の姿が浮かんできたことに気付いた。

「あぁ…」

私はとても怖かった。数人おり、その姿はまるで心霊写真に写る霊のようだった。頭部が特に透けている人、目が黒い人、顔面蒼白の人、生気のない黄土色の人がいた。知りたくもなかったが、幽霊は多種多用らしい。


駅に着き、ドアが開いた。その駅は名前にふさわしく、深い闇に包まれているようだった。小さな駅舎があったのだが、それは古いものだった。

数人が降り、数人が乗り込んだ。その中には3メートル近くもありそうな真っ黒な人や着物姿で何本も狐の尻尾のある女性もいた。

いつの間に私の正面に着物姿の老婆が座っていた。彼女だけが人間らしい姿だった。


ドアが閉まり、電車が走り出した。

「次はかたす、かたすです。かたすでございます。」

電光掲示板は全く稼働していないようだった。

気が付くと幽霊たちは、よりはっきりと見えていた。

さらに、何やら話し声も聞こえる。

''おおお''

''もう~少し''

''おおお母さん~''

間延びしたような声だ。正面の老婆は何も話さなかった。

外を見ると、かろうじて森が見えた。さらに、木のうち数本が宙に浮いている。そういえば、少し体が軽くなった気がする。

(どうなってるんだ。もう嫌だ。帰りたい。)


電車は止まることなく駅に着く。駅舎はさっきのものと似ていたが、木のベンチが宙に浮いている。


気が付くと、再び発車していた。

「淤タ、4迴;習蠡ョ"※はざまでござい¿齒↑ヤ龢」

音声がおかしい。乗客は遠い目をしているが、恍惚の表情を浮かべている。

電車はトンネルに入った。

(あれ、なぜか心地がいい。まるでこのために生まれてきたみたいだ)

なぜか私の幼少期や胎内にいた時のことを思い出す。そして、私が知らないようで知っているような出来事の数々が頭に流れてくる。体に力が蘇ってきた。


この時間は長いようでもあり、あっという間のようでもあった。トンネルの先の方が急に明るくなり、抜けた先は非常に明るく思えた。私は思わず目を細めた。

明るさに順応してくると、周りの景色が見えてくる。

地面も空もないような空間は鮮やかで少しやさしい虹色に見えた。そして、なぜか木々や車、家や瓦礫などが浮かんでいた。

(ここが、狭間?)

どの程度離れているかは不明だが、奥には広大な花畑と川が見える。

(嫌だ、まだやり残したことがあるのに)

そして、今度は明らかな浮遊感を感じた。電車は宙に浮いていた。だが、止まらずに走り続けていた。その先は黒と虹色が混ざったような空間で、ゆっくりと回転していた。その先には何もないようだ。

乗客たちは恍惚の表情を浮かべたまま、少しずつ消えていった。

''お母…さん。さよう、なら。''

"もう1度~。1から~。"

そして、優しそうな表情を浮かべて老婆が言った。

"わしはこれから還る。それもわしが望んだことさ。だが、お前さんはまだ行くべきではないよ。"

(待って、1人にしないで!)

さらに私の体も軽くなっていき、少しずつ透けてきた。

(それでも、まだ生きていたいんだ!)

すると、目の前が白い光に包まれた。目の前には祖父母が立っている。

「おじいちゃん、おばあちゃん!」

祖母が言った。

"今までよく頑張ったね。でも、まだこっちに来るには早過ぎるね。"

祖父が言った。

"久しぶりじゃな。こうして孫と話せて嬉しいよ。"

「どうして、会えてるの?」

"それはね、○○が死にかけているからだよ。あとはそんなに天国から遠くないし。"

"だいぶやつれとるのう。あんな会社なんてやめてしまえ!"

"まあまあ、おじいさん。それはこの子が決めることだよ。"

「うん、あんな会社はもうやめるよ。…本当はやりたいこともあるし。」

"それがいい!自分の好きなように生きていいんじゃ!"

「でも、私はこのままあの中へ行くから、それもできないんだ…」

"いや、そうはさせないよ!○○に生きる意志があるから、私達が元の世界に戻すよ!"

体がまばゆい光に包まれた。

「ありがとう。おじいちゃん、おばあちゃん。またね。ずっと先のことだけど、また会おうね。」

"いや、今度のお彼岸の時に遊びに行くさ。まあ、わしらのことは見えないじゃろうが。そうだ、仏壇に月餅でも置いといてくれ。あの香りが美味しいんじゃ。"

"もう、じいさんったら欲張りなんだから。じゃあ、欲張りな私もみかんをお願いしていいかい?"

「ふふ、もちろんだよ。今度のお彼岸が楽しみだな。」

"じゃあね。ずっと後になるけど、また話そうね。"

"またなー。"



ガタンゴトン

聞き覚えのある音がした。気が付くと電車に戻っていた。

どうやら、放送も電光掲示板も元に戻っているようだった。

「次は新浜松、新浜松。終点でございます。」

やった。ついに帰ってこられたんだ。


家に着いた。

「ただいま。」

父が言った。

「おお、お帰り。お母さんはもう寝てるよ。」

(あれ、普通の反応だ。何時間も何日もたったんじゃないのか?)

ふと携帯を確認すると、日付は変わっておらず、いつもと同じくらいの時間だった。

(でも、本当に長かったような気がするな)

色々と気になることがあり、布団に横になって少し考えたが、疲れていたせいかすぐに眠ってしまった。


次の日はまず、両親に会社を辞めようと思っていることを話した。両親は驚きもせず、喜んでくれた。

父が言った。

「よし、よく言った!」

そして母もこう言った。

「そうだ、だったらずっとやりたかった農業をやってみたら?」

「そうしたいけど、それでいいのかな?」

「それでいいの。それに、お父さんとお母さんが生きてたら好きなことをやるように言うはずだし。」

「よし、そうと決まれば辞表を突きつけて○○の上司を殴りに行くぞ!」

「ちょっとあなた!落ち着いて!」


それから、私は1人で会社に行き、辞表を出した。皆驚いていた。私が辞めることだけではなく、私の堂々とした態度にも。




それから、しばらくたった今、これを執筆している。今では農業も軌道に乗り、友人もできた。

「ねえ、何してるの?」

そして、娘も産まれた。

「ちょっとね。」

「あれ?ずっと前に一緒に電車に乗ってなかった?それで私が何か話して…。」

!!やっぱり。そのような気がしていた。娘は産まれてから電車には乗ったことがなかった。

「え、聞こえないなあ。」

「だからね、」

「あ、ごめんね。隣のおじさんが呼んでるみたい。」

「もう、待ってよぉ!」

まだこの子は小さいのでやめておくけれど、いつかは話そうと思う。私自身の体験も。もちろん私にも分からないことが多いが。


私達は幸せに暮らしている。あの出来事でのおかげで生きる意志と決心する勇気を得ることができたので、あれは悪い出来事だとは言い切れないだろう。そして、あの時会社を辞めた選択を私は決して後悔していない。私は死後祖父母や両親達とたくさん話してからまた生まれ変わろうと思う。しかし、今後悪いことをし過ぎると自分の望む所には行かれないだろう。私はこれからも真っ当に生きていこうと思う。

皆さんも自らが望まないような生き方をする必要はない。

どうか自分の好きなように生きてくださることを切に願う。


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