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「じゃあさ、こういうのはどう?」

「はい?」

「俺と柚子ちゃんがホテルに行ったら、もうアプローチはしない」

「行くだけでいいですか?」

「まさか。セックス付き」


お前の頭はそ れ し か な い の か?


「他当たって下さい」

「あのさぁ、柚子ちゃん。セックス=恋人になるって訳じゃないんだよ?」

「それは先輩の概念です」

「柚子ちゃんが恋愛願望も結婚願望もないのはわかったから、それはひとまず望まないよ。けど、セックス位はいいんじゃない?」


なにこの人!思っている以上にシツコイ。そしてメンドイ。


「良くありません」

「柚子ちゃん、処女?」


更にぶっ込んで来た!!


「処女です。面倒くさいですよね?お互い利益がありませんから、さっさと帰りましょう」

「そうなの!?やった!さ、早くホテル行こう」


会話が噛み合わない!てか、本当に眠い!!


「蓮沼先輩、いい加減にして下さい」

「柚子ちゃん、俺がしつこいの気付いたでしょ?」


それはもう、十分に。


「一回スれば、このしつこさから解放されるんだよ?」

「‥‥」

「たったの一回で、もう面倒はかからないんだよ?」

「‥‥」

「いくら恋愛願望がなくても、人生で一度位、経験しといても、損はないんじゃない?」

「‥‥」


それは、そうな気もする。

恋愛願望がないからこそ、別に処女を大切に取ってある訳ではない。

そして、蓮沼先輩には何となく口で勝てる気がしない。

つまり、この言い合いは、私が折れるまで続きそうな訳で。

‥‥時間の無駄。

なら、さっさと要望を叶えて、さっさと寝るに限る。



「‥‥わかりました」

「よし、じゃあ行こう」

蓮沼先輩は、無駄のない動きで伝票を持ち、レジに向かった。

私が帰ろう帰ろうと何度促しても、一度も席を立たなかった癖に‥‥自己中なヤツめ!!!

「蓮沼先輩、お幾らですか?」

「‥‥出世払いでいいよ」

蓮沼先輩は珍しく目を合わせずに、そう言った。




☆☆☆




「柚子ちゃん、イかせられなくてゴメンね?」

「‥‥」

目を覚ました私は、蓮沼先輩に抱きしめられたまま寝ている状況を理解した途端、また気絶したくなった。


‥‥やってしまった‥‥(色々な意味で)


「処女がいきなりイけるとか、ないと思いますので。お気になさらないで下さい」

「え~、途中で柚子ちゃんが俺の事煽らなければ、もっと色々してあげられたと思うんだよ~」

「人のせいにしないでください。先輩が満足したなら、もう帰ります。もう、私の人生計画に首を突っ込まないで下さいね?」


いいですね!?と脅すように睨めば、蓮沼先輩は私の前髪をすくって出てきたオデコに、ちゅ、と軽くキスをする。


「ん?全然満足してない。だから、まだ帰らないでね?」

「先輩、今日も元気にお仕事に行きましょう」

「大丈夫、俺は有給休暇取ってあるから」

「私は取ってません」

「大丈夫、昨日のうちに、柚子ちゃん具合悪そうって編集部の皆さんに刷り込んでおいたから」


ほら、とスマホを渡される。


ふ ざ け る な


「‥‥サボりとかあり得ません」

ギロリと睨みつけ、私はさっと立ち上がろう‥‥とした。


あれ?


「‥‥」

「起き上がれないでしょ?処女にあれだけの行為はキツイと思うんだよね」

したのはお前だ。

無言でスマホを奪う。

午後からなら動けるもんかな?

「だから、まだ帰らせないから‥‥覚悟して?やっと抱けたのに、もうお終いなんて考えられない」

ちゅ、と首筋を吸われて焦る。

動けない=逃げられない=ヤられる=せめて電話するまで待って下さい!!



