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ネグリと付与の魔剣  作者: 椎木唯
序章 ネグリと魔剣さん
3/12

全身筋肉発達系美女(活発運動系)はお嫌いですか?

普通に書き足していたらめっちゃ膨れました。分割も考えましたが分割前提で書いていないので…

大は小を兼ねるって言うからね!!

「被告人前へ」


「え?」


 ガチャ、と断頭台に手首を固定され、首を木の板で固定される。


 冷たく無骨な手枷が、これはウソではないと証明してくる。妙に冷たく、無情に体温を奪ってくる。

 ギッチリとハメられた首を固定する木の板に可動域をバンバンに制限されながら声高々に「被告人」と言ったハゲを見る。場所は青空断頭台で、屋根は無い。そんな晴天の太陽光がハゲの頭を照らす。

 ハゲの頭は恒星だったのか…。そう、ふざけた感想を抱かないと冷静さを保てない。


 僕の心情を完全に無視し、ハゲは言葉を続ける。


「罪状を読み上げる…正式な許可なく危険区域に侵入し、無闇に新生物を刺激した『国家反逆罪』」


「国家反逆罪!?」


 近くに居る、ギロチンが繋がったロープを握る女竜騎士に「助けて」と、全身全霊で懇願を込めた視線を送るが…やんわりと微笑み返された。はい、頼みの綱が無くなりました。

 とても、とても大変です。主に明日が。

 平安に、平常に、日常を送りたいって僕の夢は何処へ…。願いが郵便で地獄に届けられたみたいである。再度、無骨な冷気を帯びた手枷が現実味を出してくる。ウソではない、本当だぞ。そう問いかけるようで…心は別の方に向かってしまう。

 矛先は剣の状態で黙っている魔剣さんに行く。


 どうして貴方はロミオなの!? なテンションでどうして貴方は剣のままなの!? と、剣に当たり散らすが、独り言は独り言のまま処理をされ、心の中に虚しさが返ってくる。心の声なので他の人からは変に思われていないが…それは問題外である。他の人って言うか、見物人は誰一人として居らず、居るのはハゲと女竜騎士だけであるのだ。

 虚しさがより加速する。


 死後、遺骨は海に放って魚類達の餌にでもしておくれ…。

 と、遺書を書きたい欲が出てしまう。本音は死にたくないである。何が国家反逆罪だ、主犯はイジメっ子である。誰か特定するには該当する人物が多すぎるけど…。

 まあ、僕も見方によっては協力者である。どんな正義も、国家権力には塵に等しいのだよ…。


 巡り巡って社会に反旗を翻そうと、リアルに国家反逆を企てていると…首と手首にかけられた枷が外された。あれ、無罪放免? 誤認逮捕?

 一番近い可能性として、武器の切れ味を試すために動く藁人形として扱われる可能性だけど…時代は現代である。残念ならがら、江戸とか奈良時代ではないのだ。武士以上に強烈な武力や野心を持った人が溢れる世界になったけど。


 若干の弄ばれそうな自分の命に愛しさを感じながら立ち上がる。ハゲはめっちゃ笑っていた。


「所謂ドッキリって奴であるなっ!! 前線基地なので法律の強制力は無く、主はワシである!! ガハハ!! よって、無罪放免! ゆっくりとしていくが良い! 未来を担う青年よ!!」


 バカ笑いしながら神父服を脱ぎ捨てるハゲーー本名ユーゲイル。竜護舎の団長で、恐らく男性の中で一番有名人である変態である。まあ、変態は多分僕と女竜騎士しか知らないスキャンダルだろうけど。

 竜の扱いが一番上手く、AGMの扱いも上手なユーゲイルは誰もが羨む尊敬すべき生きる偉人である。圧倒的に鍛え抜かれた身体で生み出される豪腕で振われたAGMから生き延びた新生物は居ない、とそう断言される程頭一つ飛び抜けた人だ。


 そんな羨まれる人物であるのだが…服を脱ぎ捨て去っていく後ろ姿はパンイチの変態であるし、どこをどう見ても露出狂である。盛り上がった背筋はロッククライミングできそうな位であり、ボディービルダーかな? 大会前のポージング最終調整中なのかな? そう庇護しても庇護しきれない、ウサギ柄のピンクブリーフパンツである。

