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婚約破棄してスローライフを目指します!〜悪役令嬢に転生したけど、破滅ルートなんてごめんだわ〜  作者: seika


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6/8

婚約破棄の夜会

「第二王子ユリウス・アーデン殿下と、そのご婚約者リリアナ・アーデン公爵令嬢。どうぞご挨拶を――」


 視線が私へと集まる。ユリウスが一歩前に出て軽く眉をひそめた。まるで面倒な義務を思い出したかのように。


「……殿下」


 私がそう投げかけると、ユリウスは怪訝そうにため息をつき、形式だけのように腕を差し出した。その腕を誰が掴むと思っているの?


「その前に、一つだけ申し上げますわ」


 ホールが静まり返る。殿下が口を開くよりも早く、私は微笑みを浮かべながら言った。


「私は……第二王子ユリウス・アーデン殿下の婚約者を辞退させて頂きます」


 つい先ほどまで優雅に流れていた演奏がぴたりと止まり、その場にいた全員が凍りついた。


「なっ……! 君は何を言って――」


「そのままの意味ですわ。あなたの婚約者はアメリア様がふさわしいと思いまして」


 彼女はまるで夢でも見ているかのように目を見開く。そう、これはヒロインが望んだ結末。リリアナを排除して王子と一緒になるという。


 ――だけど、果たして望み通りになるかしら?


 私は懐から一通の書類を取り出す。それはアーデン家の紋章入りの金印が押された、正式な婚約破棄証書だった。


「ついでにこちらもご覧になって。この事実を知ってもなお、彼女を愛せる自信があるのならね」


 わたしは扇を広げ、書類を大胆にばらまいた。無数の紙が宙を舞い、貴族たちの足元に降り注いだ。


「――これは、アメリア・ブラン伯爵令嬢が“慈善活動”と称して行っていた活動記録ですわ。“私が彼女を突き落としたとされた日”には、彼女がスラム街の路地裏で孤児院の神父と会っていたという目撃証言があります」


 私は一歩踏み出し、声を張り上げた。


「なぜ、こそこそする必要があったと思います?それはアメリア様が神父と手を組んで孤児を売っていたからです」


 そう、これが私の切り札。


 会場のざわめきが波紋のように広がった。アメリアの顔から血の気が引く。


「な、なにを……で、でもこれは、誤解です! 全部リリアナ様が――!」


「アメリア様が現在進めていらっしゃる慈善院の建物の中には、地下に子供達を商品として閉じ込めておく檻や鎖、取引先の貴族リストなどがありましたわ。規模が大きくなった分、多くの孤児たちを隔離しておく場所が必要になったのでしょうが……爪が甘かったですね。隠すならもっと上手にしないと」


 カイの少々荒っぽい調査で判明した事実。慈善活動と称して集めた金は、神父とアメリアの贅沢に使われていた。しかも、私の化粧品事業の品を買い占めていたので、アメリアの資金の流れを辿るのは簡単だった。すべてこの調査書が証明している。


 ――もう、逃げられないわね。


「そう。あなたが“天使”を演じるのがお上手なのは、よく知っているわ。でも――仮面って、いつかは剥がれるものよ」


 わたしはまっすぐユリウスを見据える。


「殿下、あなたが信じた“天使”がどんな顔をしていたか……お分かりになりましたか?」


「そ、そんな……まさかアメリアがそんなこと……」


 殿下は震える声で調査書に目を落とす。彼の唇が震え、言葉を失った。その間にも貴族たちのざわめきはどよめきへと変わり、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。


「孤児を……売っていたのか?」

「まさか、そんな馬鹿な……」

「おい! この取引先の貴族!! あいつだ!!」


 孤児の取引に関与していた貴族はその場で取り押さえ、会場は騒然。混乱と悲鳴が入り混じっていた。アメリアは顔を覆ってその場に泣き崩れる。だが、その涙にはもう誰も同情しない。音楽の消えた会場に、彼女の嗚咽が虚しく響いていた。


 ――終わった。


 私はスカートを翻し、静かにその場を後にした。白い大理石の床をかすめるヒールの音だけが、夜の静寂に溶けていった。その夜、リリアナ・アーデン公爵令嬢は貴族社会から姿を消した。


 月明かりの下でカイが隣に立つ。


「……お嬢様の勝利ですね」


「ええ。これで私の人生は誰にも邪魔されることはないわ」


 月光が差し込み、白い床に光の筋を描く。その中を私はカイと共に、ゆっくりと歩き出した。

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