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感謝の言葉 其の三

 平然とした言動にただただ呆けるしかなかった、出回る事も少ない魔剣の情報をやっとの思いで掴み取ることができた結果が既に使用不能でありそもそもの在処が目の前にいる子供と同化したと耳を疑う事を平然と口にした。


 だが、魔剣と同化した事を裏付けるかのような素振りをしていた。魔力を抑え込む為の部屋中に張り巡らされている数々の魔法をそのまま道具に閉じ込める装飾魔法(アーティファクト)を見れば近隣に異常な魔力を感知させないように仕組んでいたりと『奇匠』として鍛冶師としては異常ではあった。


 部屋に入る時も明らかに隠し部屋のような隠し方をしていたから魔剣と同様に危険な物を保管するための場所だと思ったが俺が求めていた『遠吠え』と同価値の存在をどうにかして他人の目から隔離するようにしか感じられなかった。


「本当に魔剣を取り外す事は不可能なのか?」


「ああ、出来得る限りのことはしたが無理だった」


「そうか……レティーナだっけか、身体の具合はどうなんだ?」


「私は至って何か不便な事はありません、助けてもらったのに勝手な事をしてしまったのにも関わらず助けてくださったケルロスさんのお陰です」


 恩人だからこの場にいるようなものだろうが…いや今の自分が他人に踏み込む必要はこれっぽっちもないが求めている物が手に入れないとなると望みは薄いが目星をつけている方に動くのが今の自分が取るべき行動な筈だ。目立った情報も手に入れずに時間を浪費するのも惜しい、適当な理由をつけて帰るか


「お前はここから極東に存在する大地を知っているか?」


「大量の資源が眠っていて先の戦争の被害を何一つ被っていない俺等からしたら『楽園』とも思える場所か」


「そんな『楽園』に俺の友と言える奴がいるんだ。いつもは不真面目だがやる時は身を削ってでも成し遂げる理想的な奴なんだがお前さんの耳には入ったりはしていないだろうか『魔綴』という肩書を持っているのだが」


「『魔綴』?すまないが聞いたことが無い名だ」


 茶菓子の甘い匂いが鼻腔をくすぐるが少ない手荷物を片付けようと動こうとした時に『奇匠』が俺にとってどうでもよさそうな話を喋り始めたが今までの人生で聞いたことのない名を口にした。世に名を馳せている人間がどれだけあの戦争で活躍したと思っている、俺自身でさえ冒険者の道を歩んだ理由でもあるんだ。


 しかし、極東の大陸と言ってもそこに行くまでの道のりが過酷だと聞いた事はある。特に高く険しい山脈を越えるが難しいとも聞くが越えた先で交流関係を結ぶとなるとそれ相当の手練れの筈…何故こんな所で道草を食っているんだ?魔剣を生み出す技術を輝かせるには勿体なさすぎる。


「『魔綴』はな、魔力というか魔法をくっつけたり引き剝がす独特な魔法を得意としていて結構使い勝手のいいもの持っているんだ」


「そんな奴が知り合いだと言うのに何故会いに行かないんだ?護衛に難はあると思うが絶対出来ない訳でもないだろう」


「『復興途中に悪さされたらひとたまりもないから』勝手な決めつけのせいで抑制するためなのか俺は今国を行き来できない状況にある。包囲網を突破する方法はいくらでもあるが世界を敵にするほど威張れた試しが無いからな」


 『奇匠』はそうなってしまった現状を諦めるような溜息をしながらもその目は俺とは違って死んですらいなかった、横に座っているレティーナを見て微笑むと「ここにいる理由もあるから」と呟き頭を撫でていた。それよりもその引き剝がす魔法がこの子共に適応するのなら……