 良い意味…なのかはまだ心が整理できていないが、死ぬ恐怖を忘れられた事は感謝である。元凶であるが。

 鍛えられたケツをプリプリとさせながら去っていく後ろ姿に、どこか畏怖すら覚えながら竜護舎へ入場である。


 いきなり女竜騎士の人に連れられて、立たされたのは断頭台であったが…そんな裁判みたいなノリで死刑遂行しないで。と、本音である。

 何百ものオブラートを被せ、僕なりの自己解釈を重ねた結果の初対面のジョークの様なものだろう。そう考える。過去は過去であるのだ。今は夢にまで見た竜護舎の内装に目を輝かせないといけないのだ。


 女竜騎士ーーメイと名乗った彼女に連れられて向かう。完全に立場が逆である、逆リードな状態だが…まあ、誤差であろう。握る対象がギロチンが繋がったロープから僕の手に変わっただけである。別の意味で心沸き立つものがあるのだ。だってメイさんは美女である。体育会系な活発系っぽい容姿だけど。

 心多いに揺さぶられながら大きく、巨人しか開けられないんじゃないか? 思ってしまう程の巨大な扉を通る。ステンドグラスから抜ける光に眩しさを覚え、目を閉じてしまうが徐々に慣れる。次に開いた視界に映ったのは大聖堂のような空間だ。イリュージョンか何かですか? とそう思ってしまうような変貌である。突き刺さっている外装に、この大聖堂のような内装はギャップが凄いじゃありませんか…。

 内装をよく見る。大聖堂って感想を抱いたのは正面にドラゴンと女性がお互いをお互いに愛でる像が置かれて神聖な雰囲気を感じる。えっちであるとも言えるし、芸術的だとも言える。そんな不思議な像があるからだ。センシティブである。ケモナーじゃないので僕…。

 ドラゴンをケモノと定義するかは謎であるが、まあ大聖堂である。長椅子が両サイドに等間隔で配置され、結構な人数収容できそうである。異様に思えるのは入り口を抜けた先に、両サイドに2階へと繋がる階段がある事だ。完全に居住スペースとなっているようで、洗濯物が室内干しされている。外天気良いから干せば良いのに…と、主夫のような感想を抱いてしまう。


 まあ、雑誌にもニュースにも取り上げられたいない竜護舎の内装は意外にも私生活が見えるものだった!! と、新事実に驚愕しながら、現実を直視する。


 雑誌にもニュースにも取り上げさせない、秘密である内装を僕に見せたって事は帰らせない考えであろう。何が「ゆっくりとしていくが良い!!」だ。ゆっくりがゆっくり(死ぬまで)とは聞いてない。

 ここで僕の常識あふれる頭脳が正解を導き出す。前線は国家機密である。いや知らんけど。まあ、多分マンボウが一回に産卵する卵の数よりも秘密に溢れているだろう。んで、そんな情報の宝庫にも負けず劣らず竜護舎は秘密の塊である。どっちも、どっちで新生物への対抗手段とか特殊な討伐方法とかそんなのがあるんだろう、と仮定する。

 竜護舎、有名な新生物殺しの集まりであるが善意団体ではないのだ。金を貰って行動してるし、依頼を受け新生物を倒していたりもしている。そんな生きる為に必要な金を稼ぐ方法である秘密は企業見学的なノリで見せてくれないだろう。


 つまり、何も知らない一般生徒が前線に? しかも新生物を討伐した実績を持っている? 戦力にするしかないでしょって話。

 それなら勝手に前線で戦ってても何ら問題はないし、むしろ戦力が増えて金がより稼げるって寸法である。全部が全部想像でしかないけど…まあ、最低でも返してくれないってのは真実だろう。聞かなくても分かる。


 いきなりの急展開にああ、アーメン…と、センシティブな像に祈りを捧げたくなるが僕の頭は急加速する。思考のフルスロットルだ。

 結局、帰れないのは前線の情報を外に漏らさないように口封じを測る為である。であればその判断をしたのは? ユーゲイルである。ではその人物に僕を報告したのは? メイさんである。

 ジト目で、僕に与えられた自室に一緒に入り、お茶しているメイさんをガン見する。この一瞬だけは目が腐って見えるだろう。そんな恨み辛み妬みを含めた視線である。命の恩人だけども、今はその話は傍に置いておく。今、現状僕は生きているのだ。なら問題ではない。


