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95.王女の輝き③

「よく聞こえなかったのだけれど、あなたの好きな女性はどなただったかしら?」


「だ、だから、僕の好きな人は、ルフィーナ。僕は君が好きなんだ」


 何てことなの!? あれだけわたしにひどい事をし続けて、最後はわたしと会うことすら避けて来た王子の好きな人がわたし? これはおかしい話だわ。まるでいじめっ子が大好きな子に仕掛けるという、遠回しの告白だったとでもいうのかしら。


「トビアス、あなた……わたくしにあれだけのことをしておきながら、どういうことかしらね? どこをどう見れば好意を持てるというの? 皆が見て聞いている前で、はっきりと言いなさい」


「……はっはっは! やはりそうだったか。いや、すまぬな。わしには分かっていたのだよ、ルフィーナ王女。王子の部屋に兄として行った時には気付いてしまった。そなたはひどい事をされたと思われてしまったようだが、トビアスからすれば素直に言うことを聞く女性よりも、逆らいながらも意志を確実に見せる女性を好みとしていたのだろう」


「な、なんてことなの……」


 大誤算すぎて何も言えないわ。やはり偽とはいえ、アスティンと似ている彼は自然とわたしを好きになることが決まっていたのかしら。これはまずいわ。いたずらを仕掛けてまでわがまま王子を素直王子にした苦労は何だったというの。


「フフ……ルフィーナの魅力には最初から気付いていたということだろうな。アレもしかり、アスティンもしかり、な。それならば都合がよいではないか。我が王女に素直に従うのであらば、脅威となる可能性は潰えたと断言できよう。貴様もそう思うだろう? カンラート」


「む、うむ……ル、ルフィーナ王女には敵わぬだろうとは思っていた。たとえ、我らが援軍に来ずとも何とかなるだろうと思っていたが、このようなことになるとは予期できなかったのだろうな。さすが我が妹だ」


 これでは連れ戻してきたフィーリアにはどんな顔をすればいいというの。恐らく、彼女こそが本当の想い人のはず。それなのにわたしのことを好きと言っている時点で、何も言葉をかけてあげられないじゃない。


「王女さま……心配いらない」


「ハズナ? 何をするの? 斬っては駄目よ」


 首をふるふると横に振りながら、ハズナはトビアス王子に近付いていく。あの子はわたしに忠実な子ではあるけれど、わたしに害をなすと判断した相手には容赦が無さすぎるのよね。アスティンにも。


「な、なんだ? ルフィーナの近くにいた子供が何で僕に近付く?」


「お前、キライ。お前がいると、王女さま悲しむ。だから、今すぐどこかへ行け」


「な……何だ、この風――うわっ!?」


 幼きヴァルキリー、ハズナ。武器を手にしていない彼女の動きは誰の目にも見えなかった。トビアスに向けて放ったとされる風が、彼をその場から舞い上げその場から彼の姿を消してしまった。咄嗟のことで他の誰もが反応できなかったものの、風の力で飛ばされたトビアスの体はフィーリアと名乗る女性の所にあった。


「うーん……懐かしい気がする」


「あ、あの、トビィ……皆さんが見ている前で駄目だから」


「ううーん……えっ!? フィー? あれ? どうしてここにいるの?」


「私に言われても……でも、思い出してくれたんだ。良かった」


 ハズナが風を起こした時はどうしようかと思っていたけれど、あの子の所に飛ばしていたなんてなかなか面白いわね。でもこれで、わたしへの告白も無効になりそうだわ。ハズナに助けられたわね。


「ハズナ、ありがとうね」


「あんな男、邪魔なだけ……です」


「さて、トビアス王子。あなたのわたくしへの告白はありがたく頂戴しましたわ。だけれど、あなたの運命のお相手はすでに決まっていたようね。しかもあなたから彼女に向かって飛んでいくなんて、さすがのわたくしも驚いてしまったわ」


