感謝の言葉 其の二
今日で投稿してから二周年、これからも拙作をよろしくお願いします
あれからもう四ヵ月は経った、神聖国家は情報が絶えず集まる事が俺にとって唯一の活用する理由だ。すっかり周りにいる連中は皆酒場に入り浸る存在として認識されているみたいだが…そんな俺を面白がって話しかけて来る輩は多かった。
その飲んだくれの俺を見て面白がった奴らが情けない姿を見て馬鹿にして自分と比較した後は何かを言うまでも無く酒の肴として使えるだけ使ってその場から離れた輩が喋る一言一句は耳に入れていた。どういう人間がこの神聖国家でどういう立ち位置で冒険者に関わっているのか、近辺の魔物が最近よく見かけるようになったなどと耳を傾けるだけで人と人との繋がりでしか得られない情報も良くも悪くも牛耳れる。
そういう聞き耳を立てる人間がいるのを知っていて遮断魔法…【静寂】とかの部類の魔法を使って対処しているがそれ以外の奴は会話に何にも警戒していない。それを狙ってやっている人間が言えることじゃないのだが…『こんな堕落した人間』という勝手に決めつけた先入観と比較してそこまでの人間じゃないと安堵したから警戒心が薄れたとも捉えられていると認識できる。
今の自分は坊主が言っていた魔剣が本当にあるのかの欲求だけで動いているから誰に何と思われようとも気にしないしその魔剣を探す欲求が満たさ時は何も考えずに色んな所を放浪する、そんな薄っぺらい人間だったのに聞こえた情報は物覚えの悪い自分が自分じゃないんじゃないかと疑う以上の働きを叩き出していた。
鈍りに鈍った身体で何が出来るか分からなかったが、まあ色々と俺の求めていた情報を手に入れる事が成功した訳だが巷では俺の事は『酒の亡者』…見た目に反して大量の金を手にしている事に疑問を感じている奴もいたが酒に執着する姿を見て言葉を詰まらせる。そんな勝手な思い込みを押し付けられていたみたいだが別に自分の名があの善意に届かなければどんな風に見られても気にはしない。
「この道を左か…」
そんな中、俺は薄汚い外套を身に包みながら神聖国家の奥まった場所に足を運ぶ、あれだけ華やかな街並みであろうと裏路地に入れば世界が変わったのか清潔感のある景色の面影もクソも無くなる無法地帯の一言が詰め込まれた場所が一面に広がる。
通り過ぎる人間の皮を被った盗人達はすれ違う人間に盗めるか盗めないかの品定めをする目を向けられるが酒に溺れようとも流石に人の懐に溺れるような人間じゃないと自覚している。盗人の諦めの声がその通る度に舌打ちとして表現されるが今はただ薄暗い細道の先へと進む方が俺にとっては重要だった。
「ぁあ…?お前さんは確か『酒の亡者』とか言われている…」
「ケルロス・ヴァヴァースだな?用があってここに来た」
「酒に使う金は生憎持ち合わせていないぞ」
「用があってここに来ただけだ、酒にも金にも執着なんかしていない」
何度も道を曲がりやっと辿り着いた店というより作業や寝床としての全てが最小限に建てられた建物を尋ねると鍛治作業をしていた鉱人族の男が手を止めこちらを見るとお決まりの言葉を言うが何を思ったのか謝罪をした。
「黙ってついて来い」
消え入るような言葉を言ったケルロスは奥の方へと歩むと壁の煉瓦を何個か触ると上へと続く階段が降り黙々と登っていった。一瞬外を見た上に魔力感知をしていたがそれほど会話に警戒するか?いや、情報通りなら…そのまま言葉を交わさず階段上の部屋…休憩室らしき場所に連れられた。
階段を折り畳み一つの密室と変わった部屋の中は異様な程の魔力が感じ取る事ができた。さっきは全く感じれなかった魔力を完璧に封じるのは不可能に近いとされているが…今この際はそんなことよりもこの男が俺が望む情報を持っているのかなのだ。
「まずは座れ、気になることが多いかもしれんが国の連中じゃなければ話くらいは聞いてやる」
「俺が国の人間と確証がなくともか?」
「そんな全てを投げ捨てている目の奴に国の連中が頼むようなことじゃないしな、それ以外の事で俺の所に来た理由として噂を聞きつけて来たのだろう?」
「そうだ」
さっきの確認は国の連中につけられていないかの物だったか、つけられたとしても裏路地に入った時点で何されても思っているだろうがやはりきな臭さがあったから何かあったら自らの身を守れるようにするべきか迷ったが今ので確信に変わった。やはりこの男は本物だ
「何故そんなにも魔剣の事について知りたがる?何が自身に起きるか小耳に挟まんのか?」
そんなものいくらでも知っている、知っているからこそ求めたくなるのだ。実際、身の丈に合わないが故に同化し害為す存在になったりするのは聞くがこれは全て魔剣と手にした人間が持つ魔力が要求されたものに釣り合わなかった時にのみの話だ。
