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ネグリと付与の魔剣  作者: 椎木唯
序章 ネグリと魔剣さん
2/12

付与の魔剣の登場じゃい! 邪魔じゃい邪魔じゃい!!

 少し癖毛気味であるが、綺麗な金髪を靡かせる彼女は「ーー」と名乗った。

 そして出生は人ではなく、どちらかと言えば人知外のモノであるらしく、僕らで言うところの新生物に近い存在であるらしい。…やっぱ、狼型の新生物から生まれたAGMじゃないの? と思ったがちょっと本気で否定されたので違うらしい。

 別に名ありかも知れない狼型の新生物産のAGMだろうと、能力があるっぽいのは分かるしそれで良いと思うけど…。


 まあ、AGMでは無いっぽいのは小人ーー羽が無く、でも僕の周りを縦横無尽で飛ぶ姿は普通じゃない方法で飛んでいるんだろうな、と思わせるには十分すぎた要素である。AGMとして能力が自身を浮遊させ、飛ぶ事の出来る能力だった可能性を考えると、彼女がAGMじゃ無いのは喜ぶ事なのだろか。

 自身を「付与の魔剣」と言っている事や、到底僕では倒す事が出来ない新生物を倒せるまでに強化してくれたーーまあ、目の前にある大ウサギの死体を見れば、彼女が言うから違うんだろうなー、と思うのに十分であった。


 彼女の言っている事は理解できなかったが、納得はいった。


「って事は妖精さん、って事で良いんだよね?」


『…どうして、その会話の流れで妖精になったのよ。似て非なるものよ。…まあ、名前的には「付与の魔剣」からとって貰えると嬉しいね』


「じゃあ…フヨ? マケン? フ…ケン?」


『巡り巡ってフケになりそうだな、それ』


「魔剣さんでいっか」


『安直だけど…まあ、良いか。改めてよろしく、ネグリ。これから君を史上最高の魔剣使い、そして新生物殺しの異名で名を轟かせてあげるからな!』


 覚悟しておきなさい、と言う彼女のはにかんだ笑みは血生臭いこの場において至上最高に場違いな程に可愛らしいものであったが、小人である。手の平サイズなので表情の変化を確認するのには結構大変だ。ほぼ間違い探しのようなニュアンスで顔を凝視しないといけないのである。かれこれ3回ほど『私の顔に何か付いている?』と聞かれたわけである。その内虫眼鏡で魔剣さんを見る事になのだろうか…。


 出来れば最初に会った時の等身大サイズがコミュニケーションを取りやすいのだが…現状、その姿ではなく小人になっているのを見るに小人でいる方が楽なんだろう、と考える。モテる男のコミュニケーションである。無闇に相手の情報を聞き出さない。まあ、現状が恋人の居ない、イジメられっ子な時点でお察しだろう。


 ふんす、と自信満々に語る魔剣さんに、少々気圧されながら返答する。


「いや、轟かせなくても良いけど…どちらかと言えば安定して、安全した生活を送れれば僕は十分だし」


『何とまぁ、欲もヘチマもない感想…。貴方が行動すればその分だけ助かる人間がいるのにね』


「それは実力も、才能もある人がやるべき事でしょ? 僕は無いが有る人間だからね」


 魔剣さんに初見で言われた言葉を出す。それはそうである。


 確かに、僕も新生物に対する憎しみは人並みに有るし、倒す力を身に付ける為の教育機関に入学する努力もした。だけど、その結果は「魔法学」である。非力な僕や、他の人も容易に力を手に入れられる可能性のある「魔法学」はお遊びの域を出なかったのだ。

 努力は儚いものに変わったた。そして僕の抱えている復讐も機関に所属する他の人は僕以上に。そしてそれ以上に立派な目的を持っていたり、より残酷な仕打ちを新生物にされたのだ。復讐と言う、至極当たり前な行為を遂行しようとしている人達がごまんと居るのだ。それを多少新生物を倒せたからって調子に乗って良い話ではない。

 しかも相手は大きなウサギである。どこに自慢する要素があるのか…。まだ、大きな魚釣ってきたよ! と、言った方が褒められる自信がある。ウサギを狩る、と言う狩猟的な難しさと、魚を釣るという技術的な難しさ。…あれ? ほぼ同格?

