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純朴な超能力少女と少年の童話


1


しんちゃんとまあちゃんねえは家隣りで、

しんちゃんの家とまあちゃんねえの家の境には三叉路があり、ちょっとした広場になっていた。

三叉路には大きながじゅまるの木がでんと生えていて、三叉路の広場をがじゅまるの大きな枝が覆っていた。


まあちゃんねえは十五歳。中学三年生。


まあちゃんねえは、いつも三叉路のがじゅまるの根っこに座っていた。

隣近所から集まってきた子供たちは三叉路でぐうちょきぱーをしたりけんぱーをしたり鬼ごっこをしたりして遊んでいた。まあちゃんねえは子供たちと遊ぶことはなく、がじゅまるの根っこに座って、編物をしたり、本を読んだりしたりしていた。

でも、子供たちに頼まれるとまあちゃんねえはいつでも一緒に遊んだ。


「まあちゃんねえ。ちよちゃんとゆみちゃんが来るまで一緒にけんぱあをしよう。」


「まあちゃんねえ。縄跳びしよう。」


「まあちゃんねえ、おはじきをしよう。」


「まあちゃんねえ、お手玉をやろう。」


遊び仲間が少ないと子供たちはまあちゃんねえを呼ぶ。

まあちゃんねえは微笑んでがしゅまるの根から立ち上がり、子どもたちと遊ぶ。

まあちゃんねえは細身で背が高い。縄跳びなんか腰を直角に曲げて飛ばないといけないから大変だ。でもまあちゃんねえはしなやかに体を曲げて上手に飛ぶ。

お手玉はとても上手。五つのお手玉を空中に浮かしてしまうんだからね。

背の高いまあちゃんねえと子供たちの遊ぶ様子はまるで白雪姫と十人の小人のよう。

三叉路を横切る村の大人たちは子供と遊ぶまあちゃんねえを見て、


「まぁちゃんはまるで幼稚園の先生みたいだな。」


と笑いながら通りすぎる。


「まあちゃんはでかあい子供だなあ。」


と大笑いしながら通りすぎる。


子供たちが増えると、まあちゃんねえは子供たちから離れてがじゅまるの根に座る。

そして、黙って本を読んだり編物をしたり。


今日のまあちゃんねえは、

おっかあに言われてばーきに入った豆の選定をしていた。


季節は秋。


秋になるとがじゅまるの木は黄色になった葉っぱを三叉路の広場一面に散らした。

三叉路の広場はがじゅまるの黄色い葉っぱで覆われた。

まあちゃんねえは豆の選定作業が終わると、がじゅまるの落ち葉で円錐型の黄色い帽子を作った。

大きい葉を選んで、その葉をくるっと巻いて、竹の枝で作ったつまようじで葉にちいさな穴を開け、その穴に葉っぱの根っこの芯を刺して、葉っぱを円錐型にする。

それから次々と葉っぱの芯を葉っぱの先に開けた穴に刺して重ねていくと、きれいな黄色いとんがり帽子ができる。

子供たちはまあちゃんねえが一つ目の黄色いとんがり帽子を作ると、その帽子をまあちゃんねえからもらい、二つ目の黄色いとんがり帽子を作ると別の子供が二つ目の黄色いとんがり帽子をもらい、子供達はがじゅまるの葉っぱで作った黄色いとんがり帽子を被って喜んだ。


 しんちゃんは小学一年生。


毎日、まあちゃんねえと一緒に学校に出かけている。小学校と中学校は別の所にあるから、しんちゃんは途中まではまあちゃんねえと一緒に学校に行く。

小学校と中学校の別れ道でしんちゃんは小学校へ、まあちゃんねえは中学校へ。

しんちゃんとまあちゃんねえはとても仲良し。

まるで姉と弟のよう。


家に帰ると、しんちゃんは男の子だから、まあちゃんねえの居る三叉路で遊ぶより、野原で男の友達とちゃんばらごっこをして遊ぶのが好きだ。

ところが、しんちゃんには三歳の妹がいる。

しんちゃんのおっかあは朝と昼にとうふを作り、朝と夕方に村の家々を回ってとうふを売り歩いていた。おっかあがとうふ売りをして、家を留守にしている間は、しんちゃんは妹の子守りをしなければならない。

しんちゃんの妹の名前はくるみ。

くるみのお守りをしながらチャンバラなんかできやしない。

くるみを連れて野原を走り回ることなんかできやしない。

くるみのお守りをしている時は、しんちゃんは男の子と遊ぶことをあきらめなくてはならなかった。だから、くるみを連れて三叉路に来る。

まあちゃんねえはくるみの面倒を見てくれるから、

しんちゃんは三叉路で遊ぶことができるというわけだ。


今日もしんちゃんはくるみを連れて三叉路に来た。


「まあちゃんねえ、くるみの帽子を作って。」


としんちゃんが言うと、まあちゃんねえはくるみを抱き寄せ、くるみの頭の大きさを測った。まあちゃんねえはがじゅまるの葉を取り、帽子を作り始める。


「ぼく、神社に行って葉っぱを集めてくる。」


しんちゃんは、妹のくるみを置いて、がじゅまるの黄色い落ち葉を集めに近くの神社に行った。

くるみはやんちゃ盛り。まあちゃんねえの作りかけの葉っぱの帽子を取ろうとする。

まあちゃんねえはくるみのなすがまま。くるみがまあちゃんねえの手から作りかけの葉っぱの帽子を取っても気にはしない。

まあちゃんねえは作りかけの帽子を取ったくるみを叱ることはしないで、側の葉っぱを拾って、新しく帽子を作り始める。

くるみはまあちゃんねえから奪った作りかけの帽子をばらばらにして遊んでいる。暫くすると帽子はただの葉っぱになってしまう。帽子の形が消えてしまう。

くるみは消えてしまった帽子を探すが、それは葉っぱ一枚一枚に分解してしまったのだから見つけることはできない。

くるみはあたりを見回し、くるみの前から消えた葉っぱの帽子がまあちゃんねえの手にあるのを見つける。

くるみはまあちゃんねえの手にある葉っぱの帽子を取ろうとして、手を伸ばした。その時くるみは後ろから抱き上げられた。


「くるみちゃん。大きくなったね。」


くるみを抱き上げたのは上原恵子だった。上原恵子は同じ村に住んでいて、まあちゃんねえと同じクラスの生徒だ。上原恵子はクラスの副級長をしていた。


「麻里絵さん、帽子を作っているの。なつかしいわ。子供の時はよく作って遊んだものよ。」


「あ、副級長の上原恵子さん。」


上原恵子はくるみを抱えながらまあちゃんねえの傍に座った。そして、まじめな顔になって、


「今日は麻里絵さんに訊きたいことがあって来たのよ。」


と言った。くるみは手を伸ばして、まあちゃんねえの葉っぱの帽子を取ろうとした。上原恵子は「だめ。」と言ってくるみの手を掴んで押さえた。


「麻里絵さんは進学するの、それとも集団就職するの。」


まあちゃんねえの顔から微笑みが消えた。まあちゃんねえは黙って葉っぱの帽子を作り続けた。


「麻里絵さん。新城先生に卒業したらどうしたいのか、言わなかったでしょう。新城先生は困っているのよ。進路を決めていないのは麻里絵さんだけだって。」


まあちゃんねえは上原恵子の言葉になんの反応も示さず、

黙って葉っぱの帽子を作り続けた。


「私は商業高校に進学するつもりよ。そして、銀行かバス会社かタクシー会社に経理事務員として就職しようと思っている。麻里絵さんはどうするの。」


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