転生した元魔王、女子率激高の特殊学園にスカウトされる
特殊な能力であるギフト持ちばかりを集めた学校へスカウトされた時、俺は当然、教官らしき男に尋ねた。
「なんで俺がギフト持ちだってバレたんだ?」と。
当然だ。これまで目立たないように、そおっと生きてきたんだからな。今更、目を付けられる可能性は少ないはずなのに、こんな場所へ呼び出されちまった。
軍服みたいなのを着込んだおっさんは、無駄に爽やかな笑顔を広げ、あっさりと言ってくれた。
「うん。普通なら見つかるはずないよね。霧崎君、君は、とことん能力を隠す生き方を通していたみたいだし。しかし、残念でした。昨今では、『ギフト持ちを見抜くギフトの所持者』というのが現れ始めてねぇ。君に目を付けたのも、そのためさ。はっはっは!」
何がおかしいのか、藤原と名乗った教官は、ひとしきり笑った。
目は全然笑ってなかったが。
「なるほどなあ……じゃあ、否定しても無駄だね?」
「そういうことだ。だが、がっかりすることはない。学園生活も、なかなかいいものだよ。全寮制で家賃の心配もいらないし、出動がかかって敵を倒す度に、賞金や特典が手に入る。そう悪くないと思わないかい?」
「牢獄かと思ったが、そうじゃないと言いたいわけな?」
俺はわざとらしく、六畳くらいの素っ気ない審問室を見渡した。
藤原と俺しかいないが、多分隠しカメラがあるだろうし、横の壁が不自然にも一部鏡になっている。マジックミラーということだろう。
「もちろん、違うとも。君はグローリー学園の精鋭兼生徒であり、そして、我々共通の敵を倒す同志でもある」
「敵っていうと、人間にまじって暮らしてるアレか?」
さりげなく俺が水を向けると、藤原の嘘臭い笑顔が、綺麗さっぱり、消えた。
まさか気付いているとは思わなかったらしい。
「俺、そういうのに鼻が利くんだよ。どうやら制裁される恐れがないみたいだから言うけど、実は既に何体か殺しちまった。なんだあいつら? どうも人間に寄生して暮らしてるようだが」
「我々はボーダーと呼んでいるが、異世界から侵攻してきた敵だとしかわからない。現在、全世界で大問題になっているが、かろうじて一般市民には洩れてないけどね……正直、時間の問題ないかもしれない」
「で、そのボーダー達を倒すために、俺達みたいないたいけな子供を利用するわけか?」
俺が嫌みたっぷりに尋ねると、藤原はごま塩頭を撫でて、苦笑した。
「確かに君は、年齢的にまだ十五歳だけど、既にボーダーを何匹か倒している上に、なかなかしぶとそうな性格をしていると思うがねぇ。……まあ、それは置いても」
藤原はふいに座り直し、俺の顔をじっと見つめた。
「これは昔から明らかになっていることだが、ポルターガイストが起こる家には、必ずティーンの少女がいると言われている」
このおっさん、いきなり妙なたとえを持ち出したぞ?
