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さて、なんでか赤いけど錬金スライムは手に入れた。
先生が何度か鑑定したけど問題はないらしいので、気にすることはやめておく。
「すげー! なんで赤いんだよ。カッコいいな!」
「他の3倍くらい速く動きそう」
「触ってもいい?」
と、私の赤スライムは同級生の面々には中々に好評で。一人だけ色違いだったから仲間外れにされたらどうしようかともちょっと心配したけど、親切な連中で良かった。
「ま、短い間だけどよろしくな。えーっと、ポリナだっけ。俺はラルクだ」
「僕はペットンです」
「おいらはリットだ。よろしく」
「私はミファよ。折角の同期なんだし、仲良くしましょうね」
「アリン。……おお、赤いのも同じ触り心地なの……!」
男子3人、女子2人。うーん、一度にこんなに人と知り合うなんて初めてで、正直名前が覚えられそうにない。私は村の人たちの名前もいまいち覚えきれていない程なのに!
「ちなみに俺のスライムの名前は――」
「まって。これ以上は覚えきれないというか既に覚えきれないわ!……そうだ、名札を付けましょう! そうすれば卒業するころにはみんなの顔と名前が一致すると思うの!」
私がそう提案すると、ふっふっふ、と赤スライムを撫でる……えっと、多分アリンが笑う。
「ポリナ。いい事を教えてあげる。スライムの鑑定を使えば名前はこっそり確認できるの……さすがにスライムの前で自己紹介した人に限るけど」
「……マジか! とんでもなく便利ねスライムって!」
「顔と名前を後で確認することもできるから、地味に便利ですよねぇ。僕は商人の家系だったんですが、スライムがいれば顧客管理も楽そうです」
そんな便利機能が……ますます凄いぞスライム! 惚れ直したよ!
「で、その鑑定はどうやればいいの?」
「明日習うだろうからその時のお楽しみだぜ!」
「えっとあなたは……ラ……ランプ? だっけ? そうね、明日のお楽しみにしておくわ!」
「ラルクだ! 覚えとけ!」
「気が向いたら覚えておくわね! あ、私許嫁がいるから言い寄ったらダメよ」
というわけで、同級生達との顔合わせはとても好感触に済んだのである。
うんうん、上手くやっていけそうでいいね!
ちなみに、私は赤スライムの名前を「アカ」にした。覚えやすいのが一番よね。
そして翌日は錬金スライムのアラーム機能のおかげで寝坊することなく起きることができた。ペペルトはペペルトで何してるのか知らないけど、私が学校に行く時間でもまだ寝ていた。まったくお寝坊さんめ。
まぁ夜会った時に「王都は凄いね! 知り合いもできたよ」とか言ってたから観光しまくって疲れたのだろう。
……しっかし、アラーム機能の鳥とも金属とも言い難い『ピピピピ』って音、どうやって出してるんだろう……先生は「アラームです」としか言わなかったけど。錬金スライムは謎が多い。先人が謎を詰め込み過ぎた感あるよ。ま、私が使う分にはなんの問題もないから気にする必要もないんだけど。
午前中の授業では錬金スライムを使って【錬金術】のレシピを検索したり、鑑定をする方法を教えてもらった。そして、いよいよ大本命、アイテム錬金である。
だが焦ることは何もない。なにせ錬金スライムはとても優秀。今日の課題のヒールポーションのレシピも道具もその中に内蔵しているのだから。
スライムの他に必要なのは素材の薬草だけ。その薬草ですら、今回は学校が用意してくれるのだ。全く問題ない。
「では皆さん、アイテム錬金を命じてみてください」
先生のその言葉に、私は待ってましたとアカにヒールポーションの錬金を命じる。アカの体に映るレシピを指で選び、薬草を食べさせれば――
……ん?
あれ、おーい?
「先生! 私の錬金スライムが薬草を食べてくれません!」
アカは、薬草を載せてもつるんと滑らせて机に落とすだけだった。
な、なぜだ。私の隣のミファちゃんはその手のひらサイズのスライムが薬草をはむはむ少しずつ溶かしてる姿が大変ほほえましいというのに! アリンちゃんの大きめなスライムはなんか余計にどっさり食べてるというのに!
「おや。どうやらポリナさんのスライムは薬草が嫌いみたいですね……」
「えっ。錬金スライムってそういうのがあるんですか?」
「そりゃありますよ、生きてるスライムなんですから好き嫌いくらい」
なんと。そういうものだったのか。錬金スライム、やはり奥が深い……
「どうしたらいいんでしょうか」
「簡単です。スライムの好物を与えて機嫌を取るのです」
「スライムの好物」
スライムって魔力を与えるだけで生きられる餌代不要でエコな生態ではなかったっけ。
私がそんな風にあっけにとられていると、先生はさらに説明を続けてくれた。
「魔力以外にも、好物な属性と言うものがありまして。火属性だったり、水属性だったりというジャンルで好物が分かれていることが多いですね。珍しいのでは特定の金属であったりもします」
「え、じゃあもしかしたらポーションを作るためにご機嫌とりで金貨をあげなきゃいけない、みたいなこともあるんですか?」
「可能性としてはあり得る話ですが、逆にそういう極端な好みを持つスライムの場合は別途何か得意な事があるものです。金属を好むスライムは、その金属の彫金技術が物凄く繊細であったりですね」
はえー。好き嫌いが激しい奴ほど特化型って感じなわけか。
ということは、私の相棒も何か凄かったりするんだろうか? なにせ他と違って赤いし。
「どれ、スライムの事はスライムに聞いてもらうのがいいでしょう」
と、先生は胸元のポケットから手のひらサイズの――先日はルーペにして見せた――スライムを取り出し、アカの前に置いた。
……ぷるぷる、と体を震わせている先生のスライム。
アカも応えるようにぷるぷると体を揺らす。
……かわいい。
「ふむ。どうやらポリナさんのスライムは……ポリナさんに撫でて欲しいようですね?」
「そうなんですか? こうかな……のわわ!?」
と、私がアカを撫でようとすると、赤スライムの中にずぶんと手が沈み込んだ。
「え、え、これ、これ大丈夫なんですか!?」
「ああ、大丈夫ですよ。普通のスライムと違って錬金スライムですし、頑丈でほぼ物理攻撃無効ですから」
「そっちでなくて私の手が溶かされたりとかで!」
「そちらも大丈夫です。錬金スライムにはセーフティーがありまして、微生物を除く生き物は消化も吸収も素材化もできないようになっているのです」
「な、なるほど」
「食べられるとすれば老廃物くらいなものでしょう。……ええ、むしろ老廃物を食べてくれるなら、お肌がすべすべになるのでは?」
なんと。美容に効くとな。
……スライムマッサージとか、儲けられるだろうか? ふふふ。
まぁ、私の手の垢をしっかり食べたのだろう。私の手はすべすべになったし、アカは上機嫌に薬草を飲み込んで、結構いい品質のポーションを大量に錬成してくれた。
課題で作ったアイテムは学校に納める決まりだから、別に低品質でも良かったんだけどね。
……あれ? 実は体よく働かされてたりする?
まぁ、おかげで授業料が村娘の私でも払える程度に安く済んでるんだろうし、授業料を体で払ってるようなもんか。