 まあ、多少な違いはあると思うがたかが1匹。新生物を狩っただけで有頂天になって良い筈がないのである。


 そんなニュアンスで魔剣さんに伝えるが…表情が完全に引いたものに変わる。と言うか自論を展開した瞬間にこの表情である。変貌っぷりに目を見張るものがあるが…どうしても見覚えのある表情である。これは…吐瀉物を出すおっさんを見るJKの表情である。


 …え、僕の評価汚物にランクダウンした?


 そもそもの評価は低かったが。そして魔剣さんはJKって程若くは無い容姿だけど。


『貴方の努力も、才能も今となっては重要ではないわ。ただ、貴方は私と契約をし「付与の魔剣」の契約者になった。ただそれだけよ。…朝起きたら歯を磨くでしょ? そんな感じで新生物を倒していかないと……さっきの動きは感心したし』


 最後の言葉は聞こえなかったが…


「歯を磨くレベルで新生物を倒せる…? 日課レベルに新生物が成り下がった…?」


 って事はおはようと言いながら新生物を倒し、朝ごはんを頂きながら新生物を倒せる…?

 日めくり新生物討伐に胸を輝かせていると


『どうしてその発想になるのか甚だ疑問だけど…貴方は私と言う要素が加わった事で実力者の一角になったのよ。しかも天辺中の天辺。トップオブトップよ!』


 少し引っかかるものを感じたみたいだが賛成を示し、背中を押してくれた。であれば僕のするべき事はただ一つ。


「僕がトップ……よし、新生物をジャンジャン倒して、世間に名を轟かせに行こう!!」


『機転が効かないのかバカなのか…よく分からないけどジャンジャン倒していきましょう!!』


 そんな訳で今日から新生物を撲滅する旅が始まった訳である。

 既に、魔剣を握った僕の勇姿が町中に銅像として飾られ、絵本の題材になり、印税で遊びながら暮らす毎日が浮かんでくる…!


 将来は安泰だ。だって英雄になるんだもの。

 未来英雄を担保に家でも買おうかしら? と、真剣に悩んでいると魔剣さんの声が響く。


『…そう言えばどこかに帰りたいんじゃなかったかしら?』


「そんなの歯を磨いてからで十分でしょ?」


『貴方がそれで良いのなら私は別に構わないんだけどね…』


 いざ、新生物を狩り尽くす旅へ!!


 魔剣さんの案内通りに森を進んで行く。まずはこの森を抜ける事が今の所の目的である。その目的を遂行するには森を発生させた原因であると新生物の討伐が必要不可欠らしい。まあ、大ウサギが森の主人では無いってのは分かっていたけど…発生できるってことは名ありって事でしょ? つまりは能力持ち。

 大変そうだけど…何とかなるでしょう。だって、未来は英雄だもの。


 結構な楽観視で道とも言えない草木が生い茂る場所を通っていく。獣道とも言える道も存在してないのが気になるところだけど…まあ、誤差であろう。鼻歌を歌いながら進んでいく。




・・・・・・・・・・


『彼の名前は「侵略」。その名前の通りに侵略して、自分の領地を増やしていく侵略者よ。気を付ける点は…あぁ、貴方には無いみたいね』


 目の前に鎮座する存在。

 人の腕が折り重なるようにしてできた巨木に苔が生えたその形はとても異形らしい姿であった。遠目で見れば樹齢何百年を超えてそうな巨木なのだが、実際は新生物である。輪切りにして年輪があるのか調べてもいいが…逆に輪切りにされそうな雰囲気を感じてしまう。有頂天にあった僕の心は良い意味で沈んだ。鳥が飛ぶのを諦めて地に降りるような感じである。

 心持ちはヒクイドリだけど、実態はモヤシハーフエルフだ。鳥に憧れて飛行機を作るのではなく、心持ちを脚力化け物のヒクイドリにする当たり、僕の心境が読み取れるだろう。僕は読み取れないけど。