「ここまで言ったら賢いお前なら分かると思うがお前さんの望む願いが叶う可能性が少なからず存在すると思うんだが……」


「離れ離れになることになるがいいのか?」


「魔剣が引き起こした『魔力災害』がこの子の身から消えて人間として普通を過ごしてくれるのなら出来る限りは待つ」


「今日会った何も知らない人間に何故そんなに信じられる」


「『魔綴』と同じ簡単に人を裏切らない優しい目を持っているからだ、欲に忠実だが誰よりも人に手を差し伸べて助けてそうなお前を信じて」


 身勝手な奴だ、そんな些細でちっぽけな言葉が喉から出掛けた。いつもならその場から逃げる薄っぺらい言葉は驚くほど溢れ出てくるというのに…席を立とうとした俺を強くその場に引き留める魔法の言葉だった。お互いに託し託されの関係は正直心を締め付けるだけの悪循環だ、空っぽの俺に何かを埋め合わせる為に曖昧な目標を掲げて気を紛らわせているっていうのにあの真っ直ぐとした目で見られて言い返すことすらできなくなってしまった。


「……引き剝がせた魔剣はどうするつもりなんだ?」


「自分の物にしたり誰かに渡したり好きにすればいい」


「これ以上話を長引かせると面倒だ、お前の目的はレティーナの護衛に『魔綴』による魔剣との分断だよな?それに対する報酬がその魔剣って認識でいいんだよな?」


 引き留め続ける為に投げかけるのがこれ以上続くのならもういっそのこと目的の魔剣を手に入れるまで必死に藻掻き続けるそんな世界が何もかも逃げ続けた俺には必要なのかもしれない。承諾の言葉を聞いたケルロス・ヴァヴァースは何も言わずに席を立ちそのまま部屋から出て行った、次はなんだ?他にも頼みごとがあるとか言い出した時には流石に俺も癇癪を起こす。


「あの……」


「なんだ?たった一人の護衛は不安か?」


「いや、私の身体に溶け込んで消えてしまった魔剣をどうにかしてくれる方にそんな仰々しい事は言えません。ただ…」


「ただ…?」


「その、茶菓子頂いても…?」


 部屋からケルロスが消えてから数分も待たずしてレティーナが俺に声を掛けてきた。この目の前にいる酒場で入り浸っている奴に護衛なんて任せられないとでも言われるのかと思ったが、こいつはこいつでケルロスと似たようなそんな感じがする。この人の事を全く気にしないで物事を喋る所というかなんというか…


「別に好きにすればいい、甘い物が好きなんだろ?」


「あっ、ありがとうございます!」


 そんな相手の機嫌を窺わなくとも欲しければ図々しく振る舞えばいいのに…ただ喋る事も無く茶菓子を譲ると茶菓子を頬張り満面の笑みを溢していた。こんなので喜んでくれるのならこれから護衛する身として変な空気にならなくて済むし別にいいのだが…机の上に置かれたお茶を飲みながら部屋から出て行ったケルロスをただ待ち侘びていた。


「それで?碌に話した事も無い奴を置いてどこかに消える奴の弁明が聞きたいのだが」


「堅苦しい空気が道中続くのは苦しいからな、席を外した際に少しでも交流があればと思っていたが…数分で少しは仲良くなっているんじゃないか?」


「分かった分かった、そんな顔をしなくともそれなりの理由で席を外していたんだ。これをお前に渡しておきたくてな」


「地図…?」


 最小限の事しか知らない人間同士を部屋に置いたらどうなるか考えなくとも分かるだろう。酒場の連中は毎朝顔を合わせるからお前はあそこの団体に入っている奴だよな、今何しているんだ?などといくらでも話を膨らますことができるがついさっき会った人間でこれから護衛する存在だと言うのに意思の疎通もままならない状況が続くのがどれだけ別の意味で地獄だったか。


 頼みの綱であったのかもしれない甘味は早々に絶たれてしまった訳だしな、人との接触を拒み続けていたが故に静まり返った空間で生活するのに慣れていたからそこまで気にはしないのだが…相手側がそれをどう思うかで後先どう対応するかが変わるだろう。まあ機嫌取りに関してはその時考えるとしてだ。


 机の上に大きく広げられた地図はかなり事細かに記されているもので俺が最後に記録した物に比べたら天と地の差があるそんな物だった、これさえあれば今起きる事は到底無いと思うが国家間の戦争なら確実に勝つことができる。不慣れであろうと道具を収納できる空間魔法を習得した方が吉だと聞いていたがこんな所で完成度の高い地図を見せつけられるの分かっていたら万全の準備を整えていただろうに…!


