第二話
「SNSの使い方には注意しろ〜?匿名希望者が掲示板で本名や学校名、プライバシーに関することだ。それを書き込むことは絶対にすんなよ?……あー…聞いてねぇわ…これ」
ざわつく公演会場。スマホばかり見たり寝ていたりするこの昼下がり。講演をしてくださっている強面なチャラめ(?)の警部さんの話は呆れ半分、青春してんなぁと皮肉を溢した。今日はSNSの使い方について警察の方から1年生と三年生向けのを開いているが、ご覧の有様。誰も聞いていない。
「つまんないじゃーん、こんなのー」
「サボれば良かったなーどっかの不幸呼びさんのせいで作業増えたし」
「つーか、どうして受験生の俺らがこんなの聞くんすか?」
「帰りた〜い」
そんなことを言っては、私以外誰も真剣に聞いていないが「不幸呼び」と誰かが言えばチラチラと私の方を見て笑う。そんな毎日に何も感情が起こらなくなった。それに加え、先日私の高校の数学の男性教師が自殺をしたとテレビで報道されて以降、記者が押しかけ授業どころではない大騒ぎとなり、それに対応してくれたのがこの警部さんだった。
今日も夏だというのに薄めな長袖のコートを着ていた。彼と言ってもドラマで見るような警部さんの格好ではなくガラガラのTシャツにチェーンがついたズボンを履いてサングラスをしていた。側から見ればヤンキーだったから警部でそれも位の高い人だということに衝撃を感じたことは忘れられない。
「そんなこと言うなよ〜お前らもう高校生だぞ?一番前の新一年ちゃんすっげぇ真面目に聞いてるし、大人だなぁ〜……お、やればいけんじゃん」
嫌いな人のことを良く言われる事が悔しいのか、それをきっかけに一斉に水を打ったかのように静かになった。先輩たちの視線が怖いが乗り切った。いつもなら表情に出してしまうが、今日はなぜか大丈夫だった。感情が大きく動けば視えてしまう「異形」も不思議と視えずに警部さんの講演会は無事に終わりを迎えた。先生方が平謝りする事態となったけど。
「不幸呼びさーん、放課後いつものところな」
「今日は逃げても無駄だからな?」
「…はい」
『人間っつーうのはな、気付けりゃ誰でもまだまだ成長できる。自己中な馬鹿みてぇなことして後悔して気付くより、周りの人のことを考えて得た気付きの方が、同じ気付きよりも心地良いだろ?…変われ。まだ間に合う』
公演の最後に警部さんが真剣な眼差しで言っていた言葉をふと思い出す。公演会から教室へ帰る通りすがりに先輩方が言った言葉の恐怖は自然と薄くなった。不幸呼びだろうが自分に気付きが有れば…私はいつもより暖かい気持ちでその場を後にした。