 僕のジト目を正面から受けたメイさんは手に持ったマグカップをテーブルに置く。しっかりと飲み干しているのでユーゲイルと似たような座った根性の持ち主であるのが見て取れる。まあ、ユーゲイルは僕の視線をガンスルーしたのに対し、メイさんはしっかりと反応をしてくれたのでそこで差別化である。まだメイさんは人としての感性が残っているのね…と、勝手に感動する。

 メイさんが渋々と言った表情で説明する。


「そんな腐った視線向けられても困るんだけど…確かに私が連れて来てしまったのが事の発端ってのは理解してるけど…君も君で『イジメで前線まで送られました』って移動の最中に言ってたよね? それ『蒼龍山』とか『連合騎士団』に言ったら一発で斬首だよ? 一頭身になっちゃうんだよ?」


「いや、その…それはそうですけど、僕が言いたいのはどうして連れてきたのかって話で…」


「…お腹が空いたって言ってついてくるのに了承したのは君じゃん」


「そっすね…」


 前言撤回。メイさんは命の恩人で、敬うべき対象である。一生心の姉さんとして慕いますんでこの狼藉はどうか水に流していただければ…。部屋に置かれたお菓子を渡すことで許しを得た。寛大なおかたである…。


 と、自身に恥を覚えながら先程でた名前を思い出す。蒼龍山も連合騎士団も有名どころの傭兵の集まりーーまあ、所謂クランだ。

 蒼龍山は独自に狩って作ったAGMを使用し、その作成数は有に数十を超えると言う。勿論トップクランでも最多の所有数である。

 そして、その新生物を積極的に討伐し、獅子奮迅の成果を挙げる武力派で知られる。年に一回『武力大闘技大会』を開き、有望な出場者を団員に加えるとの行事を行なっている。因みに教育機関の方に参加権が三枠与えられるので、毎年しのぎを削るミニチュア『武力大闘技大会』が行われているのだが…生憎関係ない話である。実力カスだしね、僕。そして戻れないしね、僕。


 連合騎士団は連合を組んだ各国の騎士達の団である。読んで字の如くだ。

 竜護舎や蒼龍山と違うのは国が主体って点であり、活動資金はAGMの販売で濁流のような金が動いている蒼龍山とタメを張れる程に額がぶっ飛んでいる。国の国家予算に匹敵するとかしないとか。金に物を言わせた装備の品々、裕福な事から出る心の余裕などが合わさり相当に強い集団なんだと。様々な人種が集まっているので、入団を婚活を称する人も居るとかいないとか。大体が筋骨隆々な老若男女なのでボディービルの会場を彷彿とさせるらしい。


 まあ、両者とも武力派手有名なクランである。もしそんな人達に出会ったら、完全に怪しさの塊である僕は死確定である。多分猶予とか、命乞いとかさせてくれる暇なくだるま落としみたいに首を刎ねられるだろう。その後に生首を剣に突き刺し、天高く掲げられるだろう。悪魔じゃん、僕。


「確かにごもっともで何も言い返せないです…僕の早とちりで不快に思わせてしまって申し訳ないです…」


「きゅ、急にしおらしくなるね…。でも命あっての人生だからそこまで深く考えなくて良いよ。ほら、団長の言う通りゆっくりしてくと良いよ! どうせ明日には前線に送られるんだから」


 至極当たり前のように、今日の天気なんだっけ? のような気楽さで豪快に爆弾を落とす姉御、改めメイさん(19)意外にも若いんだね…と思うが竜護舎は若き天才の集まりだと言う。最年少は十歳とか聞いた事あるけど本当なのかしら…?


