十七、 談話大切
「すいません、注文を」
「へ……? あ、ああ。にしても驚いたな、砂族と闘うなんて………さっきもそうだけど、君のつれはずいぶん腕がたつんだね」
「……その節はお騒がせしました」
「いやいや、別に責めているわけじゃあない。むしろ、こちらとしてはほほえましい限りだよ。奴らにはいつかぎゃふんと言わせてやりたくてね」
「……注文、いいですか?」
「おおっと、すまない。何がいい? この村じゃあ大したものは取れないが、そのぶん珍しいものに富んでいるんだ。ん? お勧めかい? そうだなぁ、たとえば……」
砂族はいかにも荒れくれ者といったようすで雷太へこぶしを突き出した。雷太はかるがるとこれを避けると、のばされた砂族の腕をつかみ、そのまま大きく振り回す。雷太の馬鹿力に砂族の身体も勢いよく引っ張られ、別の砂族へと放られた。飛来した1人に数人が巻き込まれて転倒する。
雷太はガッツポーズを取り、後ろから迫った敵に肘うちをくらわせた。
「じゃあ、それお願いします」
「はいよ。ちょっと待っててな……にしてもあの砂漠を越えてきたとは、ずいぶん無謀な少年たちだな。きつかっただろ? この時期の砂漠は特に危険なんだ、なんたって暑い。地元のものですらあんまり外には出たがらないからね。ついでにどこから歩いてきたんだい?……って、なにっ! 崖下の村!? よくもまああんな辺境からここまで……」
「この、ガキがっ!!」
激昂した砂族の一人がついに懐から刃物を取り出した。広く平べったく、刃渡りは長い。短剣というよりもれっきとした剣に近いだろうか。
一人を見習い、他の砂族もそれぞれの得物を構える。
「ぎったぎたに切り刻んでやるっ!!」
数と武器がそろい、強気になった砂漠の盗賊たち。
雷太は肩をぐるりと回しながら、不敵に笑んだ。
「やってみろよ。まーぬけ」
「はい、おまち。ご注文の仙人掌の毒蠍炒飯」
「……なんか毒毒しいですね」
「だろ? でも見た目に騙されちゃあいけないんだよ。いいから騙されたとおもって、ぐぐっと」
「……じゃ、一口……………」
「………」
「………」
「ど、どうだい? 私としては自信作なんだけどね……まだ誰にも味見してもらってないから少し危ういけど……」
「………」
…………………まずい。
「まっずい!」
前方と後方から一気に剣が振られた。雷太は慌てて身を伏せる。
とみせかけて上半身をそらした。反動のまま足を蹴りあげ、敵の手から剣がはじかれた。
目を見張る敵の、がら空きになった懐へ蹴りを入れる。
ぐっとくぐもった呻きをあげて、その砂族は意識を飛ばした。
「いよっしゃ、次はっ、と」
身を起こした雷太の前に男が立ちはだかる。
「残念だったなガキ、これにてお遊びは終わりだ」
そして、砂族は手の内にある凶器を突きつけた。
「案外、癖になりました」
「そ、そうかい? よかった。話は戻るけど、君たちは崖下の村から来たんだよね。じゃあ、あの噂が本当なのか知っているかい?」
「………噂?」
「そう、たしかあそこには古くから大妖が眠っているといわれてたんだが、つい最近目を覚ましたらしくてね、そこそこ距離があるといっても、やはりおとなりじゃないか。もう気になって仕方がない」
まさか自分たちが倒したなどというわけにもいかない。
「……確かに、化け物なら目を覚ましていたらしいですよ。でも、僕らが村を出る時にはもういなかったみたいです。きっと誰かが―――」
「じゃあ、本当なんだね! 妖魔が首切られて、息絶えていたというのは」
「………え?」
息絶えていた?
…………………ちょっと、まて。
「いやあ、聞いた時は半信半疑だったけど、真実だったとはなあ。なんでも通りすがりの仙人がいたとか。―――すごいものだね、仙人とは。とても大きな妖魔だったらしいが、村人が様子を見に行ったとき、こう首がスパっと切れていたそうじゃないか。本当にありがたいお人達だよ」
「………………首が、落とされて?」
「そうそう! 仙人ってのはとんでもない力を持った方々なんだろう? まったく恐れ入っちゃうね、僕達のような一般人からするとまさに雲の上のお人だよ」
「…………………へえ」
店主はそう遠くない崖下の村のことを、まるで自身が見てきたことのように話す。さながらせき止められた水が一気にあふれ出すかのごとく―――しゃべる。
風太は舌のよく回る店主に対して辟易しながらも、相手が気を悪くしないようあいづちをうつ。
その表情が、やや陰りを帯びていたことに、田舎の食堂屋を営む店主が気づくことはなかった。
「その首たたっ切るっ」
砂族は鋭利な短剣を雷太へ振りおろす。
眼前に迫る鋭利な刃物、当たれば当然死を招くそれを雷太はよけようとしなかった。ぼけっと太陽にきらめく刃を眺めて、目を細める。
その様子に、短剣をもった砂族は恐怖のあまり動けないのだと勝利を確信して……
―――バチリッ
短剣がわずかに雷太へ触れた瞬間、砂族の体が硬直した。ぐらりと体を揺らし斜めに傾いていき、倒れた。
勝負の行方を見ていた砂族たちがどよめく。彼らの目には仲間が奇妙な音ののち、気絶したように見えたのだ。しかも狙われていた少年は全く動いていないときた。
その場にいた砂族は驚愕し、恐れとともに奇異のまなざしを雷太に向ける。
「わーるい。オレって触るとしびれるゼ☆、な男だからさ。鉄とかが当たっちゃうと自然通電しちゃうんだよなー、これが」
砂埃ばかりの地面に突っ伏し、にわかにけいれんを繰り返す男。
それを雷太は憐みの目でながめ、周囲の砂族へ視線をめぐらす。
「これ以上やろうってなら、あんたらもこうなるけど……?」
「ぐ、ちくしょう。化け物かよてめえはっ!」
「卑怯だぞ! 正々堂々と勝負しやがれ!」
「そうだそうだ!」
一人に大勢でしかけている者たちのセリフとは思えない発言に、雷太のこめかみに浮かぶ。
「卑怯だぁ!? 村に侵入してはさも当たり前のように盗みをしてる自分自身にいえっつうの!! ―――それに誰が化け物だ! 聞いて驚け、俺様こと雷太様はこうみえて実は―――」
『―――くたばれ、雷太』
第三者の声が反射的に雷太の口をつぐませる。
同時に、周囲をなにやら怪しげな風が物騒な音をたてはじめる。
あ、やばいかも。などと思ったときにはすでに遅く。
瞬間、砂族と雷太は、争っていた広場から、突如巻き起った暴風によって吹き飛ばされるのだった。
「ん? 君なにか言ったかい?」
食堂の席で、何事かを口にした様に思われる風太に、店主が問いかけた。
「なにも……」
「そうかい。それにしてもすごい風だったなぁ。あ、君の連れが、向かいの屋根に引っ掛かっているよ」
「……御迷惑おかけしてます」
「え。ああ、いいのいいの。君の連れと風のおかげで砂族もいなくなったみたいだし。……それにしても本当にすごい風だったなあ。まるで仙人でも通っていったみたいだ」
風太はそしらぬ顔で席を立った。
「お勘定御願いします」
「おお、ついでだからまけておくよ。またいつでも寄ってくださいよ」
「……どうも」
あけましておめでとうございます。今年も時間が取れそうではなく、更新はまばらになりそうです。