魔剣自体が意志を持って人間を見定め認めさせた時に理解を始める、魔剣を研究しているバルヴァーグ・ピルターが示した『魔力対象論』による言葉だが無知な研究者の言葉よりも説得力がある魔剣に認められた少ない存在が挙げたこの論拠があるからこの男の元にやってきた。
「その小耳に挟んだ話の中にお前の名があった、実際魔剣については一番よく知っているだろう魔剣を二番目にこの世に造り出した鍛治師…『奇匠』ケルロス・ヴァヴァース」
「…………」
ケルロスは黙った、それまで表情の読み取れない堅苦しい顔だったのだが一瞬下を向いた時のあの顔は何かを悔いているような物悲しい表情をしていた。そんな顔を目の前にしたのに俺の顔はどんな顔をしていたのだろう、探し続けていた魔剣の謎を知る者を見つけたのとただ単純に坊主が耳にした噂が少なからず本当だという可能性が増えた喜びが表情に出ていたのかもしれない。
「魔剣はあの戦争の直後に爆発的に広がった魔力過多が原因とされている」
「レティーナ、茶を用意しとくれ」
まだ、成人していない子供?急に現れた少女は一言も言葉を発することもなくただこちらに一礼して部屋から立ち去った。再び視界から消えた途端それまで感じていた少女の魔力が感知できなくなったが…
「今の子供は?」
「戦争孤児と言った方が正しいのかもしれんが鉱物採取の時に通りかかった廃村で倒れていた子供だ、人知れずこの世を去るよりも…と思って引き取ったから養子みたいな立ち位置だな」
「それよりも魔力感知が反応しなかった方が気になるか」
「いや巷で『魔力災害』と言われている奴か、想像以上の魔力に身体が耐え切れずに結晶化して皮膚が一部魔石化する原因不明の病と言われているアレか」
竜の眷属を目の前にした時に感じた圧倒的な魔力は人間から生態的にも害であることは間近で見てきたから分かる。しかし服で隠しているつもりだが漏れ出る魔力は隠し通せるものではない…いやだからこそこの部屋か一見普通の隠し部屋に見せかけて至る所に阻害魔法が放たれている。
「何となくお前のしていることが分かったが聞いていた話とは違うな、根本的に魔剣を追い求め自らの手で生み出した奴だと聞いたが」
「否定はできんがもう魔剣を打つ鎚は捨てた、手の負えない物に執着した結果だ」
「その愚か者を訪ねて何を聞きたい、知りたいんだ?何も見えない真っ暗な洞窟なのにか?」
「今を生きていられるのは紛れもなく魔剣の存在があるからこそだ、今更手を引くわけにもいかない」
今も誰かの手の元で振るい続けられている一本の魔剣の名を口にすると奴は押し黙るもゆっくりとこちらを見る。誰に何を言われようと生きる理由を曲げるつもりなんてこれっぽっちも無い、曲げる時は俺が求める物を手に入れた時か、志半ばで人知れずこの世を去る時だけだ。
「魔剣を捨てたお前ではなく噂で聞いた【奇匠】のケルロス・ヴァヴァースに聞く、お前が造ったと言われている『遠吠え』の在処を知りたい」
「何故数十本ある魔剣の中から『遠吠え』を選んだのかは聞かないがあれは今現状使えない状態にある」
「使えない?誰かが持っているのか?できれば名前も聞きたい」
色んな情報を耳にした中で一番俺の気を引いた魔剣だ、どうにかして手元に置いておきたい。それだけの為に全てを賭ける覚悟はできているんだ。その時は製作者を目の前につらつらと私欲を垂れ流していたが何も言わず、ただ静かにを指を刺したがその先はただ壁に掛けている魔剣でもない剣の事を指していて他に理由があるのかと思った。
噂程度だが自らが造った武器や防具は皆全て居場所を感知できるとか口から発せられた言葉を鵜吞みにすればそんなのもあると聞いたが本当なのかもしれない。しれないが…指さす先はただの壁だった。
「俺の事をからかっているのか?」
「いや、今はもう少しこっちか?」
さっきまで話の通じる人間だと思っていたが急になんだ?こんな風に機会を失いたくはない、怒りが込み上げる所で高価な茶菓子と果水を用意するために席を外していた子供が扉から姿を現した。子供の目の前で怒りを抜き出しにするのは情けない、坊主の顔が一瞬頭を過り椅子に座り直し『奇匠』を見ると奴はやっぱりあっていたなと呟くと子供に茶菓子の礼を言っていた。
「甘いものは好きか?こっちは甘味好きが揃っているからこういうものも全て甘いのになってしまってな」
「いや、別に好き嫌いは激しくないから気にしなくていいが…本当にそうなのか?」
「ここで嘘を言って何になる、恐らく人類で初めて魔剣と同化して『魔力災害』を引き起こしたレティーナだ」
申し訳なさそうにこちらを向く子供が魔剣…『遠吠え』と同化した?急な事で頭がどうにかなりそうだった