17、自分の口で
「聞いてよっリン!うみってすーーっごい青かったよ」
感想が色って。
普通そこは楽しかったとかじゃないのね。
「…そっか」
ランが帰ってくるとやはり家の中が2倍…いや4倍くらい明るく賑やかになる。
「それにしてもルイ王太子殿下ってほんと綺麗ね。海を背景に立つ殿下に、ついこの私がうっかり見惚れちゃったくらいだもん」
この私がって言うらへんが元神様感出てるんだよなぁ。
「ん?…何その目?」
私の呆れた目線に気づいたのかランはぷくーっと頬を膨らませた。
それにしても、綺麗。
ん?綺麗????
「ねぇ…殿下ってそんなに綺麗な作りしてたっけ?」
「作りって…言い方っ!!ぷはっ。ねぇ今更だけどさ、王子様の見た目リンにはどういう風に映ってるわけ?」
王子様達の見た目ねぇ。
えーーーと。
「男」
私が答えるや否やランは近くにあるクッションをバンバン叩きながら爆笑し出した。
「性別しかにんしきしてないのねっ!さいっこうじゃない、あはははっ!」
えーーーーー、そんな笑うようなこと?
「ふーーー、いいよ、おさらいしよねー、姉ちゃんが教えてあげるよー」
うっざ。
なんだその喋り方。
「まず、王族は基本黒の瞳と黒髪なの。でもカイージ王子の髪は少し薄いからグレーに近い髪色ね。そんで持ってものすーーっごい美形」
「黒とグレーね…おーけ」
「おーけって、リン〜…なんか色々と不安になってきたよ姉ちゃん。もうちょっと人に興味持とう」
なんだろう、すごい先程からお姉ちゃん感出してくるなこいつ。
コンコン。
「お嬢様方、旦那様がお呼びです」
ノックの音が聞こえたかと思うと、執事の声がドアの向こうから聞こえた。
「いこっ!」
ランはスクっと立ち上がると私に手を差し出した。
「うん」
「お父様〜?」
ランと共にお父様の部屋に入る。
「久しぶりだね。僕の天使たちいい子にしてたかな?」
マンガかよ、このセリフ。
あ、ゲームの世界だったか。
ランは「お父様〜」と駆け出し足に抱きついている。
ランと手を繋いでいる私も当然お父様の足に抱きついーーーいや、ぶつかったと言った方が正しいなこれ。
地味に痛い。
鼻が、鼻がジーンってする。
そう思っているとお父様をしゃがみ込み私の顔を心配そうに覗いた後、ちゅっ鼻にキスを落とした。
え?
今のなんのキスなの。
さらっと怪我にキスを落とすとかイケメンかよ。
「痛かったね。こーらっ、リンが顔をぶつけてしまっているじゃないか。手を繋いでいる時は、気をつけるんだよラン」
「わかった?リン」
あんだだよ。
あんたのせいで私の鼻が赤くなっちゃったんだよ。
「まったくランは少々元気過ぎるのがたまに傷だね。あ、そうだ君たちを呼んだのは、専属メイドをそろそろ決めてあげたいと思ったからなんだ」
お父様はやれやれと小さく息を漏らすと、思い出したかのように話を私たちにふる。
専属メイド。
へぇー、どうやって決めるんだろう。
リンディアはまじまじとお父様を見つめた。
「ははっ、違う違う。君たちの意見を尊重したいんだよ。だから2人が専属メイドにしたい人をぜひ聞きたいな」
なん、だと。
意見を求められてるってことだよね。
どうしよう、分かんないよ。
チラッとランをみた。
(まかせてっ)
頼もしいじゃないか、お姉ちゃん。
「ランはねー、ニナさんがいいですっ」
おいーーーーっ⁉︎
はって何。何自分の専属メイドだけ言ってんのよ。
(ふふふ、早い者勝ちよっっ)
そもそも競ってないって。
あぁーーーー。
どうしよう。
リンディアが途端にオロオロしだしたのをお父様はジッと静かに見つめていた。
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ガイ・ブルーノは心配なのだ。
いつもランディアの背に隠れ、何も意見も言わずあるがままを受け入れる娘を。
だから、あえて自分の意見を言うように求めた。
最近になり、ようやく表情も柔らかくなってきたからこそだ。
甘やかしてあげたい、もっと我儘を言ってほしいという願いと、将来侯爵令嬢として堂々と生きてほしいからだ。
好きなものは好きと、欲しいものは欲しいと遠慮しないで欲しい。
だから、多少強引にでもリンディアの口から欲しいものを聞き出そうと思いついたのだ。
専属メイドなんて私たち親が勝手に決めればいいものをあえて誰にしたいかを聞き出すと言う方法で。
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そんな思惑があるとは知らないリンディアをいつも通り、父様に助けを求めた。
「お父様、私別にどなたでも…」
「リン。リンもランのようにこのメイドさんとずっと一緒にいたいなって思える人はいないなかい?もう一度よーく考えてごらん」
ぐっ。
お父様が引いてくれないだと⁈
いつもならここで「しょうがない〜」とか言ってなんとかしてくれるのに。
…。
選べないよ。
(選べるよ)
選べないっっっ。
(選べる)
うるさいなっ。
なんでも自分で決めれるランには分かんないよ。
(うん、分かんないよ。でもさ、私が視察から帰ってきた時に話してくれたメイドは?)
「モニ、カ?」
モニカとは先日紅茶のクッキーを私なんかのためにわざわざ用意してくれた人。
とても優しくて親切なオレンジがかった髪色のメイドで、そのことが嬉しくてあの後、お母様からこっそり名前を聞いたのだ。
「そうか。…そうかっ!!モニカ。モニカがいいんだね」
とても明るく嬉しそうにそう言ったお父様は私を抱き上げる。
「わっ」
へ?
あ、そうか。
ランと心のやりとりしているうちに声に出ていたのか。
モニカ。
モニカだと確かに…うれ、しい…のかもしれない。
「リン。では、なぜモニカがいいのか聞いてもいいかい?」
「えと。はい、…モニカは。紅茶のクッキーです」
ーー。
「です」じゃねぇぇぇ。
主語と述語壊滅的なんだがっ。
「うん、それで?」
お父様は馬鹿にして笑うことなく、優しく私が答えるのを待ってくれている。
「以前っに、私が紅茶好きだからとっ、紅茶クッキーわざわざ探してきてくださった、のです」
少し途切れつつも自分の口で答えられた。
「それはよかったね。よっぼどおいしかったんだね」
お父様はそうかそうかと、微笑み頷いた。
自分のことを話して、それをわかってもらえるのってこんなにも嬉しいんだ。
リンディアはへにゃっと笑った。
「はい」
お父様はそんな私は優しく撫でてくれる。
「では、ランにはニナを。リンにはモニカを専属メイドとしてつけよう」




