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「「「カンパーイ!」」」
かくして、私達は学校を卒業した。
なんというか、本当に錬金スライムの使い方を教えてもらう教習所兼職業訓練所といった感じの学校であった……期間も1ヶ月だし。結局この1ヶ月、ずーっとポーションを錬成していたし。朝から授業で、帰りは大量のポーションを作っての夜中だ。毎日へとへとで帰ってきて取り置きしてもらっておいた晩御飯を食べたらすぐ寝る生活。
もっとこう、楽しい学校生活を空想していたんだけどもなぁ。体力的には結構きつかったよ。ペペルトとも全然会えなかったし。なんか夜も宿屋に戻ってこないし。
あ、でも卒業試験は錬金スライム内蔵の錬金スライムの説明書を見ていいという緩さ。楽勝でしたよ。
そして卒業証書兼スライム自体に何か問題があった時の対応方法を冊子で貰って、晴れて卒業と相成った。
「これでみんな晴れて錬金術師だね!」
「……ペッタン! そうね!」
「ポリナ、僕ペットンだから。1ヶ月間一緒だったのに未だにスライムの鑑定を使わずに名前を言えないのは君くらいだよ」
しまったまた間違えた。人の名前覚えるのって苦手なんだよね。
「おいおいポリナ、そんなんで大丈夫か? ちゃんと錬金術師やっていけるのか?」
「大丈夫よ。覚えてないのはペットンだけだし……ラルフ」
「ラルクだ。微妙に間違えるなお前は」
「ミファとアリンの名前はちゃんと覚えてるから」
さすがに親友となった女子二人の名前は間違えない。なぜかアカは女子の老廃物しか好みではないのでだいぶお世話になったのだ。まったく変態スライムめ。おかげでミファとアリンのお肌はすべすべである。
……いっそ女の子専門でスライムエステでもやろうかなぁ。それなら町でも競合しない気がするし……権力は少ないだろうけど。
「ところでポリナちゃんは故郷に帰って結婚するんだっけ?」
「そうよミファ。ポリナには幼馴染の婚約者が居るんでしょ? 今日の卒業記念パーティーにも来てもらえばよかったのに」
「まぁ今日はみんなとのお別れ会だし、いきなり部外者が割り込んでも辛いでしょ。ペペルトって結構内気で弱気だから……ま、ミファだって婚約者いるのに連れてこなかったし同じようなもんよ」
「私のは親が決めた婚約者で顔も分からないくらいだけどね。一応下位だけど貴族だし、政略結婚ってやつよ。良い相手らしいから楽しみだわ」
「いいなぁ、私だけぼっち……」
「アリンも良い人見つかるわよ。なんたって錬金術師なんだから」
と、そこに同級生最後の一人が美味しそうな料理を載せた皿を持って台所からやってきた。
「おーい、追加料理が錬成できたよ。さぁさ、どんどん持ってくるからどんどん食べてくれ」
「お! さすがリットだな。いただきます!」
「ペットンに材料貰ってるから、そっちにも感謝な」
「今後ともウチの商会を御贔屓に、ってね。何か欲しい素材があったら発注してくれよ」
リットは錬金スライムで料理を作っていた。というか、錬金スライムって料理もできるものだとは……さすが錬金スライム、なんでもできるね。
レシピを教えてもらったし、ペペルトにも作ってやろうかな。
こうして、私達の卒業記念パーティーはつつがなく終わった。
これからはみなバラバラだ。
ラルフは冒険者となって、自分で素材を集めつつ錬金術を極めるそうな。
アイテムを収納できる錬金スライムは、ポーターとして最強だろう。回復薬にも困らなそうだ。
リットは実家の飯屋を継ぎ、錬金料理人に。
錬金スライムが居ればどんな料理だって好きに作れる。包丁も鍋も内蔵しているようなものだし、自動で材料から料理ができるのだ。凄い。
ペットンは商人として働き、自分で作った薬もどんどん売っていくそうな。
錬金スライムは歩く倉庫だし、リスト表示なんかもあるから在庫管理も楽々だ。輸送もスライム一匹を連れていくだけで済むから重宝されるそうだ。
ミファは貴族令嬢としてお嫁さんに行く。錬金術は婚活に有利らしい。
というか既に好条件の相手が決まっているらしい。お相手は領地持ちの貴族様だそうで、ぶっちゃけ私の上位互換では? うーん、お幸せに。お抱えの騎士団の治療薬とか作りまくりたいらしい。
アリンは町で学校の先生になるらしい。こっちは小さい頃の夢だそうで。
子供が怪我したり病気になったりしたときにさっとポーション使えるのは、子供を預かる保護者としてとても有能だと思うし、きっとすぐなれるね。
そして私はペペルトと結婚して、村の相談役を目指すのだ。
うん。見事にバラバラだ。錬金術っていろんな分野に使えるしね。
というか、私が一番しょぼい気がしてきた。ま、まぁ……みんなが村に来ることがあったら歓迎するわよ! 何もないとこだけど!