☆☆☆



「鬼‥‥鬼だ‥‥」

私はぐったりと、様々な液体でベットリ濡れたベッドに、生きる屍となっていた。

もうすぐ夕飯の時間。

朝起きてからずっと、エッチ→惰眠→お風呂→昼ご飯→エッチ→エッチ→エッチと、あり得ないコースを無理矢理付き合わされていた。


「はは、色々出来る様になったね♪」

対しての蓮沼先輩は、何故がお肌もツヤツヤ、さっきまでの行為でいつも以上に色気がムンムンしている。


しかし、この2日間努力しただけで。

もう、この男に付きまとわれなくなるかと思えば、清々する。

「じゃあ‥‥今度こそ、もぅこれで‥‥」

「ねぇ、柚子ちゃん」

「はい、何でしょう?」

「恋愛願望も結婚願望もなくても、多分今回の経験でセックス願望は出てくると思うんだよね」

「‥‥はぃ?」

「だからさ、その時は、俺を選んでよ」

「はぁ」

「俺なら、間違いなく君をイくところまで連れて行ってあげられるし、何てったって、後腐れないからさ♪」

「‥‥」


所謂(いわゆる)セフレというやつか。

まぁ、後腐れはなかろう。

遊び人だし。彼女作らないらしいし。

しかしだな、よくよく考えてみると‥‥この人イケメンだったんだよ!!

社内外問わずの、人気者!!

