前世の私ってこんな感じでした
「花梨、ママはあなたのためを思って言ってるの」
へぇ。
ママと同じようにパパに無視される可哀想な女にならないようにって?
あほらし。
「聞いてるのっ?!」
「ーはい、ママ」
私が笑顔を貼り付けてそう答えると満足したのかママは私を強く抱きしめた。そして耳元でいつものようにささやく。
「…あぁ。私の花梨。私とあの人との愛の証」
惨めね。パパが浮気していても、それでもパパを愛しているから離れられない。
だから、パパと顔が似ている私に全てを注ぐ。
歪んだ愛情、そして完璧さ。
パパは世界的なヴァイオリンリスト、ママはピアニストだった。2人は音楽を通して愛を育んだ。
ママは作曲の才能もある。結婚を機にパパを支えるとピアノは趣味に。
ママは、自分達の出会いである音楽を愛している。
毎日、来る日も来る日もピアノとヴァイオリン。
手を怪我しないために学校の体育の授業ですら参加してはならない。
まぁ、演奏している時は何も考えないで済むから別に苦じゃないんだよね。ただ、パパと同じように弾けってだけはまじで勘弁してほしい。
パパのあのナルシスト全開の演奏の良さがわからん。演奏って人の性格滲み出ると思うんだよね。
あれのどこがいいんだろう。
私は操り人形だ。毎日笑顔を貼り付けてママの望む姿を演じている。
でもそんな日常も突如終わりを迎えた。
「お前とはもう終わりだ。ここにおいて書くから後はお前がサインしたら終わりだ」
3ヶ月ぶりに帰ってきたパパは、1枚の紙切れを机の上に置いてそう言い放った。
「い。いやよ!」
ママは声を張り上げる。
分かってたことじゃん?
パパがもうママを愛していなかったこと。いつかは離婚になること。
何をそんなに…。
ん?パパの目線が私に移った。
「あぁ、花梨。お前は俺が引き取ってやるよ。俺と同じでヴァイオリンの才能と顔だけはいいからな」
ありゃま。
17年間のママの熱心な私への愛情が裏目に出たか。でも、どっちについてもあまり大差なさそうだしどーでもいいか。
「ーーーーーっ!だめよ。私と貴方の愛が終わるって言うならその愛の証である花梨も終わらせてやるっ」
まじですか。
愛の終わり(離婚)=花梨も死ぬってことですか?
え、私の命って何かのゲームのようにミスったら死ぬ的な?
さすがにこれはないよママ。
私がぐるぐる考えを巡らせている間に、ママはフラフラと立ち上がり、包丁を持って私に走り込んでくる。
ひっと声を上げて逃げ出すパパ。
ねぇ、助けるそぶりくらい見せてよ。
グサっ。
痛いぃぃぃぃってか、血止まらなっ。
あーあ、こんなもんだよね私の人生なんて…。
…やっと解放される。
長かったな。
視界が暗くなり、私の人生は幕を閉じた。
お読みいただきありがとうございました。