第五話 1
「コロス…コロスコロスコロス!!!」
バリンと鏡が割れる音をきっかけに、変形した空間は足場までも崩していく。ドロドロにとけた体に抗おうと触手達は数段気色悪い色をして、異形の体を支えていた。
「すみません、私のせいで…」
一回は安心した目を向けていた彼女は、今の状況を見て虚な瞳に戻りかけていた。それを安心させるように彼女の頭をくしゃっと撫でると、そのまま数歩前に出てミラーと唱える。
彼女とオレの間に空間が生じた。
それがどんな意味かを悟った彼女は左手の袖を掴むと同時に、花達が原型を留めないまま向かってきた。それを斬りつけタイムと唱えると異形の全体の動きが止まった。
「あの子、助けに行くんだろ?…オレじゃなくあんたが助けないとな」
「…はい」
ふぅと今まではりつめていた息を吐き出すと、オレは彼女を向き合うように後ろに向いた。ようやく彼女と目が合う。泣きかけを我慢しながらもまっすぐ、オレを見るその瞳に自然と安心感が生まれた。
辺りは再び静寂に包まれる。時々パラパラと壊れかけた校舎の小さな瓦礫が廊下に落ちるぐらいで、鳴り響くのはカチコチと止まっている間を告げる時計の針の音のみだ。
「…っ」
ふらっと目の前が少し暗くなる。それに気付いた彼女は慌てて支えてくれた。
後少ししか異形の時を止められない。時間の歪みが生じれば時系列が可笑しくなるし、ロックとは違い一時的なために意外にも体力を使う。…だから。
「……あんたはこれから大切な奴が沢山出来る。だから心配するな。オレが保証する」
「…!」
彼女の目が驚きで見開かれる。そしてやっと、彼女の目から暖かい涙が溢れる。それをあやすように頭を何度も撫でた。……そうだよな、寂しかったよな。この子は。
今まで会った中でも特に慈悲をかける性格と反する異様な体質。彼女自身は気付いていなさそうだが……まぁ、それを言うのは最大のアレになるし言わない事にする。
彼女の涙が一通り収まった後、彼女に倒れている人を抱えてこの場から出るように言う。それを聞いて一瞬は躊躇ったが…覚悟を決めてうなずいてくれた。
「…またな」
「ありがとうございました、お、お元気で!」
彼女に別れを告げると、オレはミラーの中に入っていった。
◇◇◇
『アアアアア!!』
彼女から別れミラーの中に入ったオレはいきなりあの耳に不快なノイズが聞こえてくる叫びで襲いかかれた。
反射神経を生かして花と触手を斬る。また素早く再生して次々に建物を壊しながら異形は進んでいく。まぁ、マジックミラーだから実際には壊れないけど。RPGでもないが攻撃パターンがあることは読み取れたが、まだ予測はできない。
「早めに終わらせないとな…」
ぼそっと呟きながらも、斬りながら思考を巡らせてこいつを考えた。
一つ目、こいつはオレの動きをどう判断するか「目」で見ているということ。大体の人外は自我はあるが攻撃するだけで精一杯だが、こいつは何処か人間らしく攻撃をしてくる。
二つ目、自我が分断しているという事だ。さっきあの子が襲おうとしていたのっべらぼうらは異形とは別の自我があるせいで意思と反する複数同時では動きも鈍い。そして、目で補っている。
_____つまり、こいつの両眼を失明させれば何も出来ないはずだ。なら……。
オレはブンと今までの刀を消し、攻撃が来る前に即座に死神ほどじゃねぇが両手に大振りの鎌を持つ。扱うのに一般は無理だが、軽くリーチが取れるし何より投げた時の速度と攻撃範囲が広いからだ。
『サッサト、シンデクレ、タノム』
「おれのセリフだ!!つーかさっきので終わりで良かっただろうが?!…誘ったのはてめぇだ、ちゃんと落とし前つけろ」
ピタッと攻撃が止まりしゅんとなる異形。不覚にもその表情が可愛いとさえ思え……いやまて、猫か?猫だよな?構って欲しいけどクールに見せたいけど、遊び道具出したら全力で遊んでる猫だよな?つーか急にシリアスとギャグの温度差半端な……いやオレがそうしてんだわ、これ。
一人ツッコミを脳内でしたオレにウケを狙ったのか何も喋らず攻撃を開始する異形に、なんか喋れや?!と適切なツッコミを叫んだ。