 圧倒的な異質感を醸し出す新生物であるが、時々日の当たる場所を変えるように幹になっている人の腕を広げ、花を咲かせるように伸ばす。その姿は優雅に踊るバレエのようであるが、実態は腕だけだ。美しい感想は浮かばず、大ウサギとは違った気持ち悪さを感じてしまう。

 だが、そんな悠長な事をしている暇は無い。広がった瞬間、中心部に見える色が違う部分を、急所ですよとそう言わんばかりの場所をこれみよがしに曝け出しているのだ。その場所に剣を突き刺すべく駆ける。


 運動音痴が嘘だったかのように素早い動きで走り出せ、僕が思った通りの動きが出来る事をバク転しながら確認する。蝶のように舞、蜂のように刺す。それを体現し終わった後である。


 剣を突き立てた結果、幹として形成されていた腕が剥がれ、個々が意識を持って要るかのように襲いかかってきたのだ。右腕左腕、中々揃わない片っぽだけの靴下の亡霊の様に向かってくるのだ。足ではなく腕だけど。

 そんな様はホラー映画の盛り上がり場所みたいな光景を心底気味悪がりながら、剣を構える。


「纏まりが無い波状攻撃は簡単って良く言うからね!! 魔剣さん!」


『りょーかい』


 魔剣さんに声を掛け、「付与の魔剣」の真髄を見せる。


 向かう道中で説明されたのだが、どうやら『付与の魔剣』は自身に『付与』と言った形で能力強化させるのだ。『付与』の効果の発動条件として戦う相手の血肉を得る事が条件になるみたいだけど…この腕だけの新生物に血は通っているのか。それだけが疑念である。


 疑いの心とは別に、魔剣さんはカッコいい剣としての姿から右腕を覆うように管が伸び、肌を貫く。点滴のように付与を投与する形になった。

 点滴と言っても圧倒的に仰々しいバージョンであるが…腕に繋がる管が動きの邪魔だな、と思ったのだが意外にも動きを邪魔しない素材で出来ているのか、それとも同化している為阻害しないのか、腕の体積が増えただけでそれ以外の難点は無かった。

 見た目が病院から抜け出した、点滴中の剣を構える患者である。そんな心持ちになる。


 その他は良い所だけである。



 向かってくる腕の大群を強化された剣の一刀で命を奪って大きな穴を空ける。その穴を道に、走ろうとするが背後に気配を感じ、強化された身体能力を遺憾なく発揮し、ジャンプする事で回避する。今までいた場所に雪崩れ込むように遅いかかってくる腕の光景に、圧倒さえ感じるが、着地と同時に剣の切れ味を存分に発揮し、着実に数を減らしていく。

 一騎当千である。

 一度乗ったテンションを変える気はない、と剣を振るい、身を逸らして攻撃を避け、アクロバティックに回避する。その光景を握られながら見る彼女は振われるたびに歓喜の声を上げていた。


『うわぁ!? そこでその攻撃! 良いじゃん!! とても良いじゃん!! あぁこれ程までに三半規管がない事を嬉しがった事はないよっ!! もっと強く! 早く! 鋭く!!』


 剣の状態では声が脳内に響く形になるので戦闘の最中に副音声として聞こえてくるのだ。戦闘のBGMとして聞けば…と、思ったが惚けるような声色はBGMとして聞いていられない。ほぼASMRである。それは少し大袈裟に着色したが…まあ、副音声が脳内で流れるのだ。

 観客であると考えればモチベーションが上がるので特に問題は無い。観客の盛り上がりで自身の実力以上に発揮できるスポーツ選手みたいな感じである。


「これじゃ無双ゲーじゃん!! 『侵略』のその名前は偽りなのか!?」


 と、挑発が効くのか分からないが一応問いかけながら、自身のテンションを上げる。取り敢えず、襲いかかってきた腕は全て倒す事が出来たけど…どうやら終わりではないみたいで、融解するように周囲の木々が崩れて、腕で形成する木に変化する。いや、変化では無く擬態が解けたのか?