「えっ? い、いや、これは違う……僕は――」


「わたくし、ルフィーナ・ジュルツは、ここにいる全ての者を証人として、トビアス王子と王子を支える妃にはフィーリアを指名することを認めて頂きますわ。いかがかしら?」


「うむ、異論はない」


 サーク陛下、衛兵や他の花嫁候補たちも頷きを見せていた。納得をしていないトビアス王子のみが、ルフィーナの前に歩み寄ろうとしていた。


「こんなの納得できない! 僕はまだルフィーナから返事をもらっていない。それに、ルフィーナの支配下になるんなら、僕をあなたの傍に置いて欲しい」


「諦めの悪いことね。いいでしょう、わたくしの返事を致しますわ」


「や、やった!」


 ああ、もう面倒すぎるわ。早いとこ出国してアスティンに会いに行きたい。こんな茶番を考えてしまったのもわたしだけれど、想像以上に王子が子供過ぎたわ。


「キヴィサーク国、末王子トビアス。わたくし、ルフィーナはあなたのことを何にも思っていないわ! だって、わたしにはアスティンがいるのですもの! 彼以上の素敵な人なんて存在しないわ。それに、サーク陛下の国を支配下だなんて冗談に決まっているじゃない! ふふっ、やっぱりトビアス王子は子供過ぎて相手にもならないわね。まったく、とんだ無駄足だったわ」


「なっ……何だと! お、お前、そ、それ……お前はすでに婚姻を果たしていたっていうのか? な、何だよ!! 僕を騙したのか。それに支配下のことも嘘だったなんて……父上もご存知だったのですか?」


「うむ……友好国であるのは間違いないが、支配などされぬよ。全てはお前の傍若無人を直すために仕組んだことだったのだ。ルフィーナ王女は国民全てに頭を下げ続けた。全てはお前の為だ。分かってくれるか? もっともそこにいるフィーリアだけは事の詳細を知らずに、お前の元に駆けつけた。その意を考えて、お前の答えを出すがいい」


「フィーリアが……く、で、でも」


 トビアス王子は何度も首を横に振り続けている。その姿にはその場にいる誰もが呆れかけていた。そこに、先程のルフィーナと違って毅然とした態度のルフィーナ王女が彼の前に立った。


「トビアス王子。わたくしがあなたにされたこと、忘れもしないし許すこともしないわ。だけれど、あなたが王族であることは誰もが認めているわ。そのこと、胸に刻んでこれからをお過ごしなさい。わたくしはこの国に長く居続ける予定ではなかったわ。それでも、あなたという素敵な王子に出会えたことを光栄に思っておりますわ。これからもサーク陛下と共に、国を良くしていくことを期待していますわ」


「――はい、必ずや」


「トビアス。そして、フィーリア。此度の騒ぎの責任をお前たちに負ってもらう。数日は城中に留まれ。よいな?」


「か、かしこまりました、陛下」

「はい、国王陛下」


 あー終わったわ。こんな大ごとにするつもりは無かったのに、カンラートとヴァルティアお姉さまを呼んでしまったこともまずかったのかしらね。いえ、それでもやはり気付かせるためにはカンラートは必要だったわ。大国ではこんな簡単に事は運ばないはずだわ。それでも、なかなか面白かったわね。


「サーク陛下。わたくしルフィーナ以下、ジュルツの者たちは数刻の後に出国致しますわ。此度のことにご協力頂いたこと、心から感謝致しておりますわ。支配下だなんて非礼をお許しくださいませ」


「ふ、なに、アルヴォネンにも念を押されておったのでな。盟友の王女に無礼など感じておらぬよ。ところで、いずれいとまが出来た時には、そなたの城へ招待してくれぬか?」


「ええ、歓迎いたしますわ。きっと、父や母も嬉しく思うことですわ」


「うむ」


 トビアス末王子とフィーリア……次にお会いする時には、国のためにしっかりとした動きをしていることを望んでいるわ。偽とはいえ、アスティンに似たあなただったのですもの。アスティンもまだまだだけれど、彼の様に愛おしく思えるような人になることを期待しているわ。


「カンラート、シャンタル。そして、わたくしの近衛騎士たち。身支度を整えなさい! 翌朝には出国するわ。よろしくて?」


「ははー!」

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