 瑞々しく、恋愛心真っ最中な大人と子供の狭間で葛藤する良い年頃のメイさんである。勝手な思い込みだけど。だけど、爆弾発言をしたのには変わらない。可愛さで許されるのは愛玩動物だけなのは周知の事実。猫が史上。次いでダックスフンド。

 どうやらメイさんは活発運動系な人であるみたいで、日焼けした肌に、追い討ちをかけるような凛々しい表情。そして幼さが残る顔立ちで呆けた表情になっている僕にハテナを浮かべているが…僕は男女平等主義である。いや、この状況に平等とか不平等とか関係ないんだけど。

 …マジで男女平等主義関係ないな。明日出兵宣言で頭でもイカれたのかしら? これ以上頭を悪くさせられたら鶏未満になっちゃうかもしれないじゃん! そこまで頭の容量は少なくないが。


 クソ程くだらない思考が脳内を支配するがメイさんは知らない所である。そりゃそうだ。妄想は個人に許された最後の自由だからね。だから僕は最後の自由で、思考の翼を広げて大空へ逃げるんだぁ…。


 どうやら真実であろう明日初出撃の現実に打ちひしがれていると、会った当初より静かな…と言うより無言を貫いている魔剣さんを、剣の重みで存在を思い出す。あ、そう言えば僕には魔剣さんがいるんだった! 完全に僕が金魚の糞的な立ち位置だけど。

 起動哀楽が入り混じる僕の心が表に出てしまっていたのか、心配そうに見るメイさんを安心させる。まあ、心配する場所が少しズレてるけどね。戦地に赴く後輩を見る目じゃないよね、それ。


「えっと、僕は保護って扱いですよね…?」


「…? どっちらかというと団員見習い?」


「あー、既に入団は確定なんですね…で、でも見習いが直ぐ明日に出撃っては些か気が早すぎる気がする…」


「そうなのかな? まあ、団長さんがそう言ってたからねー。でも、雑魚な大ウサギもどきは置いといて、能力持ちの新生物を討伐したんでしょ? 私、驚いちゃったよ! もしかして囲まれた時も私が加勢しなくても倒せてた?」


「討伐出来たのは魔剣さんが居ての功績なので僕自身の力では…。あ、あの時はありがとうございました! メイさんの加勢無しでは生還出来なかったですよ…」


「魔剣さん…? え、えっと君も魔剣の使い手なんでしょ? そんな自分を卑下しないでも強いと思うけど」


「魔剣の使い手…いや、卑下はしてないと思うんですが…」


 魔剣さんも、メイさんも結構な魔剣推しだけど…いやね、確かに『付与』があった時は全能感でなんでもできるぜーって感じだったけどさ。でも、どこまで行っても僕は人の域は出ないんだし、出来る事も限られてくるでしょ? 実際、一瞬で2体の新生物を焼き払い、抵抗虚しく焼き新生物を嗜んでいたドラゴンと戦えって言われたら生き恥を晒しながら脱兎のように逃げる自信あるね。

 普通を生き、普通を体現している僕が相手していい存在じゃない。何だよ人間対ドラゴンって異種格闘技どころか異種族格闘技である。格闘技って付いているのに相手はドラゴンである。関節技が効くとも、拳で内臓に響かせる程のダメージを与えられそうにないんだけど。

 確かに僕には魔剣さんが居る。あの全能感があればドラゴンだってまな板の上の魚程度に捌けると思うが…『付与』を得る前にブレスで焼身自殺させられる未来が見える。そもそも同じ土俵じゃないのだ。


 話は僕対ドラゴンであるが、話は新生物にも当てはまる。

 結局は人対バケモノの構図なのだ。人は新生物みたいに腕は二本で限界だし、足は二本がデフォルト。脳みそは一つしかなく、関節の可動域も限られている。そんな制限ばっかの人間が、魔剣って武器を手にしただけで戦況がひっくり返ると? 現実は現状である。実際、今の人類対新生物は拮抗で保たれているのだ。


 人も生物で進化する生き物である。だがそれは新生物も同じだ。同じかそれ以上か。それ未満かもしれないが…増殖を繰り返し、その度に個性を持って生まれるのだ。

 ある時に暗算がアホ程出来る天才が生まれたとする、一方で新生物側では容易に人を殺せる化け物が生まれるのだ。ペンは剣を超える? 卓上で論理的に考えても、必死こいて考えている間に脳天をかじり取られて終わりだ。

 相手は本能的に人を殺せる術を持っているのだ。どっかの分野に特化した人間が一人生まれたとしても、そんな人物を容易に殺せる新生物が生まれてくるのだ。その強さはどこから来てるの? 貴方は喉から? 君は鼻から? と、世界の神秘を知りたいまであるのだ。


