SS.07 霊感
「君は見えるの? ああいうの」
「いえ、まったく」
出演者の問いかけに俺は笑って首を振る。
「だからこういう番組の仕事が出来るんですよ」
そう言うと相手も納得したように笑ってくれるのだ。
心霊系のユーチューバーに、昔はテレビによく出ていた霊能者、彼らをレギュラーに続いてるこの番組は、低予算だが地味に人気で続いている。
幽霊を見たとか、ラップ音が聞こえたとか、そんな噂もあってスタッフ内では人気はないが、それでも俺はこの仕事を気に入ってる。
今日も大げさに二人が話して、進行役の女性タレントが大げさに驚く。
もちろん演技だが、こういう演出は必要だ。
そもそも、レギュラーの二人だって、どこまで本当に霊感があるんだか、定かではないのだ。
撮影が休憩に入ったが、ADである俺に休みはない。
ドリンクを用意していると出演者の一人が俺に声をかけてきた。
「あの……幽霊ってどう思います?」
「? どういう意味ですか?」
番組ではゲストをたまに呼ぶことがある。
心霊系の話を出来る者なら誰でもいい。ユーチューバー、駆け出しのタレント、オカルト系雑誌の元編集、霊能者だと名乗る者まで様々だ。
今回は、霊感があるという大学生。彼も配信系で色々と活動しているらしい。
明るい色の髪を直しながら、彼は困ったように俺に聞く。
「えっと、信じてるとか、見えるとかそういうやつですね」
「あー、よく聞かれるんですけど信じてないし、見えてないっすね。こういう番組担当してても怖い思いとかしたことないですもん。ってあんまりここで言っちゃまずいですかね?」
そう言って笑うと相手は大抵、笑ってくれる。
こういった番組に出演はしているが、霊感なんかないし、幽霊だって信じちゃいない。仕事の一環だと捉えている者は多いのだ。
だが、目の前の彼は暗い顔で黙ってしまう。
「えー、俺なんか憑いてます?」
ふざけた感じで聞いた一言で、彼は目を見開く。
「え! あ、いや……」
「はは、冗談ですよ。ほら、休憩時間ですし、ゆっくり休んでください」
「は、はい……」
ドリンクを渡して去る俺の背中に、彼の視線が刺さるのを感じる。
いや、正確には俺の後ろに憑いているやつにだろうか。
「え、事故に遭ったんですか? あの人」
「うん、怪我をしたらしいよ。これで5件目じゃない? この番組に関わった人でそういうのに巻き込まれる人。だから、SNSでも大騒ぎ。視聴率も伸びてるって!」
「うーん……お払いとかした方がいいんじゃないですかね? ほら、有名な寺の人とかに」
この番組に関わった出演者には事故に会う者が多いのだ。
スタッフの中でこの番組が不人気な理由がこれである。
しかし、目の前のカメラマンは俺の提案を笑い飛ばす。
「えー、何言ってるの。むしろありがたい存在なんじゃない? 霊とか関わってんならさ」
「誰かに聞こえますよ。不謹慎だって」
「こういう番組自体、不謹慎なんだから気にしてても仕方ないでしょ」
霊感もデリカシーもないこの男、こいつは幸運だと言える。
下手に霊感があるとやっかいなことになる。
霊はそこに気付いて、取り憑かれることになるのだ――俺みたいに。
だから、俺は見えない振りをし続ける。
そうすると、奴らは他の者を狙いだす。
本当に霊感がある、そんな人々をだ。
相変わらず、この番組の二人のレギュラーと進行役の女性タレントは今日も元気である。霊感のない彼らが羨ましい。
彼らやそのほかの霊能者を当たったこともあるが、未だ本物には巡りあえていない。
次に本当に霊感がある出演者が来るのはいつだろう。
いつか本物の霊能者が現れ、こいつを払ってくれるまで、俺はこの番組を離れられない。
こんな感じで不定期に短いお話をUPしてみます。
移動中の隙間時間、お楽しみ頂けたら嬉しいです。
ほのぼのやしみじみ、少し怖い話など様々なお話になります。