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風雷坊!  作者: カタルキ
幕開け
6/17

六、  そういう話

「うい~。ひどい目に遭った」

 

 冷や汗を拭う雷太。ひどい目というが、巻き添えにあったのはこちらなのだが……。


「…今度から、話はちゃんと聞こうね……」

「それ何度目だよー。俺とお前の仲だろ! 少しは信用しろっ、つうの!」

「……信用に値しない行動をとってきたのは誰だっけ?」


 雷太は我関せずといった様子ですたすたと歩き始める。


「おっ、崖から落っこちたおかげでめちゃくちゃ村に近い! へへ~、人徳だな~」

「……お調子者め……」






「なあ…」

「……いや、僕に聞かれても……」

「………なぁっ!」

「……かといって、この世の終わりみたいな顔で言われても……」


「んじゃ、どう言えばいいんだよ! これ、この有様!! 」


 ずらりと並んだ赤い旗。各軒一つずつ、村中すべてにかけられた赤い旗。

 おかげで村は真っ赤っか。


「……見たままで言えば?」

「そうか、そうだよな…んじゃあっ」


 すうっと、雷太はめい一杯息を吸い込む。


「いやぁっほぉぉおおい! ビバッ、天国ぅっ! 」

「…いや、死んでないし…」


 風太の的確な突っ込みに耳を貸す間もなく、駆け出す雷太。

 先ほどの信じろ発言はどこへやら、さっそく己の欲望に忠実である。


――赤い旗には一ヵ所、『酒』と書かれた黒い部分があったそうな。



 

ゴキュ、ゴキュと刻みのいい音が風太の耳に届く。

「ぷはぁ~、うんめぇー 」

「…ほどほどにしといてよ? 後で大変なの僕なんだからさ……」


 すでに雷太が空けた酒つぼは五つ、彼らの足元に積まれていた。

 大の男でも倒れているであろう量にもかかわらず、雷太の飲み方は衰えない。むしろ激化していると言っていいだろう。


「んだよ、別にいいらよ~、オレはほれのためにいきゅとるもんらんたからぷ(訳・俺はこれのために生きているもんなんだからさ)」


「………」

 風太は黙って、雷太から向かって右斜めの席へ移動した。

 酔っ払いに触れるべからずである。


「おやじ~、しゃけついか~」

「……あ、酒で! 鮭じゃなく!」


 人の悪い笑みを浮かべる店主が、捌かれていない大魚を取り出すのを見て、風太はあわてて声を上げる。

「ジョークだよお客さん! そんなに慌てなさんなって! 」

「プハハッ、いーぞおやじぃ~」

「おっ、兄ちゃん。このネタの醍醐味を理解しているなぁ、隅におけねぇじゃねえか! 」

 

 何やらガハガハと笑い出す雷太と店主。風太には理解しかねる不思議な絆によって、すっかり意気投合したようである。


「にーちゃんたちゃ旅人かい? よくまあ、あの霧の中を通り抜けてきたもんだ! 」


 他に客がいないためか、店主は酒壺を運ぶついでに、風太たちの近くに陣取る。

 こうして近くで見ると店主の身長は天井に届きそうなほど高く、かなりの巨漢であった。

 額に巻いた鉢巻と言い、二カッとした笑みを浮かべる様子などから、一種の職人のような雰囲気を感じさせる人物だった。


「……別に旅をしているわけでは……」

「へぇ、じゃあ入用かい、こんな時に大変なこった」


 店主は一人でなにやらうんうんと頷く。

 風太は、ちらりと雷太をみやった。


「うーん……鮭、鮭がぁ! 」


 ひとりで修復不可能なところまで出来上がっているようだ。ここまでくれば完璧に寝言領域である。

 これでは夜もここで越すことになるかもしれない。


「 ……あの、この『霧』について、何か知ってることは…… 」


 店主は意外そうに眉をあげた。


「なんだ、にーちゃん達の用ってのはこの霧に関することかい? 」

「 …まあ、そんなところというか……色々あって…… 」


 適用に語尾を濁し、その場を繕うと店主はあっさり頷いてくれた。


「 まあ、客さんの事情を根ほり聞こうとはせんよ。 それで、なにを聞きたいってんだい? 」

「……、この霧が出てきたときのあたりのことを……」


 言うと店主は腕を顎に乗せ、唸った。


「 ……あんまし覚えてねぇんだがよ、ちょうどひと月ほど前だったか……こう、ひゅ~って空気が抜けるような音が聞こえたかと思えば、いきなり辺りに霧がでてきてよお。作物は枯れるわ、家畜は変な病気にかかるわでもう散々だったなぁ 」


「……誰か、この村に来ては……? 」 

「おお、よく分かったな。もしかして、にーちゃん達、あの人の知り合いか? 」


 店主によれば、村の備蓄もわずかとなり、他の村へ避難するしかないかと思っていた矢先――

 『旅人』がやってきたらしい。


「 最初はお偉いさんかと思ったのさ…やけにこぎれいな服を着ててなぁ。

それじゃぁ、どうにかしてもらおうって村人全員でな、こう『このままじゃみんな餓え死んじまう』って援助を頼みこんだんだ。

 そしたらそいつから札の束をもらってな、貼れっつうから俺たちゃ藁にもすがる思いで村中に貼ったんだ…見ればまだあるはずだぜ? 」


 風太は頷いた。この店に入る前、緑色の札を見た覚えがある。


 札を使った結界というのは仲間内でもよく使用されていたからわかる。札の中に自分の『力』を封じ込めて、一時的に悪しきものを近づけなくするものだ。


 たぶん先に旅立った一人――それも感じからすると、『木』だろう。

 ついでに、村中が居酒屋になったのはその人物が勧めたため…らしい。


 確かに酒には邪気を払う効果があるが、少しやり過ぎではないだろうか。現に風太からすれば、雷太の泥酔という二次災害が発生しているのである。


「……その人がどこへ行ったかは……?」

「いや、分からんな。気づいたらいなくなっちまった。

 なんにしても、村の敷地内であれば作物も育つようになったんだ。礼ぐらい言わせてくりゃあいいものをなぁ……」


「う~ん。――鮭の蒸留酒? 面白いが俺にのませんなぃ~ 」


「………」

 何も言わずに飲んだくれの頭を叩いた。かくーんと前のめりになり、すやすやと眠りに入る雷太。


「………ははぁ、そっちのにーちゃんは動かせねえな、こりゃ」


「…すいません、泊まらせて下さい……」

 よっぽど鮭が気に入ったらしい一名を、風太は冷やかに見た。

 そのいかにも恨めしげな視線に、店主はニカリと笑む。


「ま、気にすんな。どうせ他の客は来ねえだろうしな」


――その時、雷太がガバリと身を起こす。


「おやじ! 酒追加! 」


 即座に風太の制裁チョップが頭の上へ飛び、雷太は再び机の上に倒れ伏す。


「…寝言も大概にしよう……」




「うい~、頭いてぇ~」

「…だから飲みすぎるなって、言ったのに……」

「いや、いつもと違ってこう、外側が痛むというか…物理的になんかなあ……」

「……飲みすぎ、それ以外の何者でもないよ……」

「う~~ん。あぁ~いて……」 

 次の話からバトル(予定)に入ります。 

それにしても、なかなか進まないものです…。

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