 どうやら先程のは本体ではなかったようで、戦いはまだ終わらない様子だ、と自身を奮い立たせる。視界を埋め尽くさんばかりに存在するのだ。何が『侵略』だ、これじゃあ物量すぎるよ…。軽く萎えるが、相手は僕の精神状態を読んで待ってくれたりはしない。


「わぁ…木じゃなくてトレントだったんだね…」


 植物ではなく、生物だった、と認識を改める。

 まあ、言ってしまえば初見から木では無かったが。擬態でも、昆虫とかの方が擬態は上手だけど…とは思ってしまうが森の中に入った時点で相手の思う壺なのだろう。言わばこの森自体が口の中であるのだ。初見の『侵略』以外は只の木だったんだけど…。

 まさか『侵略」の能力って他の植物を自身に変える能力とか?


 もしかしての能力を考える。その場合、気が付けば地面以外全ての植物が擬態を解き、人の腕の折り重なりになった現状に納得がいくが…。

 森自体が口の中って説の方が正しいだろう。他者を変える能力であったのなら『侵略』が早すぎである。


 要らぬ考えだろう。

 考えを変える。視線は地面から生えるようにして出たきた、圧倒的に他とは違うのっぺらとした顔を有する蔓性の首で他の腕製の木に張り付くボスっぽい顔に向かう。


 完全に張り付き、落ち着いたのか口がカパッ、と開く。その後、微妙に聞こえるモスキートーンのような声を響かせた。瞬間、周囲を囲むように生えていた腕は雪崩のように襲いかかってきた。

 対する正面ののっぺらぼうは、口から触手のように蔓性の舌を伸ばしてくる。


 多分当たったらダメだろう最初に正面から飛んできた舌を切り、襲いかかって来る雪崩をジャンプで回避し、360度取り囲まれている事に気付く。逃げる場所はないのだ、と判断した後、両手に握りしめた魔剣さんを力任せに真下に斬り付ける。

 既に何百単位で血肉を得たのだ。その斬撃は衝撃波を伴う程強烈な一撃になっており、容易に地上で待つ腕を一掃することに成功する。着地し、空中から落ちてくる腕を避けるために前方に走り抜けながら道を作るように壁となって立ちはだかる腕を同じように『付与』され、強烈な一撃となった斬撃を数度繰り返し、大穴を開ける。

 飛び込むようにして前に進む。そこでようやっとボスっぽいのっぺらぼうの蔓の姿が見える。ーー再生した舌の攻撃を再開のあいさつとして飛ばしてくる。


 瞬間的に剣を盾のように構え、衝撃を抑える。腕がジンジンと痛むような強烈な攻撃であったが、進む他に道はない。盾のようにして構えた事で反射で跳ね返った舌を再度、同じように切る。痛覚が通っているのか口内に戻るように引っ込む舌を掴み、最速でのっぺらぼうの方まで飛ぶ。

 掴んだ事で痺れるような痛みが左手に走るが…後回しである。距離が3メートル弱、まで近付いた時にはのっぺらぼうが悪手であることに気付いたのか振り解こうと振り回すが、既に遅い。

 引っ込んだ勢いを使って、3メートルの距離を飛ぶ。剣を上段に構えて、勢いに任せた一撃でのっぺらぼうの顔を真っ二つに切る。そのまま転ぶようにのっぺらぼうが寄生していた木の上部に落ちる。


「いてぇ…って、何だろこの空間…」


 中心部に弱点ですよ、とそう主張する赤黒い大きな腫瘍を発見し、発見と同時に切除する。この場だけは心持ちは医師である。


 案の定弱点であったようで、溶けようように落ちる木の上で必死にバランスを取っていると…数メートル下の状況が目に入る。


「阿鼻叫喚ってレベルのひしめき合いじゃないけど…密度が100%を超えてるってのだけは理解できるねっ!!」


『キモ…』


 無言を貫いていた魔剣さんも思わず言葉に出してしまう程の気味の悪さである。例えるなら、無限に手を差し伸べてくる地面に向かう紐なしバンジーだ。救いはない。

 普通ならここで神に祝詞を捧げながら生を諦めるのだが、生憎今の僕は最大限に『付与』が行われている完全体ネグリである。全能感が僕を満たし、出来ない事は無いと断言してくる。


