SS.03 バレンタインには遅すぎる
今回は3話までの投稿です。
不定期更新、短いお話ばかりです。
気分転換になれば嬉しいです。
「今年は俺にチョコくれないの?」
少し甘えたその声に私は肩を竦めて答える。
「……まぁ、なくても仕方ないんじゃない?」
「そっか……」
彼の手には仕事用の鞄と共にオシャレな紙袋がある。
職場の女性たちに貰ったのだろう。
なら、私のチョコレートなんて必要ないに違いない。
そもそも、もう私達は恋人同士ではないのだから期待されても困るのだ。
「いや、そうなんだけどさ。毎年楽しみにしてたから」
「……あの頃、そう言って欲しかったな」
「ごめん」
「もう遅いよ」
謝られたって仕方ない。
毎年、どんなチョコレートにするのか悩んで渡したのに、素っ気なかったのはそっちなんだから。
でも、どこか寂し気な表情に胸がちくりと痛む。
関係性が変われば、行動だって変わる。
私は悪いことなんてしてないはずなのに。
「……来週ならいいよ」
「え、いいのか?」
「ホワイトデーが近いしね」
バレンタインが終わればすぐにホワイトデーのチョコレートが店先には並ぶ。
それでいいなら、用意できる。
「ありがとう」
「まだあげてないんだけど」
「いや、そうなんだけどさ」
嬉しそうに笑う夫の姿に、私もつられて笑う。
今年から恋人同士ではなくなった私と彼、これからは夫婦として時を刻むのだ。
お茶を入れて二人で頂いたチョコレートを食べよう。
来週は彼へのチョコとお返しのチョコを買わなくちゃね。