そんなのとこれ以上体を重ねて、余計な厄介事に巻き込まれたくはない。

しかし、今口を開くと、また上手く言いくるめられそうだ。

「そうですね‥‥考えときます」

と、答えるにとどめておいた。


蓮沼先輩は、私の顔を見ながらやんわりと笑った後、テーブルの上に放置したままの、私の黒縁メガネを取り上げて言った。

「ねぇ、柚子ちゃんさぁ‥‥何で、こんな物で、その綺麗な顔を隠しているの?」



煩い。


私の自由だ、と思った。



☆☆☆



「熊」がログインしました。


熊「うっす!皆!イベント励んでいるか?」

‡ペコペコ‡「あ、熊さん、遅かったですねー」

まっつん「待ってたょ★☆(*´з`*)☆★」

kaito「こんばんは」

Milk「ちわっすーノ」


今日も元気にゲームに勤しむ。

腰がガクガクでタクシーを拾って帰ろうが、脚もフラフラで手摺りのお世話になろうが、座るだけで出来る趣味は何の問題もなかった。

オンラインゲーム、素晴らしい。


kaito「熊さん、先日はありがとうございました。装備品、ギルド倉庫に戻しました」

熊「おう!まだ使っててもよかったのに」

まっつん「私も、そう言ったんだよぉー(o・д・)」

kaito「数値が良すぎて、多少操作ミスっても何とかなってしまうのが、逆に怖くて」

熊「成る程」

まっつん「kaitoさん、真面目さんー( ´艸`)」

kaito「あはは、そうですか?」

熊「そうだな」

kaito「リアルでは、まず真面目なんて言われない気がします」

まっつん「そうなのΣ(゜ロ゜)?」

Milk「見たまんま、真面目じゃんwww」



そう言えば、この前ダンジョン散策に行って驚いたが、kaitoさんは見た目めっちゃ「普通」を貫き通している普通の女の子だった。

黒縁メガネに、ひっつめ黒髪。

中身(ホンモノ)はどうだか知らないけど、見た目だけはむしろリアルな私にそっくりかもしれない。



kaito「熊さんの方が、よっぽど真面目だと思いますよ」

まっつん「我等がリーダーも真面目さんー( ´艸`)」

熊「どうだかねー」

Milk「見た目も中身もモッサリwww」

熊「中身がモッサリって何だ!!」

まっつん「モッサリ‥‥暑苦しいって事だね、熊さん愚弄するなんて許さないょ!(▼∀▼)」

Milk「いや、俺暑苦しいとまでは言ってねぇwww」

‡ペコペコ‡「言ったの、まっつんwww」

まっつん「バレた(o・д・)」

熊「www」

kaito「そう言えば、熊さん、このゲームでは見かけない姿ですが、何故その姿なんですか?」

熊「何故ならその時、黄色い熊さんが目に入ったから」

kaito「その時?」

熊「キャラ作った時」

kaito「それって、最近ですか?」

まっつん「まさか( ´艸`)」

Milk「4年は前だなwww」

kaito「そうなんですね、失礼しました」

熊「いや、別に構わぬ!さて皆、イベント何処までやったー?」



その日は、開催されていたイベントを皆で適当にワイワイやって、楽しんだ。



☆☆☆



目の前に、ピラリと原稿用紙が置かれて開いた口が塞がらない。

「‥‥あの、これは」

怖くて原稿用紙の持ち主の方を見られぬ。

「ん?400字詰め原稿用紙5枚。提出しろって言ったじゃん?早いほうが信頼されるかなーって」

勇気を出して、ちらりと横目で拝み見れば、ニコニコ、と形容されそうな笑顔で蓮沼先輩は立っていた。


更にその後ろには、こちらを窺い見る女性陣の姿があり、スゥ、と気が遠くなる。


「わわわ分かりました!この前お願いしていたやつですね、ありがとうございました!!!」

兎に角、このキラキラしい男を遠ざけようと試みる。

「うん、じゃあよろしくー!」

「おい、工藤ー」

丁度その時、我が社の熊さん‥‥否、乾部長からお声が掛かった。

天の、いや熊さんの助けー!!!!


「じゃ、先輩、また!!」

「あ、柚子ちゃん」

「はいぃ?」

「乾部長って、元からの知り合い?」

「いえ、違いますが?」

??何故そう思ったんだ??

「そっか。ならいいんだ。じゃあ、また」



☆☆☆



「柚子!この前はあの後、どーだった??」

「‥‥裏切り者め」

お昼を食べている時声を掛けてきた香澄に、極力低い声で答えれば、「ゴメンゴメン」と全く反省の色を感じない軽ーい返事でかわされた。


「だってさ、仕方ないじゃない?何処からどう見ても、蓮沼先輩柚子狙いだし。それでもずっと、柚子ネタ提供して頑張ってきたけど、あんなイケメン現れたら目移りするってば」

「え?」

「だから、蓮沼先輩と柚子がどうなったか教えてよ」

「いやその前に」

柚子ネタって な ん だ ?

「ん?蓮沼先輩が、柚子の事色々聞いてきたから、色々答えたってだけよ?蓮沼先輩狙いじゃなくなった今だから言うけど」

「いや、出来たらその時に教えてよ」

「だって、柚子が蓮沼先輩気になりだしたら意味ないじゃない?」

「どんな話したの?」

「んーと、柚子の小学校中学校の話とか、趣味とか、好きな食べ物とか、好きな番組とか、好きなお笑い芸人とか?」

めっちゃ話してるよ、この人!!!

「あー‥‥柚子の、お父さんの話は勿論してないよ?」

綺麗な付け睫毛をパサパサさせながら、上目遣いに私を見る。


私は女だから、そんな目をされても許さないよー?

「まぁ、話しちゃった事は仕方ない‥‥けど!罰として、あの後どーなったかは教えなーーーい!!」

「えーーー!!気になるぅ、教えてよーーー!!!」

彼女の口の軽さは、昔から知っていた。

だからこそ、彼女は「友人」止まりで「親友」に格上げされないのである。



同じ会社だと分かり、真っ青になった私を見て。

「工藤さんの、お父さんの話は誰にもしないよ」

と言ってくれた彼女。

きっと蓮沼先輩には話したくなったに違いない。

彼女としては、本当に我慢してくれたのだろう。

それがわかるから、怒る気にはなれなかった。



☆☆☆



蓮沼先輩から貰った原稿用紙は、驚く程綺麗な字でその想いが綴られていた。



今までずっと、見た目ですり寄る女という生き物に辟易していた事。

初めて研修をした時、研修内容についての純粋な質問をしてきた人は、私だけだった事。

研修内容を考えたのは蓮沼先輩(じぶん)だったが、テキスト(それ)を凄くわかりやすい等、評価してくれたのも私だけだった事。

以来ずっと、目が離せなくなって、私の真面目なところも強がりなところも見た目で人を判断しないところも、気付けばみーんな好きになっていて、他の女性関係はすっぱり切った事。

(この辺から、恥ずかしすぎて素面で読めなくなり、ビール2杯飲んでから先を読み進めた。)

普通のアプローチでは全く相手にされなかった為にこんな形を取ることになったが、出来たら振る前に、私が恋愛願望も結婚願望もなくした原因‥‥隠している本当の話を聞かせて貰いたい事。