「実はその子が無意識に発動する超能力――つまりはギフトが原因だったわけだ。これは一例に過ぎないが、残念ながらギフトの発生率が最も高いのは、ティーンの少女で、割合から言えば、圧倒的だ。その次がティーンの少年だが……これはあくまで少数派だね。でもって、大人のギフト持ちはほとんどいない。君達に頼る理由がわかったかい?」
「つまりなんだ」
俺はあえて笑顔で尋ねた。
「俺が放り込まれる学園も、女子率高いってわけだよな?」
「その通り。男子1に対して、女子は10くらいかな? 嬉しいだろ?」
「まあ、うん」
特に照れることなく、俺は正直に頷いた。
そりゃ俺だって、女は好きだ。
「では、話は簡単だ。君の唯一の家族は老人ホームにいることだし、学園に入学するのに、問題もないと思うが」
「いやー、一つだけ条件がある」
「……言ってみたまえ」
愉快そうな顔で、藤原教官が頷いた。
「あんた達、俺のストーカー女を攫っただろう? ここ数日、見かけないからな。あいつもギフト持ちだから、わからないでもないが……とりあえず、俺に返してくれ。あんなでも、俺の理解者なんだよ。消えると寂しい」
俺が真っ直ぐに藤原の顔を見て頼むと、彼は頷き、一旦ドアを開けて外の廊下に立つ兵士、なにか命じていた。
また正面に座り直した藤原に、俺は感心して言う。
「あんた、結構、立場強いんだな」
「まぁね。こう見えて、ギフト部隊の隊長で、大佐の階級がある。もちろん、自衛隊とは全く別クチでね」
さらりと言ってのけるおっさんを、俺はさらに感心して眺めた。
そんな立場なのに、俺の言葉遣いを全く注意しないのは、なかなか度量がありそうだ……もっとも、学園とやらに入学したら、ころっと変わるかもだが。
「ところで、肝心の君のギフトをまだ聞かせてもらってないな、霧崎丈君。どういう力を持っている――」
言いかけてポケットからタバコを出そうとした藤原は、そこで気付く。
出したばかりのタバコの箱を、俺が手にしていることに。
「……これこの通り、加速だよ。割と地味だろ?」
実はまだ奥の手が幾つかあるんだが、俺はあえてトボけることにした。
手札を全部晒すのは、得策ではない。
「なる……ほど」
感心したような顔の藤原に、タバコを返してやる。
ちょうどそこで、ドアが突然開き、セーラー服の少女が飛び込んで来た。
「丈さまっ」
大声で叫ぶなり、長い髪を舞わせて、いきなり俺に抱きつく。
お陰でこっちは、久しぶりに彼女の芳香に包まれ、うっかり手でしなやかな身体をまさぐりそうになった。
「無事だったみたいだな、由美」
「丈さまも、ご無事でっ」
心底ほっとしたように、肩を震わせる由美である。
見た目は可憐な少女だが、中身は殺人鬼も裸足で逃げ出す精神構造なので、下手にナンパでもしようものなら、血を見る……ナンパしたヤツが。
「よくこいつを捕らえておけたな? たいがいの場所からは逃げ出せるヤツなんだけど」
「まあ、君を餌に拘束させてもらったんだよ……ちなみに、大怪我した者が、既に一人出てるんだが」
若干非難気味に俺を見たが、そんなこと言われてもな。
「心強いだろ? この子はなぜか、前世で俺の臣下だったと確信しているんだ。あんた達の戦いでも、きっと役に立ってくれるさ」
「では、我らが学園で、戦ってくれるわけだね?」
こちらを伺うような教官に、俺は小さく頷いてやった。
「ボーダーがどれだけ人間に交じって暮らしているかわからないが、俺も連中は気に入らない。だから……うん、協力しようじゃないか。賞金とか特典にも興味あるし」
俺はにこやかに笑って了承した。
公然と暴れられるなら、俺にとっても悪い話じゃあるまい……どうやら俺、本当の意味じゃ人間じゃないらしいからな。
さすがに、由美が自信たっぷりにほのめかす通り、異世界では魔王だったとはまだ信じられないんだが……まあ、それもそのうちわかるだろう。
○新たな追記)
皆さん、ありがとうございます。
連載版として、新たにやってみます。
既に1話(この短編と同じ)を投稿しているので、そちらへ移動をお願いします。
(よろしければ、ブックマークや評価なども)
前に失敗した似たようなお話をがらっと変え――
こういう物語だと、どうだろう……と思い、とりあえず短編で書いてみました。
続きが気になる方は、ブックマークや評価などをお願いします。
(もちろん、今一つと思えば、放置でお願いします)
いずれにせよ、少しでも楽しんでもらえれば、嬉しいです。