第四話 2
後ろ姿しか見えないけれど、黒髪で耳には何かの紋章なのか赤いイヤリングを左耳に付けていた。スボンも上着も黒で、シャツは白というラフな感じだった。
「作者さぁ…救う人も出さないとかどれだけ絶望させたいんだよ…」
ボソッとメタイセリフを言い、彼は紅いお札がついた鞘に収まっている刀を取り出した。よく見たら、ニヤニヤとこれ以上ない幸福な顔をしている異形の表情が固まっており空間が止まっていた。再度アンロックと言い、解除したや否や異形は怒りをあらわにしていた。どうやら別空間にいたらしく、時間は別に流れていたらしい。
『己…!!!よくもわしを』
言い終わらないうちに、彼はスパッと大量のあった異形の触手を一撃で斬った。それに驚くものの、逆上した異形は次々に触手とのっぺらぼうの大きな口が開いた花を最大限生やした。
「これが本気かぁ?…ふっ、サゴだな」
『けがわらしい!!属さぬ貴様がいうでない!!』
ドォンと勢い良く飛び出した花と触手は、次々に彼に襲いかかっていく。どんなに斬っても瞬く間に再生する触手と死角から狙う花…普通なら直ぐ様死んでしまうこの状況なのに、彼は私の前から一歩も動かないまま対戦していた。
「っ…!?」
顔なし喰い花が私と守谷さんの方に向かってくる。守谷さんの出血はいつのまにか止まっていて安心したけれど意識はないため逃げられない。ナイフも無く守る武器もない私は覚悟を決め、腕を差し出した。
少し驚いたその花は軽く首を傾げたが意図を読み取ったのか、ぐわぁと口を大きく開けた。それを気付いた他の花も一斉に私の方に向かってきた。
『くくくっ…小娘どもが殺られるぞ?小僧?』
その隙を突いた異形はガチッと彼を抑えつける。後もう少しで喰われる私を目を見開いた彼は、動けないはずなのに彼は舌打ちをしてガリっと指を噛む。その滴った血からまた別の刃がある武器が現れ、一気に捕らえていた触手を斬った。
「っ…馬鹿な事すんじゃねぇ!!」
ドンッと衝撃音が聞こえた。私たちの方へに走り出し……喰おうとしていた花達の口を真一文字に斬りつけた。所々彼の血がポタポタと点を追うように垂れていたが、涼しい顔をしている。
『邪魔をするな!!わしはあの忌み娘を殺めると契約したんだぞ!!契約は破れぬ!!』
「約束だぁ?…んなもんオレが斬った」
『!?』
なら視覚化してやるよと言った彼は片目だけ翡翠の目になる。それを見た後思わず目を閉じた。一瞬だけ両目に圧がかかったがすぐに解けて目を開けると、そこには深い闇の糸がこの空間上に張りめぐされていた。
糸はぐるりと方向を曲げて彼の首や体に巻きつく。それをスパンと容易く斬った。そこからぐにゃりと黒い陰…いや、ナニカがその異形に侵食していく。
『ぐああああああ!?』
異形の体がドロドロと溶け始めていく。見るに耐えない私は顔を背け、ぎゅっと握りこぶしをする。なにも出来なかった無力さと招いた事態なのに。
「こいつは…心の奥底にある願いを捩じ曲げて叶えて命を奪う、悪ーい怨霊様だ。だから、あんたは悪くない」
「え…っ」
こんなに怪我をしているのに、彼はにこっと優しく微笑んだ。でもと何度も聞いても大丈夫だという彼の声に嘘はないと思った。
『キモチワルイ…キサマラシネバイイ!!!』
「死ぬのはあんただ、クソ野郎。どれだけてめぇは反した願いで人を殺してきた?…精々苦しめ。」
『ダマレ!!!』
ぐわんと空間が歪み、所々場所が欠けていく。ため息をついた彼は、辛抱できるか?と聞いてきて、私はこくんと頷いた。