 ただ感情論で「無理でしょ」て言ってる訳じゃないのだ。確かにあの時は魔剣さんの口車に乗せられたけど…。


 と、人の強さについて論文を脳内で展開していると…メイさんが居ない事に気が付いた。あ、結構考え事してたからね…無視してごめんなさい。これが嫌われる原因か、と真実に辿り着いたがガチャリと扉が開かれる。どうやら何か見せたいのか、メイさんの手には一冊の本と、一人の妖精を連れて戻ってきた。


「…あれ? 魔剣さん性転換した? イメチェン?」


『…人の性をイメチェンってカテゴライズして欲しくないんだけど』


 鞍替えでもしたのか、と不安そうな声色で話す僕の耳元で聞き覚えのある声が聞こえる。久しぶりの登場だ。

 魔剣さんを帯刀してる時って刀身剥き出しだから怪我しそうで怖いんだよね、と小人フォルムにチェンジした事でそう再認識する。まあ、魔剣さんは僕の部屋に案内された時にベットに放ったので重量とか重たさとか感じてなかったんだけど。

 気分である。


「居るなら居るって返事してくれれば良いのに…次会う時が天国か地獄だったかもしれないんだよ? 一応首繋がってるけど。…首繋がってるよね?」


『デュラハンでもなってくれたら強くなるのかな? …って、貴方が死ぬのは勝手だけど私を巻き込まないでくれる?』


 地味にアンデットになれ、と語る魔剣さんを見て盛大なギャグを思い付く。


「刀身・・自殺ってね」


『…』


 痛い! 小人サイズだけど地味にこめかみを腰の入ったストレートで殴られるから痛い!


 久しぶりの魔剣さんとの再会に喜びを表し、世間話でもしようとお茶を入れようとするがメイさんに止められる。話は「キミの強さだ」と言って止められた。何そのカッコイイ話の止め方…結構な握力で肩を掴まれて、押さえつけられてなかったら感動してたんだけど…。そんな華奢な体の何処に筋肉があるんだ…と、本を取りに行く流れで普段着に着替えたのか、ずいぶんラフな格好になったメイさんのスラっとしたボディーを舐めるように見る。許可されるなら舐めるだろう、遠慮なく。

 随分可愛いらしいラフな格好であるが…半袖から出る両椀は凶暴そのものである。全然華奢じゃなかった。いや、ボディーラインは華奢なのか…? アイアンクローで脳髄飛沫は夢じゃないのか…。

 メイさんは姉貴であり、姉御であり女性である。積極的にレディーファーストしていこう。


 メイさんは持って来た本をテーブルの上に置き、あるページを開く。そこには『付与の魔剣』と絶妙に汚い文字で書かれた紹介文と、挿絵が記載されている。そんなページを妙にイキイキとした魔剣さんが覗き込む。

 同じようにページを覗き込むが…どうやら見覚えのある顔が描かれている。


「あれ? 結構イメチェンしてるよね、恋でもしてたの?」


 例えるなら金髪のギャルである。

 妙にリアルに描かれた都会の駅で逆ナンされ過ぎて男をお手玉のように扱える雰囲気が醸し出しているビッ…


『それ以上言うと貴方を女の子にする』


「ひぃい…」


 どうやら心の中を読めるようで、って事は出会ってから今まで僕の心の中を覗き見ていたって訳ですね。キャー、センシティブ超能力者!! 将来は心が読める系としてテレビに引っ張りだこだね! だから男の尊厳を簡単に切り落とそうとしないで!

 そんなよいしょとも言えないよいしょが効いたのか、去勢の話は流され、メイさんから説明が入る。


「本来は魔剣と契約した時に説明されるんだけどね…。契約している剣の形状から『付与の魔剣』って思ったんだけど…その反応を見ると

正解だね」


 正解です。って、契約した時に説明されるのがデフォルトなんだ…なんか初対面では有無を言わせない強制力で契約させられたけど。

 ジト目で魔剣さんを見る。本当の姿がバレたからなのか、妙に姿勢を崩したギャルがそこに居た。やっぱギャルじゃないか…ヒェ…美少女の胡座は需要しかないけど…小人サイズである。ほぼ人形遊びと同義であるが…本に書かれた魔剣さんの絵は人並みサイズである。気になるし、気になる。耳をかっぽじる。