* * *
というわけで、錬金術師になり卒業パーティーも終わったしもはや町にいる理由もなくなった。私はピリカ村へ帰ることにした。
「折角だし、私も観光したいんだけど。もう1日くらい泊っていかない?」
「僕は飽きたしもう帰りたいんだけど? あと宿代がもうないよ」
というペペルトに付き従う形で、私は仕方なく村に帰ることになった。
別にもう二度と来れないわけじゃないし、観光はまた今度でいいか。片道1週間かかるけど。
しかしペペルトめ。確か村長からは少し余計にお金を貰っていたはずなのに、さては使い込みやがったな。ぺっ。よーし、将来は尻に敷いてやろう。ぶっちゃけ村長の次男ってだけのペペルトより、【錬金術】が使える私の方が立場は上なのだし。
「一応確認するけど、ちゃんと錬金術師にはなれたんだよな?」
「うん、ばっちり。錬金スライム見る? 許可証もあるよ」
と、私はカバンをあけてアカを見せてあげる。にゅっと顔を出した赤いスライムはその表面に私の錬金術師の許可書を表示した。これで私は誰憚ることなく錬金術師を名乗れるってわけだ。
ちなみにカバンの中身はアカのみ。錬金スライムにはアイテムストレージ機能があり、異空間にアイテムを収納できるんだもんね。……商人としたらチートと言わざるを得ない、とかペッタンが言ってたっけな。スライムの中にお財布とかお土産とかの荷物をツッコんでる感じだけど異空間なので重さを感じない。これ引っ越しとかにも便利そうだ。
「へぇ、錬金スライムって赤いスライムなんだな」
「ええと、まぁ、うん、そうだね?」
その後、こいつどうやって使うの? とかとりとめのない話をしつつ、私達は村への帰路を行く。
村までは乗合馬車や徒歩で約1週間。錬金術の授業にへとへとだった私に比べ、ペペルトは随分帝都観光を楽しんだようで、ペペルトの話題は尽きなかった。
王都は楽しかった、友達もできたしまた行きたい、いっそ村を出て王都で暮らしたい等々。
うん、やっぱり将来は尻に敷きまくってやろう。決定だ。
そうして、2日が過ぎたあたり。私たちが山道を歩いていると、ペペルトが手を差し伸べて行った。
「カバンよこせよ、重いだろ? 持ってやるよ」
「えっ、今更?」
もう山道に入ってから結構経つのに。と呆れ果てる。
「……気が利かなくて悪かったな。ほら」
「あー……まぁ、気持ちだけ受け取っておくよ」
折角のペペルトの申し出だけど、錬金スライムは他人に渡すわけにもいかない。
そもそも護衛代や馬車代をケチってこんな山道を歩いている時点で結構ヤバいもので、いざという時に戦う手段が無いと困る。
実はアカの中には錬金術で作った爆弾をたっぷり入れてあるのだ。錬金術師は戦士でもあるが故に。
「いいからよこせよ」
「あっ……もう、ペペルトったら強引なんだから。何かあったらちゃんと返してよ?」
と、ペペルトにカバンを取られる。まぁ夫婦になるんだしいいか、と私が諦めたのもつかの間。森中からゲスい笑みを浮かべた男たちが現れた。山賊だ!
いつの間に囲まれていたのか、全く気が付かなかった!
「ペペルト! カバン!」
私はカバンを渡せとペペルトに手を伸ばす。
――しかしペペルトは、私の手をひょいと躱してニヤリと笑った。
「おっと」
「ちょ、ふざけてる場合じゃないでしょ!」
「ふざけてなんかいないさ」
と、ペペルトの目付きが、その後ろに立つ山賊たちと同じだと気付く。
罠にかかった獲物を見る目。
「ぺ、ペペルト?」
「おい、そのカバンをよこせ。錬金術師はスライムがいねぇと何もできねぇからな」
「ああ。ほらよ」
そう言ってペペルトは、私の半身とも言っていいアカの入ったカバンを、無造作に投げ渡した。山賊に。
「え、な、何してるの? ペペルト?」
これではまるで、ペペルトが、こいつらの仲間みたいじゃないか。
「何って、その、少し言いにくいんだけど……」
ペペルトは照れ臭そうに笑いながら、
「ちょっと借金を返すために、君を売ろうと思って。錬金術師は金になるっていうからさ」
そんな言葉で私を踏みにじった。