第4話 巨岩のブロック、切り株をぶっこ抜く!
【アルノルト視点】
俺の前に立つ大男は、まるで岩の塊から削り出されたような男だった。全身の筋肉が分厚い鎧のように盛り上がっているが、中でも特筆すべきは、地面に届きそうなほど太く長い二本の腕だった。
その男が、武骨な顔に似合った低い声で口を開いた。
「よぉ、若旦那。俺を雇わないか? 俺はこのあたりで一番の力持ちなんだ」
その声と姿に、俺を取り巻いていた人だかりがさっと引いていく。そして、ひそひそと囁き声が交わされ始めた。
「おい、アレ『巨岩のブロック』だぞ」
「あいつが来たんじゃ、俺たちは雇ってもらえねぇ」
「チッ、今日はツイてねえぜ」
人々の反応で、このブロックと名乗った男が本物であると確信した俺は、思わず口角を上げた。
「その体躯、見事也! よかろう、汝を雇おうではないか!」
(あっ、いけね! つい軍師時代の口調で話してしまった)
俺は内心で舌を出すが、時すでに遅し。俺の古風で威厳のある物言いは、住民たちの耳に届いてしまっていた。
「まさか、あの若旦那、どこかのお偉いさんじゃ?」
「なんか着ているものもいいぞ」
「ああ、新しい領主様かもしれねぇ」
遠巻きにされる俺をよそに、『巨岩のブロック』はニカッと人懐っこい笑みを浮かべた。その笑顔は、彼のいかつい風貌との間に不思議な愛嬌を生み出している。
「本当かい、旦那! ありがてぇ!」
俺は契約の証として手を差し伸べた。しかしブロックは、悲しそうに首を横に振る。
「すまねぇ、旦那。俺は力が強すぎて、下手に握手すると相手の骨をつぶしちまう。これで勘弁してほしい」
そう言うと、ブロックは深々と頭を下げた。その丁寧な仕草に、俺は彼の誠実な人柄を垣間見た気がした。
「分かった。君の誠意は伝わったよ。さて、家へ向かう前に街で買い物を済ませてしまおう。仲間が増えたんだ、食料も道具ももっと必要になるからな」
俺の提案に、ブロックは「おう!」と力強く頷いた。
俺たちは早速、市場へと向かった。俺が食料品店で麦や豆の袋、大きな干し肉の塊を次々と購入していく。店の主人が「荷馬車でもなきゃ運べませんぜ」と呆れるほどの量だったが、ブロックはそれをものともしない。
ひょい、と米俵でも持ち上げるかのように軽々と両肩に担ぎ上げてしまった。
「旦那、次はどこだ?」
「次は……鍛冶屋で新しい斧と鍬を頼もう」
市場を歩いていると、果物屋の店先でリナがふと足を止めた。その視線の先には、真っ赤に熟したりんごが積まれている。
「リナ、りんごが欲しいのか?」
「えっ!? い、いえ、そんな……」
慌てて首を振るリナに、俺は優しく微笑み、りんごを三つ買った。一つをリナに渡すと、彼女ははにかみながらも、とても嬉しそうにそれを受け取った。
買い物を終えて街の門を抜ける時、道行く人々が俺たちを振り返るのを感じた。山のような荷物を軽々と運ぶブロックと、その隣でりんごを頬張るリナ。そんな二人と歩いていると、なんだか不思議な気分だった。まるで、昔からこうしていたかのような……。
――そして、俺の領地に戻ると、森林の開拓は嘘のように進んだ。
俺が半日かけてもびくともしなかった切り株の前に立ったブロックは、その巨大な両手で根をがっしりと掴む。
「ふんっ!」
短い気合と共に、丸太のような腕の筋肉が凄まじく膨れ上がった。次の瞬間、バリバリと大地が裂ける音を立てて、巨大な木の根がいとも簡単に引っこ抜かれてしまったのだ。
(こんな辺境に、これほどの逸材がいたとは……世の中はまだまだ広いな。おおっといかん、今の俺はただの農民だったな)
その晩は、俺とリナ、そしてブロックの三人で、小屋の前の焚き火を囲んだ。今日買ってきたばかりの干し肉が入った、いつもより少し豪華な麦がゆを、俺たちは仲良くすすった。
「旦那、この小屋は小さいからよ。俺が寝たら壊しちまうかもしれねぇ。俺は外で寝るぜ」
「そうか……分かった」
豪快に笑うブロックに、俺は静かに頷いた。
(ふむ、彼の住む小屋も作ってやらないとな。もう一度、街の大工を呼ぶか……)
こうして、頼もしい仲間が一人加わった。森の開拓が、いよいよ本格的に始まる。そう思うと、不思議と心が躍った。
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