表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若隠居軍師はのんびりスローライフを送りたい(送らせてもらえません)  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/24

第13話 腐敗した軍

【アルノルト視点】


 バルト卿の計らいで、俺たちは豪華な食事が並ぶテーブルに着いていた。

 先ほどまでの再会の喜びは、シルヴァンがもたらした王都の空気に、すっかり影を潜めてしまっている。その重苦しい雰囲気を察してか、バルト卿がおもむろに口を開いた。


「シルヴァン殿。……王都の軍は、今どうなっておるのだ? アルノルト殿ほどの男が軍を去り、貴殿のような方が閑職に追いやられるとは、到底看過できん話だが」


 シルヴァンは、手にしたグラスの中で赤いワインを揺らしながら、自嘲気味に笑った。


「どこからお話ししたものですかね……。今の王国軍は、もはや我々の知る精兵ではありません。すべては、あのグラハム軍務大臣が実権を握ってからです」


 そして、彼はゆっくりと、しかし淀みなく、軍の惨状を語り始めた。


「一つ目は、血縁登用による無能な指揮官の乱立。……先月、北の国境で小競り合いがあったのですが、指揮官に任命されたのは、グラハム大臣の甥だというだけの、実戦経験ゼロの若造でした。歴戦の猛者であるはずの副官の進言をことごとく退け、教科書通りの突出陣形を取った結果、見え透いた罠にはまり、百名以上の兵を無駄死にさせたそうです」


 俺は黙って拳を握りしめた。百という数字は、ただの数字ではない。百人の人生と、その家族の未来だ。


「二つ目は、装備の質の低下。王都を守る近衛騎士団の鎧だけは、見栄えのためにピカピカに磨かれていますが、我々のような辺境に回される武具は酷いものです。先日も、新しく配備されたという長剣を検分しましたが、鋼の質が劣悪で、数回打ち合えば簡単に折れてしまいそうな代物でした。本来の予算は、大臣とその取り巻きの懐に入っているのでしょう」


 バルト卿が、ぐっ、と息をのむ。辺境を守る彼にとって、それは他人事ではなかった。


「そして三つ目が、有能な人材の排斥です。俺たちの元上官だったカイン将軍を覚えてるか? アルノルト」

「ああ、もちろん。清廉で、誰よりも兵を大事にする、本物の軍人だった」

「その将軍が、装備の横流しの件を突き止めた途端、濡れ衣を着せられて予備役へ強制的に編入させられました。……今の軍では、有能であること、実直であることは、罪になるのです」


 シルヴァンの言葉は、俺が軍を去った理由を的確に裏付けていた。俺も、あのまま残っていれば、いずれ潰されていたに違いない。

 その間、リナとブロックは、難しい話は分からないながらも、ただならぬ空気を感じてか、静かに食事を続けていた。


 翌朝、俺たちは街の門で、王都オルティスへと旅立つバルト卿とシルヴァンを見送っていた。


「アルノルト殿、街のことは頼んだぞ。セラがよく補佐してくれるはずだ」

「ええ、お任せください。ですが、卿も王都ではお気をつけて」


 俺の言葉に、バルト卿は力強く頷いた。

 最後に、俺はシルヴァンの前に立つ。


「……死ぬなよ、シルヴァン」

「お前もな、アルノルト。どうやら、退屈な隠居生活は、まだ少し先になりそうだぞ?」


 軽口を叩きながらも、その目には確かな覚悟が宿っていた。

 俺とシルヴァンは、言葉の代わりに、ガッチリと固い握手を交わした。

 やがて、二人が乗った馬車はゆっくりと動き出し、王都へと続く街道の向こうへと消えていく。俺は、その姿が見えなくなるまで、ただ黙って見送ることしかできなかった。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