97.ルフィーナ王女とヴァルキリーシャンタル
「時にルフィーナ。お前はアスティンと再会したら、城へ戻るのだろう? そこからまた外の旅に出るつもりか?」
「そうね、本当はミストゥーニで再会して、そこからアスティンと合流して、一緒に世界を見たいと思っていたのだけれど、ヴァルティアお姉さまにお話があるの。お姉さまの後ろに乗せて頂いてもいいかしら?」
「ふ、元よりそのつもりだ。カンラートの背中では安心も出来ないのだろうからな」
「ぬぬ……言いたい放題言いおって。ルフィーナ、遠慮はいらんぞ? がさつなシャンタルよりも、慣れた俺の腰に掴まる方がお前にとっても嬉しいだろ」
「それはどうかしらね? もしかしてお兄様は寂しいのかしら? ずっと国王陛下のフリをして、ハズナとテリディアとはお話をたくさんしていたのでしょう?」
「な、何も無かった」
「まぁ! 何てことなの? せっかく、わたしが選んだとびきりのヴァルキリー二人を傍に置いてあげたのに。カンラートったら、まともに会話できるのはわたしとお姉さまだけなのかしら?」
「くっ……いらぬとこまでシャンタルに似てきおって。と、とにかくミストゥーニに向かえばいいのだろ? 俺は先に進むからな。お前とシャンタルとで積もった話をしておけ」
あらら、カンラートがいじけてしまったわ。偽王子はアスティンには似ても似つかなかったけれど、サーク陛下はカンラートによく似ていたのよね。ずっとお傍に居たから本物のカンラートが平気になってしまったのかしら。
「ルフィーナ。馬を進ませるぞ。落ちないようにしっかりとわたしに掴まれ」
「ええ、ありがとう」
「ふふ……それにしても、わたしやアレが城に留まっている間に、味方の騎士が増えているとはな。さすが、お前は輝きの王女なのだな。アレにしてもアスティンにしても、嘆くのではないか?」
「女性の騎士が増えたことなら、アスティンならむしろ喜ぶのではなくて?」
「お前はそれで平気か?」
「それが彼の魅力なの。見習い騎士の頃からそうだったわ! お姉さまを好きになりすぎた彼ですもの。何も心配いらないわ。それに、アスティンはわたしのオヨメさんなの。もっともっと可愛くなるはずだわ」
「ルフィーナらしい言葉だな。それで、お前の話とは何だ?」
ヴァルキリーのシャンタル・ヴァルティア。彼女はわたしにとって、絶大な信頼を置く女性。わたしがまだ姫の時は、見習い騎士のアスティンが彼女の傍にいた。そのアスティンが骨抜きになるほど素敵な人。強さも美しさも、わたしでは到底届かないくらいの、元々が皇女だった彼女。わたしの心を安心して置ける三人の中でも圧倒的な人。
だからこそ二人きりで話をしたかった。セラもわたしと付き合いが長いけれど、アスティンが騎士になれたのはシャンタルのおかげでもあったから、そのことも含めて深いお話がしたい。
「お姉さま。わたし、今回のキヴィサーク国では見通しが甘いって感じてしまったわ。通行証が無かったからだけでは無くて、改めて国民の力……支えられている存在のありがたみを思い知らされたの」
「あんな小物によく我慢をし続けていたものだな。多少はアスティンの面影を感じることもあったが、まるで別物だったではないか。それなのにお前は、王女であることを最後まで隠し続けて侮辱も受けたのだろう? 私が最初から傍に居れば、間違いなく消していただろうな」
「うふふっ、途中からで助かったのね。トビアス王子は」
「ふ……確かにな」
「わたしはアスティンと再会したら、ジュルツへ戻ってしばらくは内政に専念するわ。お姉さまやカンラート、アルヴォネン様にばかり国の負担をかけさせたくないの。それにお姉さまが言った通り、旅先で新たに加わった騎士がいるわ。その子たちも国民の為に動いて欲しい。そして王の為に働いて欲しいって思っているわ。お姉さまの考えを聞きたいの」
「……なるほどな。他国の実情を経験して見る目も変わったか。私はお前が外へ飛び出したまま国を留守にするのも、国に居続けたままの王女でも咎めはしない。だがそれでも、お前にはもっと外の国をたくさん見て来て欲しい。それが私の望みだ。だが今回のことでお前が何か得たものがあったことは、間近にいたわたしや、他の者も感じたはずだ。その上で私からお前に言うことがある」
「き、聞くわ」
「数年はアスティンと城で過ごし、ジュルツも輝かせろ。その後、外へと出る時には私と子のヴァルヴィアとで共に他国に出向きたい。私……いや、我がルフィーナを守る。どうだ? 興味はあるか?」
「す……素敵だわ! お姉さまがそんな考えをお持ちだったなんてさすがだわ! 今度はお姉さまと長い旅にだなんて、今からドキドキしてしまうわ! そうなるとカンラートやアスティンはどうするのかしら?」
「ふっ、お前はすでに思い付いているだろう? その時が来たら奴等に伝えればいい。もちろん数年の間に、新たな騎士も育てて行かなければ駄目だ。その役目はアスティンに任せればいいだろう」
「あぁ――わたしの理想通りだわ。まさかお姉さままでもがそんな考えを持っていたなんて」
「子が育てば、ヴァルキリーは城に留まる意味を持たぬのでな。まぁ、我も元はお転婆姫だったのだ。分かるだろう? その気持ちが」
「ええ、勿論よ!」
「何にしても、キヴィサーク国と友好国となったのはお前にとっても良かったことではないのか?」
「違いないわ。それもこれもアルヴォネン様と同行していたからに他ならなかったけれど、人の繋がりを近くで学ばせて頂けたのですもの、わたくしももっと、王女として突き進んで見せるわ! お姉さま、いえ……ヴァルキリーのシャンタル。これからもわたくしの傍に居続けて下さるかしら?」
「我の命は、ルフィーナ王女の為にある。無論、生涯を賭して付き従う」
アスティンに会う前に、お姉さまと本音で話せて良かったわ。これで迷いは消え去ったのですもの。さぁ、まずはミストゥーニに戻らなければね。
「カンラートの姿が見えないけれど、よほど気を遣ってくれているのかしらね?」
「色々と画策をしているのだろう。では我にしっかり掴まれ! 駆けるぞ」
「ええ」