 そんな溢れる自信を斬撃に乗せ、自分から飛び降りる。一撃入れ…ひしめき合いで1メートル程厚みを作っている事を視認する。最悪である。だがしかし、止まるような隙間は一歳ない。今まさに開けた隙間を1秒足らずで埋めた腕の大群は、文字通り密度100%を超えているだろう。中には圧死してる腕もあるんじゃないか。そう思ってしまう。

 まだ崩れ切っていないのっぺらぼうが寄生していた幹を足場に、再度勢いを付け少し離れた場所に飛ぶ。まあ、視界一面が腕に覆われているので、少し場所を離したところで密度は変わらないんだけどね。


 だが、変えたかったのは場所ではない。斬撃の威力である。

 異様な程に溢れる鼻血に意識が向かいそうになるが、改める。数百単位で『付与』された斬撃を放つ。今度は衝撃だけでなく、斬撃もプラスである。

 空気を切り裂くような、爆ぜるような効果音を置き去りにして見える視界の腕を一掃する。効果はそれだけに留まらず、衝撃が逆風となって僕を押し返す。若干危うい体制になったけど…落ちた場所は最適解だった。





 勝敗が決したのはそこから数分後の事である。

 消耗戦を制したのは僕であった。まあ、消耗戦と言っても僕の斬撃は相手を倒す毎に威力を増すし、身体能力も鰻登りチックに跳ね上がる。右肩上がりだけでは例え切れず、ほぼ真上に増加する能力に目眩すら覚えるが、我慢比べで勝ったのは僕である。強くなっていっている僕に、相手の『侵略』が追いつけなかったのが敗因だね。知らないけど。

 戦闘が終わり、辺には腕だけの死体が積み重なる空間で、壁のように屍が視界を隠した空間だったが、森を生成していたのは『侵略』で間違い無かったのか、徐々に森は消え去る。それと同時に腕の屍も消え、消えた事で遮られていた様々な視線を受ける。

 それと反対に「付与」の効果が終わりを告げる。どうやら一回の新生物との戦いで一回の『付与』らしいのか、腕に繋がった管が解けるようにして無くなった。

 そして魔剣さんは剣から小人の姿になる。戻った瞬間の虚無の表情。確かにこの光景を見るとそうなるよね…。


 既に乾いた鼻血を擦って落とし、全能感の代わりに襲ってきた虚無感で広がる視線の内容を想像する。


「観客って線は…」


『試合終了後に挑んでくるサドンデス系だけどね』


「挑む気満々の表情…ああ、夢に出てくるよ…」


『走馬灯にならないと良いけど…』


 今までその空間は『侵略』の新生物が収めていた事で他の新生物が手出しできなかったみたいである。

 どうやら戦いの終焉を感じた周囲の新生物が観客の様に集まり、勝者を待ち構えていたのだ。僕が『侵略』を倒した事で空いた領地を奪おうとしているのか。それとも『侵略』を倒した僕と戦いたいのか。

 多分両方であろう。『侵略』とは別の形で視界を埋め尽くす、見える限りで十を超える異形な特大サイズの新生物が各々の自然体で待っていた。


 全身を毛で覆った体長10メートル越えのモジャモジャ。

 モツが好きなのか全身に腸を、心臓を生やす一本足。

 歯列矯正が失敗したのか歯並びの悪さが顔にまで飛び火している四足歩行。

 爛れた顔と、整った顔が入り混じった数十個の顔がぬりかべに張り付いた奴。


 とか何とか様々な新生物たちである。いの一番に背を向けて走った事が功を制したのか、その4体以外の新生物はその場で大怪獣バトルを開始し、様々な容姿であるが同族同士で争い始めた。

 残ったのはめっちゃ強そうな4体の巨大な新生物である。


「何でかめっちゃ強そうなのが追いかけてくるんだけどっ!?」


『真に強者を理解している事。それがより上位の存在に成り上がれる名あり、能力持ちの一歩手前だな。特殊能力無しだけど強さは目に見えてわかるけど…がんばれネグリ。アタシは瞑想に入るから』


「ちょ、武器にならないでっ! え、本当に一人で4体捌くの…?」


 全身で絶望を表しながら、一瞬で小人の姿から剣の姿に戻った魔剣さんを握る。

 直ぐさっき「付与」を使った為か、それともリキャストタイムがあるのかただの剣になっただけの魔剣さんを握り、全力で走る。重すぎない、丁度良い重量の魔剣さんだけど今はこの微妙な重量も命取り!