「…ルーツから話そうか。魔剣はシリーズとして合計で十三本あるの。製作者は不明、作成された時期も不明、でも能力はこんな感じで本に記載されている。そもそも魔剣の意味としては意識ある剣なんだけどこの子達って…」


『我は古から伝わる天使なり』


『過去だけどなー』


「…って事で過去があるの」


「天使ですか…」


 見るからにアークエンジェル感半端ないメイさんの周りを浮遊する…確か『拡散』だっけ? 『拡散の魔剣』の彼を見て、天使なんだな〜ってのは容易に想像できるけど、この魔剣さんは…。


『どこからどう見ても品行方正だろ?』


「出会って1時間も経ってないはずなのに…」


 ギャルである。まあ、でも、しっかりと見れば容姿は天使と言っても過言ではないほど整っている金髪美女であるし、着ている服も天使っぽい布である。ほぼ下着にパレオである。もう一度言う水着にパレオである。防水加工の有無じゃないか…。とは思うが心の持ちようである。それが下着と言われれば更衣室から出た彼女たちは変態であるし、それが水着と言われればそれは泳ぎに来た若者たちである。

 そんな事を考えていると案の定、こめかみを結構なハイキックを連撃で食いながら、続きを促す。


「良いのね…まあ、成り立ちはどうでも良いんだけどね」


「あ、どうでも良いんですか」


「うん。問題は能力だもん。私の魔剣は『拡散』で、まあ、最初に会った時に見せたけど能力は私の攻撃を拡散させるって感じのものなの。で、キミの能力は…」


 薄汚い文字を必死に読むメイさん。整った顔を歪ませての解読である。製作者はどんな意図で本を記入したのか…美女の歪んだ顔が見たいって特殊性癖なら救いようはない。僕は普通の趣味嗜好してるし…。耳は性感帯だもんね?

 特殊な身体的要素であるが…まあ、長い耳を持っている僕である。凍傷だけは気を付けないといけなんだぜ? これ。冬場は痛くて痛くて…。


 解読待ちの中、空中戦を繰り広げる二者の魔剣さんを見る。どうやらうちの魔剣さんの方が実力は上のようで、拡散する攻撃を華麗に避けながらペシペシとジャブを打っている。ジャブで鳩尾を狙ったらそれはもうジャブの威力じゃないんだよな…。と、実体験を元に観察していると、解読が終わってスッキリした表情になったメイさんが顔を上げた。近くで繰り広げられる空中戦に驚きながら説明に入る。


「キミの魔剣は『付与』で、相手の血肉を得る度に『付与』を使い手に与えるって効果ね。……説明文の最後に「彼女は目立ちたがり屋である。真の姿は彼女そのものである」ってあるけど…『付与の魔剣』の挿絵が様々な格好の彼女ってのが関係してるのかな?」


 片面が『付与の魔剣』の説明文であるので所々に空白を埋めるようにして挿絵が載っている。そのどれもが魔剣さんであり、イメチェンした多様な姿である。それが関係している、とメイさんは言うが…真相は誰も知らない、である。真の姿ってなんだよ。何形態まであるんだよ。

 と思う。こめかみを殴られ、蹴られる妨害で挿絵をしっかりと見られなかったが、魔剣さんは『拡散』の彼が引きつけてくれている。その機会を十分に生かして見てみる。


 全てが全て、イイ表情で、イイ角度で描かれている。意気揚々とポージングをしている魔剣さんの姿が容易に想像できる。


「…いや、純粋にコスプレって線は」


 短髪な魔剣さん、下ろした髪の魔剣さん、内側に巻いているボブカットの魔剣さん、刈り込みが目立つ魔剣さん…と、そのどれもが生き生きとした表情なのだ。どっからどう見ても魔剣さんのコスプレイラストである。真の姿、とかカッコつけて書いてあるけどやってる事はイメージビデオとなんら変わりはないだろう。

 まあ、100歩譲って髪の長さが様々なので…そこだけを判断するとヘアイラストってイメージが強い。美容室じゃあるまいし…そこの所はどうなんですか、魔剣さん?