丁寧に纏められたその想いは、ダイレクトに私の心に響いてしまって、正直驚いた。

こんな事なら、冗談でも、原稿用紙に纏めてこい、なんて言わなければ良かった。

真摯な気持ちに向き合わないという、私の選択肢はない。



‥‥素面じゃない、今なら逆に言えるかも。

どんな反応が返って来ても、傷付かずに笑って流せるかも。


私はその日初めて、「意を決して」七星竜雲にログインした。



☆☆☆



「熊」がログインしました。


熊「うっす」

kaito「こんばんは」

まっつん「熊さん来たー★☆(*´з`*)☆★」

‡ペコペコ‡「やほー」

カナデン「やほほー」

ゴルゴ333「やほほほー」



熊「インしたばっかで何だが、ちと不在」

まっつん「ぁい(*ゝω・*)ノ」

カナデン「いてらー」

‡ペコペコ‡「あ、私は落ちるわー」

ゴルゴ333「いてら&乙ー」

kaito「了解です、お疲れ様です」

まっつん「お疲れ(*´ω`*)」

カナデン「おつー、またねー」


「‡ペコペコ‡」がログアウトしました。



私は、kaitoさんにメッセージを送った。

メッセージなら、1対1で話が出来る。


「もしもし、そこの蓮沼先輩?」

「やっと気付いたか」

「普通気付きません。今日初めて香澄が口を割ったんで(笑)」

「てか、俺に本当に興味ないのがモロ分かり(笑)普通に本名なのになぁ」

「‥‥先輩、下の名前何でしたっけ?」

「‥‥だから、櫂斗(かいと)だって。柚子ちゃん、イジメ?」

「(笑)」

「で、どうだった?俺の力作原稿用紙!!(笑)」

「綺麗な字でした」

「え、そこ?」

「(笑)」

「私も貴方が好きになりました、とかないの?」

「好きとはほど遠いですが、話をしてもいいかな程度には思いました」

「ほど遠い(笑)」

「結構、個人的にはヘビーな話でして」

「うん」

「だから、話していて泣かない自信もないので、こんな形になりますが‥‥」

「どんな形でも、話してくれるなら嬉しいよ」

「そうですね‥‥何から話せばいいのか」

「小学校中学校の頃はマドンナだった話からは?」

「‥‥香澄から聞いたんですか?それは、不要な情報です‥‥が、そうですね」

「うん?」

「私が、容姿に恵まれた理由は、両親がとても綺麗な人達だったからです」

「うん」

「母は、元々モデルをしていた人で。父は普通の高校教師でしたが、やはり昔はバンドとか組んでいたそうです」

「うん」

「私が、高校に入った時。父が、事件を起こしました」

「うん」

「当時はネットで検索すれば、すぐに引っかかりましたが‥‥教え子達との、不純異性交遊でした」

「うん」

「自分の子供と同い年の子供に手を出したので、テレビで沢山取り上げられて‥‥私も母も、居場所を無くしました」

「うん」

「母は、元々バンドをしていた父のファンだったので、父を愛していて。そんな母は、父と別れたがりませんでしたが、結局、私の為に離婚して、そこから私は母方の祖父母のいる田舎に引っ越し、母方の姓を名乗って過ごしてきました」

「うん」

「先ほど、不純異性交遊と言いましたが‥‥真実はわかりませんが、乱暴された、と証言する生徒の方もいて。交際していた、と言う女生徒もいましたが、それは片手では足りない数でした」

「うん」

「他にも、買春していた等、色々芋蔓式に問題も発覚しました」

「うん」

「だから、私は父の様なイケメンの遊び人が嫌いですし、母の様に相手に縋り付きたくないですし、恋愛願望もありません。父の犯罪行為のせいで色々嫌な思いをしているので、恋愛自体をしたいと思わないのです」

「うん」

「更に、父が犯罪者と知っても結婚しようなんて思う男性も、それを歓迎するご家族の方もいるとは思えないので、結婚願望もありません」

「うん」

「そう言う訳です。だから、先の見えないお付き合いをしてもお互い疲れるだけなので、私は蓮沼先輩とはお付き合いしません」

「そっか」

「はい」

「じゃあさ、恋愛感情とか無しでいいから、これからも俺と付き合ってよ」

「無理です」

「何で?」

「イケメン過ぎて、嫌悪感が。ついでに、女性陣が怖すぎて無理です」

「柚子ちゃん的にも、俺はイケメンなの?(笑)」

「まぁ、そうですね」

「女は黙らせるから。あ、俺が柚子ちゃんみたいに黒縁メガネかけて、前髪パッツンにすれば、大分変われるかも」


や め て く だ さ い


「迷惑です」

「うん。迷惑掛けてる自信はある!」

「私とお付き合いなんて、ご両親とか許さないと思います」

「あ、俺両親いないから大丈夫」


‥‥。

何だかサラッと言われたけど、申し訳ないこと言わせちゃったかな?


