SS.01 あの人からの手紙
ショートショート、短いお話ばかりです。
気分転換にいかがでしょうか。
――僕と結婚してあなたは幸せでしたか?
そんな一節から始まる手紙に、読む手が震えた。
彼にそんな思いがあったことを、私はそれまで知らなかったからだ。
手紙の主はもうこの世界にはいない。
今まで知らなかった手紙の存在に動揺しつつ、私は読み進める手を止められなかった。
“ 結婚してくれたとき、私は貴方に想い人がいることを知っていました。
幼馴染の私達が結婚することは周囲も望んでいましたね。
優しいあなたはそんな期待を裏切ることを望まなかったのでしょう。
けれど、私はあなたに想い人がいることを知っていた。それでもあなたと共に生きたかったのです。
それは私のエゴに他なりません。
結婚後、私はあなたによく問いかけましたね
――幸せかと
するとあなたは笑って頷いてくれる。
あなたの笑顔に救われる一方、私はあなたにふさわしいのか、隣にいてよいのかと、不安を抱いたものです。
もう、私は長くないでしょう。
最後に教えて欲しいのです。
僕と結婚して、あなたは幸せでしたか? ”
「あら、やだ。何を読んでるの?」
祖母の声で私は振り向く。
手紙を勝手に読んでしまったことに罪悪感を抱きつつ、祖母を見るが特に気に障った様子はないようだ。
手紙を見た祖母は表情を明るくする。
「まぁ懐かしいわ。それ、おじいちゃんからの手紙でしょ?」
「うん。……おばあちゃん、他に好きな人いたの?」
私の問いかけに祖母は一瞬、きょとんとした表情を浮かべたが、次の瞬間笑いだす。
そんな祖母の反応に戸惑う私に、くすくすと楽しそうに笑いつつ、彼女は教えてくれる。
「えぇ、初恋の人よ」
「……その人と結婚したかったの?」
「なに言ってるの。何十年、あの人と連れ添ったと思っているの? これはね、おじいちゃんがまだ若い頃、病気で入院したときに書いた手紙。病気になったことなんかないから、すっかり弱気になっちゃって……」
祖父が亡くなったのは昨年の秋、いつも祖母が最優先な人だった。
そんな祖父の隣で微笑む祖母は幸せそうに私の目には映っていた。
最近、ようやく笑うようになった祖母。
それだけ祖父の存在は大きなものだったのだろう。
「――幸せだったに決まってるじゃない」
小さなその呟きは私へではなく、今は亡き祖父への言葉だろう。
もうすぐ夏が終わり、秋が来る。
時間は悲しみを癒してくれるというが、本当なのだろうか。
手紙の文字に優しく触れる祖母の瞳は寂しさと愛情に満ちていた。