『…真の姿だし、はっちゃけても良いかなって。べ、別に良いだろっ!? 私だって女の子だし、イメチェンくらいしたって…! だって、剣じゃないし! あと妖精じゃないし!』


「…妖精?」


「ああ、こっちの話ですのでどうぞお気になさらずに」


 必死に女の子らしさをアピールする魔剣さんであるが…残念。魔剣さんは魔剣さんであるのだ。普通の女の子は剣に変身できないし、心も読めない。ついでに真の姿って言う第二形態も女の子は持ってない。イメチェンはあるがメタモルフォーゼは無しである。第二形態が許されるのは魔王とか、ボスだけなのよ…。残念ながら現代にいるのは魔王ではなく新生物であるが。まあ、似たようなものである。


 そんな魔剣さんの結構遅れの自己紹介場面であるが、自己紹介だけである。僕が前線に行くのに納得する部分が一つもなかった訳である。唯一分かったのは魔剣さんはギャルで、コスプレ好きって点である。イメチェンでメイド服も、ナース服も着ないでしょ…それはイメチェンじゃなくてキャラチェンだって。

 不満たらたらに『拡散』の彼ーー通称、拡散さんに入れてもらった紅茶を飲みながら現実の満たされ具合におっかなびっくりする。ボコられたのに無傷である拡散さんにもびっくりする。その身に纏った白銀の鎧は本物なんだね…。鎧を平気で殴りつける魔剣さんに驚きが隠せません。


 だが、満たされ具合は尋常ではないのは事実である。

 数時間前は周りの同年台の子に石を投げられ、暴言を吐かれ、女子トイレに押し込められたりしていたのだ。そんな未来を担う戦闘員を育成する機関とは思えない仕打ちだったが…今はどうだ。何故か前線に連れて行かれ、死と生の境界で反復横跳びしろと実質的に言われている事を除けば美女と、小人二人との夢のような空間である。薬物でもヤっているのか? と、そう思わざる終えないハッピーな空間であるが現実である。ついでにほぼ死刑宣告も事実である。


 まあ、どうせユーゲイルに「向かうぞ」とか言われたら全力で謙りながらついていくだろうな、と容易に想像できる。長い物に巻かれろ、強者に絶対服従。ダックスフンドのような、主従関係を心に刻む自身の性格をしっかりと理解しているのだ。主従関係はちょっと違うけど。

 でも、戦地へ向かう前の至福と時を堪能する。魔剣の説明を受けてもメイさんが一緒の部屋にいるのか疑問に思っちゃうけど、コミュニーケーションと考えれば十分である。ほぼコスプレイラスト集だったけど、そんな意図があったのかとメイさんに感服する。美女と同じ話題で、一つの書籍を囲んで読むとか…ほぼ、死刑遂行前の願い事タイムである。



 しっかりと腰が入り、力の乗ったアッパーを、ストレートを、パンチの数々を放ち、コンボを繋げている格闘ゲームを再開した二人を視界に収めながら、メイさんの朗読と一緒に文字を追いかける。


「えっと…『とても気分屋だが能力自体はとても強く、生前を思い出すものがある。真価を発揮する時は魔剣よりも自由が効かないが、効かないゆえに強力である。基本的にゲットしたなら確保が安定。支配系統の新生物にも有効であり、終盤まで力を発揮する強力な魔剣である。良き相棒になるだろう』……ああ、支配系統は新生物の最上位の系統の事ね。能力持ちをも支配し、使役するから相当に強いんだよ。うちの団長さんでも一人で討伐するのに苦戦したって言ってたし」


「…」


 微妙にユーゲイルがレベチな実力者である事が挙げられたが…問題はそこではない。説明文である。何々…『支配系統の新生物にも有効であり、終盤まで力を発揮する強力な魔剣である。良き相棒になるだろう』だって?


 よし、


「メイさん、今すぐにでも前線に行きましょう。今、この一瞬でも新生物に脅かされている罪なき人たちが嘆き、悲しんでいるんです。その為に僕たちが立ち上がらなくては誰が立ち上がるんですか」


「随分都合の良い口だね…」


 メイさんに呆れらているが…コラテカルダメージである。特に問題はない。問題は『付与の魔剣』が終盤まで有益な武器であると…って、終盤ってどの部分を言ってるんだ…?