 髪の毛を針のように伸ばしてくる攻撃を寸前で回避…出来ず、切って…も出来ず、矛先をずらす。自身の歯をマシンガンかのように飛ばしてくる攻撃を十秒間隔で三秒間してくる相手の攻撃を掻い潜りながら原っぱを走る。今だけは障害物がないこの空間を恨む。ああ、どうして要らない時に森が現れて、必要な時に森がないんだよッ!!


 必死な形相で走るが、徐々に距離が詰められているのが時々背後を見る事で確認できる。

 諦めて一体くらいは道連れにしてやろうか? と覚悟を決めて振り返ったその時である。僕と新生物との間で立ち塞がるようにして騎士が降り立ったのだ。一瞬で暗くなった元凶、空を見上げる。そこにはドラゴンが居た。


 ーー『竜騎士』である。


「どうして前線にここに人がいるのか分からないけど…まあ、加勢に来た。人の獲物だ、と言わないでね?」


 ーードラゴン、炎を吐け。


 向かってくる歯のマシンガンを、針のような髪の攻撃も、空中で構えていたドラゴンのブレスで焼き払う。その余波で先頭を走っていた全身に毛を生やす巨人が燃え、全焼しする。焦げた髪の嫌な匂いが漂うが、圧倒的な火力だった。炭すら残らない圧倒的な火力である。余波で焼け死んじゃうんじゃ? と思ったがそんな事はないだろう。ドラゴンは悪しき物だけを焼き払う、とそう教わる神聖な生き物であるのだ。

 実際、実物を目にして、体験するまで「そんなの御伽噺だけでしょ?」と嘲笑していた僕の頬を全力で殴られる。そんな衝撃を覚えたのだ。僕は悪しき物無かったんだね、と現実逃避をする。

 流石にこの火力に僕が出る幕はないよね、と眺める。目を焼くような熱量である。新生物は可燃物なのか気になるところである。有害な物質が焼く事で生まれそうだけど…まあ、ドラゴンのブレスは『浄化の炎』とも言われているのだ。大丈夫だろうと思うけど…。


 そんな圧倒的な火力を見せつけられた新生物共であるが、今まで一緒に追っていた仲間をどうとも思わないのが新生物である。仲間とも思っていない、両者がどっちとも肉壁としか認識していないのが新生物の実情だろう。

 目の前で起こったブレスはそうなんども吐けないだろうと考えたのかモツを体に貼り付ける程好きな彼は、顔が張り付いたぬりかべと一緒に前進する。

 次に見えた光景は、途切れ途切れの映像を見ているような物だった。

 普通だった…まあ、普通な体をしていないが。モツ好きは首から上が、そして瞬きを挟めば体が全て細切りになった。気が付けば二者の死体とも言えないミンチ肉が地面に山となって形成された。


「ーー『拡散』…あ、残った新生物はドラゴンが食べてくれたの?」


『ふん…まあ、旨くはないが焼けば旨味は出てくるだろう。交通費だ』


「別に仕事終わりなのに、また仕事を増やすようなことはしないよ……っと、君大丈夫だった? まあ、反撃する考えでその『魔剣』を握った所を見ると大丈夫だろうだね」


 そう言ってドラゴンの捕食シーンを背景に語りかけてくる女性。

 最初の登場シーンは迫力ありすぎて声をしっかりと認識できていなかったけど…今度はしっかりと聴力が機能している。しっかりと女性の声であったのだ。この、圧倒的な光景を生み出した圧倒的な実力者が女性である。世界は広いんだなぁ、と思ったが世に名を馳せる有名人筆頭は「灼熱の魔術師」「風化の魔術師」「静止の魔術師」は全員が全員、女性である。筆頭と言って3者上げるのはどうかな、って思ったけど誤差である。

 そして、魔術師は基本的に女性しか慣れない職業なので、必然的に女性が多くなるのは必然である。「〇〇の魔術師」って異名が付かないだけで魔術師として活動するのは別に男性でも出来るが…まあ、適材適所である。


