三、 巣立たず
「皆、分かっていると思うが。明日はとうとう祭りが始まる」
高く伸びる門、その向こうには地上へ通じる険しい下りの道が存在している。老師は門の周囲へ弟子たちを集めていた。
このときばかりは老師も正装をする。由緒正しい儀式を普段のなりで執り行うなど――言語道断。
そのため、どこぞの官吏が着るような絹織りの衣をまとい、髷を結いあげていた。
……これが裏目に出て、額に腫れあがった大きなタンコブが目立つことになるとは、誰も予想できなかっただろう。
くすくすと、弟子たちの間から笑いが漏れる。
『なあ、あれどう思うよ? 』
『雷太でしょ? ついに念願の一発を入れたってはしゃいでたわよ 』
『ああ、おいたわしや……ぷふ、…』
(わしに敬意をまともに払う弟子はおらんのか…)
内心に複雑なものを抱えながらも、老師はごほんと咳払いをする。
「仲間内で争わせるのはわしも心が痛む。じゃが、これも神が決められた定め。重々、己の立場を忘れるでないぞ…? 」
老師の弟子たちは、それぞれ意気込みを見せる調子でうなずいた。
一糸乱れぬその動き。最後の別れだけに老師はうれしさに口元を綻ばす。
少々生意気だとしても、希望を胸に抱く若者の、何と頼もしいことか。
そして、弟子たちが旅立つこの瞬間、なんと心寂しくなることか。
だがこれが先人の役目だと、老師は自らの感動を表に出さず、餞別の言葉を送る。
「 では、善行を積み、仙人へ至れるよう努力せよ。わしはお前たちのことを頂より見守っておる 」
「「 はい!光老師様! 」」
彼らは旅立った。
約二名を除いて。
「お主ら…。仙人になる気はあるのか?」
他の五人を送り出した門より遠く、そして幾重にも戸が閉められた部屋にて。
そこにいたのは二人の少年。
片方は白銀の髪を持ち、紫の瞳にはつらつとした色を浮かべ。
もう一人は青とも緑ともつかない髪、同じく紫の瞳で申し訳なさそうに老師を見ていた。
「俺はぁ、別にー。ここの生活気に入ってるしー」
「すみません…。僕はまだ、仙人を目指せるような技量じゃ…」
申し訳なさそうに、今にも消え入りそうな口調で言う後者であったが、その手には筆と描いていたであろう墨絵。本当の目的は明らかである。
前者にいたっては、ボリボリとまた何かの菓子を咥えている。
おそらく、自分が楽しみにしていた…。地上の…。
老人は、わなわなと震える手をきつく、筋が浮き出るほどに握りしめた。
「お、お、お前らぁああああっ!!」
「あ、やっべ。風坊逃げるぞ!」
「ま、まって雷坊! これだけ描かせてほし――」
「んな暇ないって、ほら来る来る! 」
「 まてええぇぇいっ!馬鹿共がぁっ! 」