「わはは、そういう反応になるよな普通は」


「普通?これだけ精密な地図を出されて驚かない奴がどこにいると思っているんだ」


「どうせこれも複図紙の一枚だしお前さんにやろうとしていた物だから気にすることもないんだけどな」


「それはさておいて色々と言いたいところがあるがそれだと時間が一瞬ですぎてしまうからな。必要最低限の説明だけする」


 地図にがっつく俺に対して適当にあしらうケルロスは淡々と広げられた地図の上に小さな石を置き始めた。置き始めた石の場所は国境付近が多めだが国それぞれの規則の説明か何かか?一応国を渡り歩いて魔物を狩って生活している冒険者だからそういう心得えは持ち合わせているんだが…それにしても数が多すぎないか


「今置いた石は人間が束になっても勝つ見込みがない魔物がいると思われる場所だな。古い伝手に逐一情報を寄越すように頼んだのに最近になって連絡を寄越さなくなったが…」


 他国から出られないから情報(ごらく)を寄越せって伝えたんだが暇を押し付けて来る、そんな溜息と共に吐き出された言葉を聞きながら地図の至る所に置かれた石を眺めていた。それにしても想像以上の数だな、普通魔物がこれだけ大量発生している状況で自らの力を誇示する事にしか能が無い奴等が大人しくしていること自体が不穏な感じを漂わせている。


 もしかしなくともその古い伝手と呼ぶ奴はこのご時世に単独行動か…人の事を言える立場ではないが魔物が猛威を振るっている中、長期間動く事は死にに行くことと変わらない筈だが目の前で無作為に並べられている魔物も視認しているからこその情報だからな戦闘というより戦闘の避け方に力を入れているようにも見れる。


「『魔綴』の元に行くまでに遭遇するだろう魔物の事は障害物みたいな考えで十分だ、絡まれたら引き離すのに相当の労力が必要になるからな」


「魔物に遭遇して遅れを取って到着に何年も費やされるとアレだからな…案内人として合流してもらいたいところがあってな……ここだ」


「そこは…今魔物の巣窟って言われている所じゃないのか?尋常じゃない程の石の量だが…ここに行けと?」


「案内人としては超がつく一流だし俺の名前を言えば嫌でも分かってくれる……はずだ」


 憶測で考えていい試しがないからなこれくらいにしておいて…ケルロスが指差す目的地に行くまでに通らなくてはいけない場所を見れば密集した石の山…これは死にに行けと言っているようなものじゃないのか?


「ただの人助けで動いている訳じゃないという事を忘れるなよ、互いに求めている先が同じだからこその関係だという事のな」


「障害物の中に向かわせるのは本当に申し訳ないと思うのだが…絶対にお前さんの力になってくれるのは確かだ」


 溜息を吐きながらもケルロスがその案内人の事について話し始める。出来る限り話は簡潔にしてもらいたいが長くなろうとこういった情報はあればあるだけいいしこれから色々と世話になるかもしれない相手だからな…慎重に動くんだ。


 今すぐに魔剣を手に入れる為に駆け出したい気持ちを押し殺し言い聞かせるように自分を律する、辛抱強くいずれ来るであろう千載一遇の機会に俺はただ目を光らせ続けるだけでいい。それが例え…取り返しのつかないような事が起きようとも俺はただ一本の魔剣だけがこの手に残ればどんな不条理な契約だろうとな

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