「俺の本気、信じられない?七星竜雲(こんなこと)までして、ストーカーしてるのに(笑)」

「ストーカー(笑)‥‥いえ、きちんと原稿用紙提出して頂けたので(笑)、そこは信じます」

「じゃあ、何処が問題?」

「‥‥情がうつった時が、問題です」

「あはは(笑)」


先輩は笑うが、私は本当に危機を感じている。

処女だったから、知らなかった。

躰を重ねると、相手に対して情が湧く事を。


「いいじゃない、情がうつったら、うつった時に考えれば」

「‥‥いや、良くないです」


私のパーフェクト人生プランに差し障りが。


「ねぇ、柚子ちゃん」

「はい」

「俺さ、しつこいから」

「‥‥はい」

「さっさと諦めて、俺と恋愛感情抜きの関係、はじめちゃった方が楽だよ?」


じゃないと、黒縁メガネマジで買うよ?と続ける蓮沼先輩。

そ れ は お ど し だ !


「先輩の時間、無駄に使わせる事になりますよ?」

「今まで女関係のが、十分無駄だったから大丈夫♪」

「‥‥最後、思うとおりにいかなくても、怒らないで下さいね?」

「結婚願望ない事はわかってるよ」

「‥‥仕方がありません。先輩にお付き合いします」

「先輩()、お付き合い、って言い方じゃないのが柚子ちゃんらしいね」


‥‥何故だか、脳裏に肩を震わせて笑う蓮沼先輩が想像出来た。


「じゃあ、今度一緒に遊びに行こうね!」

「私が好きな事でしたら。それと、会社では絶対に絡まないで下さいね?」

「りょーかい♪」


結局、私が折れる羽目になった。

遣り取りを終えて、私がログアウトしてから気付く。



‥‥あれ?1回エッチしたら、もう私にアプローチしないって約束は何処へいったんだ‥‥!?!?




☆☆☆




「‥‥ねぇ、柚子ちゃん」

「何でしょう?」

「そろそろ、(ほだ)されてくれた?」


私達が、恋愛感情抜きのはずのお付き合いをはじめて、1年。

遊び人だった筈の蓮沼先輩が、私をどれだけ大事にしてくれているか、わからない程、愚かではない。


「‥‥まぁ、蓮沼先輩の事は好きです」

「やった!!俺も、大好き。柚子ちゃん」

「ちょ、待っ‥‥!!!」



☆☆☆



それから、更に1年。


「‥‥ねぇ、柚子ちゃん」

「何でしょう?」

「そろそろ、観念してくれた?」


‥‥。

横には、綺麗な夜景。

目の前には、それに勝るとも劣らない指輪がキラキラ輝いている。



仕事と趣味に生きて結婚せず、貯金を貯めて、狭くていいから病院やスーパーが近い立地でマイホームを手に入れ、それを(つい)住処(すみか)とする事、それが私の慎ましい夢だった。



‥‥おかしいなぁ?何処から狂い始めたんだろう??



私は首を傾げながら、目の前の蓮沼先輩の柔らかな微笑みをじっと見つめた後。



仏頂面で、はい、と答えた。



そんな私を見て、肩を震わせながら、「流石柚子ちゃん」と笑う先輩。



元遊び人に、私の慎ましい夢は壊されたけど。



‥‥それを、幸せだと思った。








数ある作品の中から発掘&お読み頂き、ありがとうございました。

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[一言] お互い内面に惹かれあったのが微笑ましいなぁ あらゆる手を尽くして情報を得てほんの少しでも接点をとゲームにまで乗り込んできて、 女にだらしない欠点を克服した仕事のデキる完璧超人のイケメンと、普…
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