ただの兵士の話
国争いの中、死体が転がる場所で一人の男の兵士が目を覚ました。兵士は周りを見渡しながら状況を確認する。
「負けたのか?」と呟き、自分にはかすり傷のみで斬られた感じがなかった。
兵士は敵の城に入っていく。ゆっくり歩きながら周りを見る。入り口近くには自分の国の兵士の死体がたくさんあったが中に入っていくと敵国の兵士の死体がたくさん倒れていた。壁は血の塊をぶつけたような広がっていた。
通路を歩いていくと上の階から足音がしたのに気がついた兵士は奥の部屋に足を踏み込むと床が崩れ下に落ちる。地下水路のようなところに落ちた兵士。
「ここはなんだ?」
歩き疲れた兵士は少ししゃがみこむ。とそこに一人に影が兵士にちかよる。
「あなたは兵士様ですか?」
「え?」
薄光があたって影が消え姿がはっきりと映る。美しく透き通るような肌にサラサラな髪をした少女だった。服は砂埃がついて汚れていた。
「君はここのお姫様かな?」
「はい、ターブル国の王が娘、ムマリと申します。見たところあなた様は敵国であるセキガン国の兵士でございませんか?」
「そうだ」
「では、私を殺しに来たのですか?最後の一人となっても」
「最後の一人?」
「ええ、戦争は私たちの国が勝ちました」
兵士はなんとなくそうじゃないかと思っていた。だが、信じたくなかった。だが納得できないことがある。
「じゃーなんでこんな…敵の、君の国の兵士がこんな倒れているんだ⁉」
「この戦争が終わってすぐに魔帝国の幹部と名乗るものが暴れたからです」
「⁉」
「私はこの地下に隠れたことで助かったのですが…どうやらあなたのその表情を見る限り私の国も全滅したようですね。そういえばあなた様のお名前を聞いてなかったですね」
「あ、ああ。俺は…」
と全体が揺れる地震とともに天井が崩れ落ちた。
兵士はムマリを抱きかかえて落ちてくる瓦礫から助ける。
崩れ落ちた天井から魔帝国の幹部らしき姿が見えた。兵士は柱の陰でその姿を確認した。
そしてもう一つ人の影があった。二人はその状況を見守る。魔帝国の幹部はその一人と話す。
「まだ、俺を倒せるとでも思っているのか?この幹部である俺を」
「おまえを倒すためなら立ち上がるさぁ。なんせ僕はスレン、冒険者だからね。魔帝国を亡ぼすためにこの世界に来た者だ‼」
スレンはビリビリと電気を纏う輝く剣を握りしめて幹部の前に立ち向かう。自慢の剣に魔力を溜めてそのまま攻撃を仕掛けにかかるスレンだったが、幹部は魔力で作り出した金棒を取り出してスレンの右腕を吹き飛ばした。スレンは叫ぶもそのまま金棒の下敷きにつぶされた。
「俺は魔帝国の幹部ヅイノツ。お前を殺したものだ」
剣を握りしめたスレンの腕が下に落ちたでその状況を見ていた二人は動く。
「ここから出る」
兵士はその場から逃げようと動こうとしたときムマリが止める。
「離せ」
「あなたはそれでも兵士様ですか?」
「もう俺は兵士ではない。戦争に負けてまだ国が残っていたとしても、アイツをどうにかしないと自分の国に戻ってもアイツは俺の国にきて君の国のようになるだけだ」
「なら、あなた様が」
「俺には無理だよ。お姫様。俺は一般兵であり、幹部でも戦士でもない。あいつを倒せる力はないんだよ」
と言ってムマリの手を払って兵士は幹部から見えないように静かに遠ざかろうと動き出す。ムマリは少し考えた後に兵士をまた止めて何か思い出したかのように話す。
「倒せるかもしれません」
「無理だ。いい加減に離せ」
「冒険者様の剣があります」
落ちている剣を見る兵士。
「だが、あれを持っていた冒険者は死んだ。俺が持って戦ったとしても無理だ」
とそこに幹部のヅイノツが二人に気が付いた。
「まだ、生き残りがいたか」
ムマリは考えずにスレンの剣を拾い上げて構える。
「私はこの国の王女です。私が敵を取ります」
「小娘がか…本気なのか?」
ガタガタと震えるムマリだったがまっすぐな目でヅイノツを見る。
「いいぜぇ、その勇気に買って一発だけ斬りかかってきていいぞ」
「え⁉」
「その一撃で倒せるかもな。ほら来いよ」
