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婚約破棄してスローライフを目指します!〜悪役令嬢に転生したけど、破滅ルートなんてごめんだわ〜  作者: seika


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5/8

微笑む天使の影

 鈴を転がすような声が部屋に響いた。その声と共にアメリアが侍女や護衛たちを引き連れて、まるでこの部屋が自分の領地であるかのように、ずかずかと入ってきた。


 私は小さくため息をつき、動揺することなく淡々と言った。


「あら、アメリア様。ごきげんよう。訪問のお手紙をくださればお出迎え致しましたのに」(要約:急に乗り込んでくるなんて非常識だと思わないの?)


 私の態度がお気に召さなかったのか、可愛い顔がほんのわずかに歪む。


「じつは気になることを耳にしまして……急いで来ましたの」


 アメリアは胸の前で手を組み、悲しげにまつげを伏せた。


「わたしが進めている慈善院の件で、リリアナ様が()()なさっていると……そんな噂を聞いてしまって」


 部屋の空気がぴんと張り詰める。


「……まあ、誰がそんなことを?」


 穏やかな声を保ちながら問い返すと、アメリアはわざとらしく首を傾げた。


「さあ、誰だったかしら……でも皆さん困っていましたわ。“平民の子どもなど、助ける価値がない”とおっしゃっていたと――」


「……は?」


 そんな話、初耳だ。

 思わず口調が素に戻りかけ、カイが小さく咳払いをして私を制した。アメリアはその様子を見て、さらに首を傾げ、まるで用意していた台詞のように続けた。


「もちろん、わたしは信じていませんの。ただ……皆さんがあまりにも悲しそうでしたから……」


 その声は小さく、震えるように優しい。まるで心配して来た善人を演じながら、私の評判をじわじわと削ってくる。


 アメリアの侍女たちの目がすぐこちらへ向いた。ひそひそと囁きが走りそれが見えない糸のように屋敷中へ、そして町へと広がっていくわけね。


 ――うまい。完全に嵌められたわ。


 悪役令嬢の評判を聞いても私が落ち込んでいないから、ここで畳み掛けようってことね。


「ご心配ありがとうございます。ですが、私はそのようなことは一切口にした覚えはありませんわ」


「まぁ、そうでしたの? わたしったら思い違いをしてしまったようで……。殿下には、“子供になんて興味がない”とリリアナ様がおっしゃっていたと、つい伝えてしまいましたの。本当に……ごめんなさいね」


 泣く演技をしながらフラフラと私に寄りかかるアメリア。そして私にしか聞こえないよう、耳元に唇を寄せてクスッと笑った。


「そしたら殿下ってばね、リリアナ様との子供は作る気がないなんて仰るのよ。そのようなこと、女に死ねと言ってるのと同じですわよね? ……リリアナ様?」


 完璧な天使の笑みを浮かべたまま放たれた言葉に、全身がこわばった。


 ――この女……本気でそんなことを?


「……ご心配には及びませんわ。真実はそのうち、皆さんが理解してくださいますもの」


 にっこりと笑い返す。

 ……そう、耐えるしかない。今はまだ。


「あら、そうだわ! 来週の舞踏会、殿下に頂いたドレスを着て参加しますの。またその時お会いしましょうね」


 アメリアの背中から小さな笑い声が聞こえた。まるで全てが、自分の思い通りに進んでいるとでも言いたげに。


 ♢♢♢


 夜会のホールはまばゆい光に包まれていた。シャンデリアの下、音楽と笑い声が渦を巻く。舞踏会は想像以上に華やかだった。だけど、それに反してわたしの心は静かだった。


 エスコートしてくれていたカイが控えめに囁く。


「……本当に、後悔なさらないのですか?」


「ええ。ここまできたら、終わらせてあげないとね」


 チラッと視線を移した先には、ピンクのドレスをまとったアメリアが花のように微笑みながらユリウスの腕に手を絡めていた。その姿を愛おしそうに見つめるユリウス。周囲の視線はすべて二人に注がれていた。羨望と憧れ。貴族令嬢たちのさざめきが空気を甘く染めていく。私はこの場に場違いな漆黒のドレスに身を包み、ただ静かに見つめていた。


 婚約者に無視され、笑いの的にされる悪役令嬢。


 ――それも今日で終わりよ。

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