 微妙に核心に迫る一文に心が惹かれる思いであるが…扉がガチャリと開き、最近見た記憶に新しい顔が出てくる。


「気兼ね良し!! だが作戦は明日である!! 今日の休息は明日の活力!! 明日に備えてしっかりと睡眠を取るように! もう夜も遅しな!! ガハハ!!!! ではおやすみ!! 良い明日を!!!」


 団長さんの元気の良い声が決して狭くはない部屋に響き、反響する。ほぼ音爆弾である。投下し、直ぐに扉が閉じた。

 び、びっくりした…。首だけ出していたのでぱっと見は浮遊する生首なのだ。結構ガタイいいし、身長高いからね。流石に服は着てたけど。てか神父服を着るならさっき脱ぐ必要ななかったのでは…。

 多分あの人にもそんな日があるのだろう。無性に脱ぎたくなる日が。理解は出来ないけど、理解しよう。


 身長順に僕<メイさん<<<ユーゲイルである。2メートル優に超えてるよねあの人。2メートル越えのハゲ神父ってどこの映画の話だよ…。現実だ。

 再会した事で首に嫌な感触を思い出させるが、無理矢理忘れる。あれはサプライズだったのだ…サプライズサプライズ…。

 よし、窓を見る。

 ユーゲイル…まあ、団長さんである。彼の言う通り、夜も遅く部屋から溢れる光で蛾が集まっている様子が見えた。結構デカめである。手のひらは優にあるだろう。どこの田舎、辺境なのか。コツコツと当たる姿に気持ち悪さを感じ、すぐにカーテンで窓を隠す。


 団長さんの鶴の一声…ではないが、就寝を告げる元気の良い言葉によってこの集まりは解散となった。同じ部屋で一緒に寝る、とそんな考えがあったが残念。竜護舎は結構広い建物である。だって竜も槍も船も突き刺さる程の大きさである。男女別々妥当だよね、と再確認しながら手を振る。


「じゃあ、また明日。『付与の魔剣』使いの勇姿が待ち遠しいよ」


「明日、僕の『付与』が火を吹くんで見ていてください! あっと驚いて、顎が外れるくらいまで驚かせてあげますよ!!」


『私は火を吹かないし…って、顎外して嬉しいのかよ…』


 小人の形態になっているので普通に声がメイさんにまで届く。

 うっさいなぁ、もう! 比喩表現なんだからなんでも良いでしょ! 火も、血も、返り血も同じようなもんだって。


『同じではないけど…。でも、自分の実力を認めるのは大事な事だよな! 私の実力が大部分を占めてるけど!!』


 魔剣さんも明日が楽しみなのかテンションが爆上げになっているようで、一人、ベットで永遠とゴロゴロしている。距離があってメイさんには聞こえてないようだったが…距離的に僕には聞こえてきた。ほぼ以心伝心である。一方通行だけど。僕が反応しないから。


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみです!」


 元気に手を振り終わり、静寂が部屋に訪れる。魔剣さんは脳内に語り掛ける系にシフトしたのか聞こえるのは僕の独り言だけである。妙にイヤらしい話しかけ方…! 誰かに見られてたら変な人だと思われるじゃないか!!


『…アタシから見ると、ネグリの方がよっぽど変な人だけどな』


「口に出して言っていないからセーフで。…怒涛の一日だったけど、良い日だったよ魔剣さん。明日は晴れると良いね」


『そう思って貰えたら嬉しい…のか? 明日はもっと、明後日はより輝けるような日になると良いな。…そして行く末は私に集まる全国民からの支持の声!! 集まる期待の視線、身分差の好模様!! ああ、そんな言葉を掛けたってアタシは魔剣、叶わぬ恋なんだぜ…』


 シンクロ率、と言って良いのか。

 魔剣さんとの繋がりが深まっていっているのか脳内妄想がダイレクトに届き、深層心理を見させられる。若干そのケがあったけど魔剣さんって全然清楚系じゃなかったね。出会いの時の、清楚系な金髪女性は何処へ…。

 妙に未来への期待で心が煮立っているのか、今日の会話はそれで終了し、照明を消してベットインである。風呂とか…って、そう言えば食事…と急展開で滅入り、自己表現を忘れた空腹に愛情を、との考えで出た所の自販機でコンポタを買いました。77777で当たったのでお汁粉缶も買いました。冷えた夜に、よく染みる味でした…。

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