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第11話 旧友との再会

 俺は重い足取りで、釣り場から小屋へと戻った。

 畑の脇に立つ簡素な我が家の前に、場違いなほど立派な服を着た二人の男女が立っている。リックとセラだ。普段の軽装や鎧姿とは違う正装は、俺たちの開拓地ではひどく浮いて見えた。


「お待ちしておりました、アルノルト殿」


 俺の姿を認めるなり、セラが硬い表情で頭を下げる。その隣で、リックも緊張した面持ちで佇んでいた。


「それで、一体何の用なんだ? そんな改まった格好までして」


 俺がぶっきらぼうに尋ねると、リックがおずおずと口を開いた。


「実は、父上が王都へ赴くことになりまして……。先日の野盗襲撃と、その撃退についての報告のためです」

「それで、父が留守の間、アルノルト殿にクレアの街の防衛指揮を、せめて名義上だけでもお引き受け願えないかと……」


 頭が痛い。ただでさえ週一の訓練で手一杯だというのに、今度は街の責任者だと?

 だが、話はそれだけでは終わらなかった。


「……それに、今、父の屋敷に王都からの使者の方がお見えになっています」

「使者?」

「はい。その方が……アルノルト殿を、ご指名で……。どうか、一度お会いいただけないでしょうか」


 リックの懇願するような目に、俺は言葉を失った。王都からの使者、そして俺を名指し。最悪の予感が背筋を走る。俺が隠居生活で最も避けたかった事態、そのものだ。


「……はぁ……。仕方ない、行こう」


 ここで断ったところで、面倒事が大きくなるだけだ。俺は観念し、一行はまたしてもクレアの街へと向かうことになった。


 街に着くと、俺はまず先日服を注文した仕立て屋へ向かった。王都の使者に会うのに、俺は釣り帰りの薄汚れた服、ブロックに至っては麻袋では話にならない。

 幸い、腕利きの店主は約束通り見事な服を仕上げてくれていた。

 俺はシンプルな学者のような、しかし上質な生地の服に着替える。ブロックには、動きやすさを重視した革と厚い麻の丈夫な服。そしてリナには、可愛らしい刺繍の入ったワンピースが用意されていた。くるりと回って見せるリナの姿は、どこかの貴族の令嬢のようだ。

 身なりを整えた俺たちは、バルト卿の屋敷へと足を踏み入れた。


 通された部屋で待っていたのは、緊張した面持ちのバルト卿と、そして――窓辺に立ち、優雅な仕草でワイングラスを傾ける、一人の男だった。

 見慣れない豪奢な礼服に身を包んでいるが、その立ち姿、その雰囲気には、戦場で飽きるほど見知った記憶がある。

 男が、ゆっくりとこちらへ振り返った。


「シルヴァン……お前かよぉ~っ!」


 俺は思わず、軍にいた頃の素の口調で叫んでいた。

 涼やかな目元を細め、懐かしい顔は、昔と変わらぬ笑みを浮かべている。


「フッ、久しいな、アルノルト。息災そうで何よりだ」


 王国騎士団が誇るもう一人の天才。俺の数少ない、かつての戦友が、そこにいた。


「シルヴァン、お前、まだ軍にいたのか?」

「はっはっは、それがな。お前という最高の比較対象がいなくなって、俺の利用価値も下がったらしい。すっかり閑職に追いやられて、こうして辺境への使者ぐらいしかやらせてもらえんよ」


 シルヴァンは肩をすくめ、ワインをくいっと傾ける。その仕草には、諦観と皮肉が滲んでいた。


「お前がいたから、俺は安心して軍を辞めてこれたのに……」

「ああ、お前がもし残っていたら、俺と同じ道を辿っていただろうな」


 その言葉は、今の王国軍が、俺たちがいた頃とは違う場所に成り下がっていることを暗に示していた。

 重苦しい空気を察してか、バルト卿が咳払いをした。


「まあ、立ち話もなんだ。とりあえず、皆で食事でもどうかな?」


 シルヴァンとの再会は確かに嬉しかった。だが、それ以上に、王都や軍が一体どうなっているのか、不安が胸を占めていた。

 ――そもそも、この国の国防は大丈夫なのだろうか?

 一抹の不安を抱えつつ、俺たちは食堂へと向かうのだった。

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