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風雷坊!  作者: カタルキ
幕開け
3/17

三、  巣立たず

「皆、分かっていると思うが。明日はとうとう祭りが始まる」


 高く伸びる門、その向こうには地上へ通じる険しい下りの道が存在している。老師は門の周囲へ弟子たちを集めていた。


 このときばかりは老師も正装をする。由緒正しい儀式を普段のなりで執り行うなど――言語道断。

 そのため、どこぞの官吏が着るような絹織りの衣をまとい、まげを結いあげていた。

 

……これが裏目に出て、額に腫れあがった大きなタンコブが目立つことになるとは、誰も予想できなかっただろう。


 くすくすと、弟子たちの間から笑いが漏れる。


『なあ、あれどう思うよ? 』

『雷太でしょ? ついに念願の一発を入れたってはしゃいでたわよ 』

『ああ、おいたわしや……ぷふ、…』


(わしに敬意をまともに払う弟子はおらんのか…)


 内心に複雑なものを抱えながらも、老師はごほんと咳払いをする。


「仲間内で争わせるのはわしも心が痛む。じゃが、これも神が決められた定め。重々、己の立場を忘れるでないぞ…? 」


 老師の弟子たちは、それぞれ意気込みを見せる調子でうなずいた。

 一糸乱れぬその動き。最後の別れだけに老師はうれしさに口元を綻ばす。

 

 少々生意気だとしても、希望を胸に抱く若者の、何と頼もしいことか。

 そして、弟子たちが旅立つこの瞬間、なんと心寂しくなることか。

 だがこれが先人の役目だと、老師は自らの感動を表に出さず、餞別せきべつの言葉を送る。


「 では、善行を積み、仙人へ至れるよう努力せよ。わしはお前たちのことを頂より見守っておる 」

「「 はい!光老師様! 」」



 彼らは旅立った。

 約二名を除いて。






「お主ら…。仙人になる気はあるのか?」


 他の五人を送り出した門より遠く、そして幾重にも戸が閉められた部屋にて。


 そこにいたのは二人の少年。

 片方は白銀の髪を持ち、紫の瞳にはつらつとした色を浮かべ。

 もう一人は青とも緑ともつかない髪、同じく紫の瞳で申し訳なさそうに老師を見ていた。


「俺はぁ、別にー。ここの生活気に入ってるしー」

「すみません…。僕はまだ、仙人を目指せるような技量じゃ…」


 申し訳なさそうに、今にも消え入りそうな口調で言う後者ふうたであったが、その手には筆と描いていたであろう墨絵。本当の目的は明らかである。

 

 前者らいたにいたっては、ボリボリとまた何かの菓子を咥えている。

 おそらく、自分が楽しみにしていた…。地上の…。


 老人は、わなわなと震える手をきつく、筋が浮き出るほどに握りしめた。


「お、お、お前らぁああああっ!!」


「あ、やっべ。風坊逃げるぞ!」

「ま、まって雷坊! これだけ描かせてほし――」

「んな暇ないって、ほら来る来る! 」


「 まてええぇぇいっ!馬鹿共がぁっ! 」

 

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