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96.三度目の思い出に

「では、参りましょう」


「ああ」

「そうだな」


 アルヴォネン様のドジから始まったキヴィサーク国の長期滞在は、わたしやジュルツの騎士たちにとっては初めての体験であったり屈辱的なことがあった。それでも、ジュルツの友好国がいち早く出来たことには喜ぶべきだと思えた。随分と大所帯での帰路となってしまうけれど、このまま素直に帰るなんて一言も言っていない。わたしには愛しのあの人と再会することが決まっているのだから。


「ルフィーナ様。あの、わたくしたち姉妹のお願いを聞いていただけないでしょうか?」


「あら、テリディアとルヴィニーア? 何かしら」


「ここからレイバキアはさほど遠くないことから、一度姉と共にわたくしテリディアとで、故郷に帰り挨拶をしていきたいのでございます。ルフィーナ様の元を離れるのは心苦しいのですが、今後容易く故郷に戻ることよりも、ルフィーナ様の傍に居続けたいのです。どうかお許し下さいませ」


「うふふ……テリディアにルヴィニーア。故郷は大切になさい。わたくしに構わずに戻りなさいね。どの道、今すぐジュルツに戻るわけではないのだから、この機会にお行きなさい」


「有難き幸せにございます。それでは、わたくしたちはレイバキアへ向かいます。その後、ミストゥーニに向かいます。では、失礼致します」


 彼女たちはジュルツの子たちではないのよね。それなのにわたしに尽くす騎士だなんて心強いわ。あっ、そうだわ。ジュルツへは近くも無いのだから、この時を利用して彼女たちにも暇を与えなければいけないわね。


「セラ、こちらへ来て」


「何だい、姫さん」


「あなた、故郷は遠いかしら?」


「そうだな、近くはないな。それがどうかしたのかい?」


「セラもこの機会に故郷に戻っても構わないわよ?」


「いや、あたしの故郷はジュルツさ。もう両親の元に戻ることはないんだ」


 セラにも何か事情がありそうな感じね。それもそれなりの重さを感じるわ。無理に生まれ故郷に戻らせるのも良くないわね。それなら、彼女たちと御子を頼んでジュルツに戻って頂くのも手ね。


「お聞きなさい。セラフィマ、ハズナ、マフレナは、ヴァルティアの御子と共にジュルツに引き返しなさい。これは王命よ。わたくしとカンラート、ヴァルティアはどうしても寄る所があるわ。それにあなたたちを巻き込むわけにはいかないわ」


「王女……さま?」

「わ、分かりました」


「姫さん、あたしもか? 何でそんなことを言い出す?」


「セラフィマ・ニーベル。わたくしの命じを聞き入れないのかしら?」


「……すぐに向かいます」


 ルフィーナ王女の言葉にハズナ、マフレナはすぐに馬を駆けださせた。


「セラ、ごめんなさい。わたしは約束よりも先に彼に会いたいの。あなたにはヴァルヴィアを、シャンタルの御子を守って頂きたいの。セラ、馬車とヴァルヴィアをお願い」


「あぁ、そうか。何だ、あたしのこと嫌いになっちまったかと思ったけど、そんな大事なことをお願いされたら、従うしかないな。分かった。あいつに再会したらひとまずは城に帰って来るんだろ?」


「ええ、勿論よ。二度と帰らないなんて言った覚えはないわ」


「分かったよ。じゃあ、シャンタル。あんたの子はあたしが面倒見とくよ。多少、活発になっても文句言うなよ?」


「ふ、すでに活発だ。気にするな。そう長く会わないわけではないし、城には世話係もいることだ。セラだけが、子の世話をするわけではない」


「それもそうか。よし、あたしも行くよ。姫さん、あいつにたっぷりと甘えな! 約束よりも前にってことは、いたずら心なんだろ? 姫さんらしくて好きだぜ! じゃあ、城で待ってるぜ!」


 そんなに長い事会えていなかったわけではないはずなのに、やっぱり偽アスティン……いえ、トビアス王子のことがあったからかしらね。もう居ても立っても居られないわ。


「それで、ルフィーナ。行く先は分かっているのか? あいつの居場所を」


「そ、それなのだけれど、まるで見当がつかないわ。ジュルツに戻っていたことは聞いたけれど、そこからどこかに出かけたみたいだし、分からないわ」


「おい、エドゥアルト。貴様、アスティンの居場所は把握しているのだろう?」


「な、なに? 俺がか? キヴィサークに長くいたから、従士と会うことが出来なかったのだぞ? 流石に分からんぞ」


「ちっ、使えぬ奴め。こうまでルフィーナが切望しているのだぞ? 少しは役に立て」


 わたしに忠誠を尽くす騎士たちはまだ、ここまでではないわね。シャンタルとカンラート……あの頃から何も変わっていない光景ね。懐かしいわ。こんな掛け合いにまでなってないけれど、アスティンとはもっと深く深く……彼に寄り添いたいものね。

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