 普通、実力や才能がある女性は魔術師を志すのが普通なのだけど…やっぱり驚く。


 助けてくれたお礼や、前線で活躍するドラゴン使いしか与えられない『竜騎士』や、同じ『魔剣』の使い手。様々な情報が脳内に入り混じるが…


「…香ばしい匂いですね」


 焦げた髪の匂いが風で流され、代わりばんこで粘膜を刺激したのは肉が焼けた良い匂いが漂う事への感想である。

 脳内で魔剣さんが呆れながら何か言ってくるがシャットダウンである。朝から何も食べてないのに今まで激しい戦闘をしてきたのだ。動けば腹が空く、歩けば疲れる、心臓を破壊されたら死ぬ。それと同義で普遍的で、一般常識である。


 グゥ〜、と綺麗に鳴った腹の虫を聞かれ、僕が言った言葉をしっかりと理解するまで数秒の竜騎士さん。どうやら理解出来たのか、フフッと笑いが溢れた。 


「なら、保護も兼ねて竜護舎に行こうか? 色々君の事も報告しないといけないからね」


 問いかけにノータイムで返事をしました。君の報告? 少し気になるけど竜護舎に行けるなら問題なし、寧ろ劣るべき場所が見当たらない、無類の見学場所である。教育機関の首席卒業生しか職場見学に選べない、敷居高い場所で有名なのだ。しかも、選べた所で最終的な見学の許可は竜護舎が許可するので行ける卒業生はほんのひと握り、限られた優等生中の優等生。エリート中のエリートだけであるのだ。


 教育機関に戻ったら胸を張って自慢できるだろうな〜僕友達いないけど。

 気落ちする心を手を引かれ、初めてのドラゴン乗馬体験でテンション爆上げに変わる。

 その後のドラゴンの「本当に乗せるのか?」の硬い口調に先程焼かれた歯列矯正施術前の光景を思い出し、身震いする。が、竜護舎に着くまで食べられる事はなかった。


 ドラゴン曰く「人は焼いても臭みが強くなるだけだし、生食は寄生虫が怖い」と言っていたので食べられる心配はそう無いだろう。感想が出ることに恐怖を覚えたが、まあ、些細な差である。

 それよりも寄生虫に怯えるドラゴンって事実が面白かったが、それについて笑ったら全力で頬張られ甘噛みされたので次はしません。ドラゴンの口内って意外といい匂いなのね。例えるならフローラルな芳醇な香りがしました。主食は花なんじゃね? 思ったけど口には出さなかった。反省し、次に活かせる系男子ですので、僕。


 落ちこぼれいじめられっ子から、ビバ竜護舎である。何階級昇進なんだろうね…? まあ、立場的に保護されたんだけど。


 だが、竜護舎は迷子センターではないのだ。人命救助もどちらかと言うと連合騎士団が多く行なっている印象がある。

 まあ、そんな竜護舎にお呼ばれするのだ少なからず何かしらを期待しているんだろう、と思っている。『魔剣』も初見でバレたし、4体1で戦いを挑もうとした事もバレた。もしかしてスカウト…? と思うが…まあ、それならそれ相応の待遇で帰ってくるだろう。

 道中の悪戯気味に一回転する飛行はお茶目で終わって欲しい感じでした。竜騎士さんも止めないで笑ってるんだもの…。落ちても事故でした

、とかそんなガキ最初っからいませんでした、とか言えば済む話だもんね…。


 まあ、腹が減っては戦は出来ぬである。

 ささくれの様に感じる心残りは空腹ゆえの疑心暗鬼だろう。まさか、人助けをしてくれた正義の味方である竜騎士さんが陥れるようなことしないでしょ〜。

 警戒を解き、お気楽なテンションで進むが…どうしてか言葉数が減った魔剣さんを心配する。恐らく人見知りなのだろう、そう結論付ける。


 呑気に歩き、竜騎士に連れられ指差して紹介された豪快な建物に向かって行く。竜の首と、船と、槍が飾りとして突き刺さっている建物は豪快の何者でもないだろう。…それ、欠陥住宅じゃないよね?

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