少し離れた物陰でその状況を見ていた兵士は(むりだ、あの子は死んだ)と思いながらその場を離れる。ムマリは震えながらも剣を大きく振りかぶるもヅイノツの体に剣は斬れなかった。
「なんで?」
「なんで?、当たり前だろうが、剣の技術も持たない小娘が俺を斬れるわけないだろうが。もう一人の男が相手ならまだ可能性はあっただろうがなぁ」
ヅイノツはムマリの首を掴んで持ち上げる。
「これでおしまいだな」
ムマリは苦しく悔しくそして無能な自分や敵をとれなかった気持ちで涙を流す。最後に思うのはあの兵士がちゃんと逃げられただろうかと心配していた。瞬間、ヅイノツの真後ろで爆破が起きた。
「何ぃ!!」
そのあとも爆発が2.3発が起きた。爆発によってムマリから手を放す。砂埃で回りが包まれたヅイノツは手で払ったあと、手を離したムマリの場所を見るとそこには兵士が剣をもって構えていた。ビリビリとは劇しく電気を纏う輝く剣が兵士の周りにも逬る。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
兵士は剣を下から上に大きく振りかぶって切り込み一閃した。ヅイノツは大きな一撃をくらった。
「くっ!!」
膝をつくヅイノツは「貴様!!!」と叫んだが切り傷から電気がビリビリと鳴り響いた後、ヅイノツに雷が落ちた。倒れこみそうなところをぐっと堪えるヅイノツ。息を整えて話す。
「貴様、名は?」
兵士も息を整えて話す。
「ヴァル・ギルダ」
「知らん名だ。だが、いい腕をしている」
ヅイノツは翼をはやした。
「俺は強いやつが好きなんだ。お前にまた会い聞くる。それまで強くなっていろ」
「どーいうことだ?」
「見逃してやるって言ってんだよ。期待していた冒険者は弱かったがお前は強い。期待してるぞ」
そういってヅイノツは空高く飛び上がり消えていった。
ヴァル・ギルダは剣を放して倒れこみ意識を失う。
ヴァル・ギルダは広い部屋に綺麗なベッドで目を覚ました。周りを見渡すと横でムマリが座っていた。
「おはようございます」
「お、おはよう…ここは?」
「リンテン国の城の中です」
「そうか…なんでここに?」
「あなた様が幹部を追い払ったあと、私たちの戦争の状況を確認しに来たこの国の兵士が雷に気が付いたところ私たちに気が付いて助けてくれました」
「ほかの国のものなのに助けてくれるなんて心が広い国だな。どれぐらい俺は寝てた?」
「3日間ぐらいですかね」
二人が話しているとリンテン国の王様とその兵士たちが集まった。
「セキガン国のヴァル・ギルダであっているかな?」
「はいそうです。助けてくださりありがとうございます」
「気にすることではない」
「なぜ、敵国でもある俺たちを?」
「君は魔帝国の幹部を一人追い払ったらしいじゃないか」
「それは、スレンという冒険者が残していた魔力があったのとたまたまが重なっただけです」
「だが、それでも幹部は君を殺さなかった」
ヴァル・ギルダは少し黙っていると王様は話を続ける。
「君をこの国の兵士になってもらいたい。もちろんその子もこの国の者としてもてなす」
「いや、俺は」
「君の国への忠誠心は無くさなくっていい。だが、この国に力を貸してほしい。君を強くさせる」
王様は膝をついて頭を下げた。
「この通りだ」
ヴァル・ギルダはベッドから出て王様に近寄り慌てる。
「やめてください」
「頼む」
「わ、わかりました。わかりましたから…ただあまり期待しないでください。俺はただの兵士ですから」
ヴァル・ギルダがそう言うと、ムマリが少し笑って言う。
「あなたはただの兵士ではございません。あなたはヴァル・ギルダ。私の救世主様ですよ」
その言葉は、救世主にとって最高の言葉だった。
===============================================
===============================================
こちらの作品を読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字などがあると思いますががんばって書き終えられました。
よろしくお願いします。