SS.06 ネーミングセンス
父にはネーミングセンスがない。
朝、庭に集まるスズメは皆、ぴぃちゃんと呼んでいる。
昔、飼ってた猫の名前はミケ。
その名の通り、三毛猫だった。
このあいだ、お土産で買って来てくれたカエルのぬいぐるみのことは
「可愛いだろう? ケロちゃんだ」
そう言って笑ってた。
もしかしたら、お土産を選ぶセンスもないかなってそのときは思ったよね。
まぁ、一応ケロちゃんは枕の横に置いてあげてるけど。
で、そんな父は今、テレビを見ながら真剣に悩んでいる。
「やっぱり、パンダだからパンちゃんだろうなぁ」
「……多分、漢字だと思うよ。中国に返還するし」
「いや、だってパンちゃんの方が可愛いだろう?」
「そういう問題じゃないからね」
パンダは漢字で二文字と相場が決まっているのだ。
そんなセンスのない父だが、優しく穏やかで家庭的。
二人で過ごす、夕食後のこの時間が私には安心できるのだ。
「大体、私の名前も父さんが考えたんでしょ? もっとおしゃれな名前が良かったなぁ」
漢字一文字の私の名前は読み方を間違えられることもない。
不満があるわけではないのだが、もう少し可愛らしい響きでも良かった気がしてしまう。
「そんな悲しいこと言うなよ。父さん、寝ないで一生懸命考えたんだぞ」
「寝ずに? 難しい名前じゃないのに?」
少々疑いの目を向ける私に父は説明し出す。
「だって、恵だろう? 望に夢に、幸に……お前が生まれた嬉しさから、いっぱい名前を思いついてさ。どれもこれもいい名に思えて決められなくなってな」
「そんなたくさんの中から、どうしてこの名前にしたの?」
私の質問に父さんは照れながら笑う。
「一番、そのときの気持ちに近い言葉にしたんだよ」
「……ふぅん、そう」
私の名前は漢字一文字で「愛」だ。
率直に名前を付ける父が私に向けた初めての贈り物はまっすぐな愛情だったのだろう。
「やっぱり父さん、ネーミングセンスないね」
恥ずかしさと嬉しさでそう呟いて私は笑った。