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第三話

 バシンと何度も何度も体に痛みが走る。体育館の道具置き場の中数人の先輩達に囲まれた私は、痛みが襲う瞬間を、楽しむ表情を見るのが怖くて顔を隠す。それに呆れて怒った一人の女の先輩がグッと髪を掴んで無理矢理顔を上げさせた。


「テメェムカつくんだよ、不幸呼びのくせに」

「おいおい、さっきまでの無感情はどこいったんだよ〜?」

「す…すみません…っ」


 威圧といい、恐怖で目が泳ぐ私の顔が気に入らないのかドンッと体を突き飛ばされる。その後ろは色んな小物が置いてある棚で、ぶつかった衝撃で棚の上に置いていた保存用のバスケットボールが落ちて、私の体に次々と当たっていく。痛がる表情に満足したのか、先輩たちはスマホを取り出し私の姿を動画で撮り始めた。


「ほらほら、土下座しろよ土下座を〜!!」

「受験期なのに、一年生の分際で先輩に迷惑かけてすみませんでしたって謝れよ!!」


 ケラケラと笑う先輩たち。運悪く、終礼がもうすぎ始まるチャイムが鳴り焦っていると、早くと催促された。土下座をしないと終わらないと判断した。土下座をしようとペタンと座っている体を正座に直し、頭を下げた……はずだった。どこからかポンッと動画の撮影が終わる音がした。


「撮らせて貰ったわよ、この状況。…あーあ、随分とこれまた酷いわねぇ〜先輩方?」


 物陰から出てきたのは、守谷と呼ばれたショートヘアーに青灰色をした目の女の子だった。制服を着崩して暑い言ってと青ネクタイを少し緩めた守谷さんは、大きなため息をついた後見下す目で先輩方を睨みつける。それが気に食わないのか、男の先輩が彼女に殴りかかろうと向かっていく。それを彼女はひらりと避けて、隙が空いた瞬間に男の先輩が着ているシャツの襟の後ろを掴み、思いっきり投げ飛ばした。


「…君は逃げな。こいつらは私が軽ーくシメるから大丈夫」

「「殺そうとしてんじゃねぇかよ?!」」


 にっこりと笑った守谷さんの顔が怖い…恐怖なのか咄嗟に出た先輩方のツッコミを完全スルーし、守谷さんはコツコツと私に歩み寄って私を優しく立たせてくれた。そして私は大丈夫だからとまっすぐ私の目を見て言っていた。立たせてくれた時の向かい合いから、体を位置を元に戻し私を庇うように前に守谷さんは立った。


「ぜーんぶバラして受験合格取り消すどころか内定取り消しますけど。それでもいいなら…こいよ、屑どもが」


 守谷さんに挑発された先輩方は彼女を4人がかりで潰そうと殴りかかった。4対1という不利な状況で身長も全員彼女より高い。まだ逃げ出していない私に守谷さんは逃げて良いと痛みに顔を歪ませながら言った。

 私は言葉に甘えて、心の中で何度も謝りながらその場を立ち去った。




◇◇◇


「じゃあね、さよなら〜」

「「「さようなら」」」


 なんとかギリギリ間に合った終礼が終わり、クラス内はバラバラと教室を出て行く。これから遊びに行く人、彼女や彼氏を待つ人、そのまま家に帰る人…三者三様だ。みんなと同じように教室を出るけれど、途中で逃げ出してしまったから、またあそこに行かなければならない。私はみんなとは逆方向の方面に体を向けた。逃げたした罪悪感と恐怖で震えた足を、無理矢理動かした。


「ねぇ、今夜は数年に一度の青月夜らしいよ〜?選別されにいく?!」

「行こう行こう!あーあ、幸せになりたいなぁ〜」


『幸せなりたいだと?…ならばこのわしが幸せにしてあげよう。小癪な餓鬼ども』


 体育館に向かう途中、廊下の角の向こうから聞こえてきた会話に動かしていた足が思わずピタリと止まる。不快なノイズ声の主は、先日先生を自殺させた異形の声だった。声が二人の悲鳴が廊下に響き渡り、何事かと集まった人も異形に恐怖や悲鳴の声が上がる。

 異形は他人を殺す…フラッシュバックした思わず私はその場所に向かった。先日視えた蛇型よりも数段大きく廊下全体を覆っていた。私の前には異形がいて、まだ気付いていなかった。


「ほら、不幸呼びが来たぞ!!お前が呼んだんだろ!不幸を!」

「何!?気持ち悪い…!嫌だ来ないで!!」

「死ねばいいんだよ、あんな奴!!」

『くくく…どうだぁ?素晴らしいだろう、この状況?』

 

 罵声が飛び交う中、私はもう何も感じることはなかった。いや、目の悲惨な状況と罪悪感に駆られていた。

 どれだけ些細なことでも、自分が逃げ出したり現実から目を背ければその分他人に不幸が来る。他人に聴こえて、視えるという最悪な状況を起こしてしまったのは、さっき自分が逃げてしまったからだと悟った。


『私が責任を取らなきゃ…。また大勢の人が死ぬ』


 いくら罵られようが異形を呼んでしまった事実には変わりない。中にはきっと何も関わりのない人だっている。そう思うと不思議と心が静かになった。私は覚悟を決めて異形の方に歩み始めた。罵声も相変わらず止まないが、私にはどうでも良かった。異形は私が近づいてくるのに気づき、ずずず…と体を私の方に向けた。

 不幸にならなきゃいけないのは、私の方だから。だから……。


「____ねぇ異形さん、私を幸せにしてくれる?」

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