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87.アスティンの盾と騎士の訓練


「そうです、そこから押し返すのです!」


「こ、こうかしら?」


「筋がいいですよ。さすがルフィーナ様です! どこかで習ったのですかな?」


「習ったのは弓と体術と……受け身くらいかしらね」


「ほほう! それだけでそこまでの動きが出来るとは、それもアスティンのおかげなのですな!」


 わたしはキヴィサーク国の修練所という場所で、密かに騎士がするような習いを受けている。教えてくれているのは、かつてわたしのお城の庭で庭師をしていたタリズ。彼の正体は庭師では無く、武術の達人らしい。


「アスティンのおかげ……そうなのかしら。でもこれを書いたのはわたし自身なのだけれど」


 カンラートが近衛のマフレナに密かに持たせた手土産は、アスティンが最後の試練で使っていた盾だった。これには、わたしのいたずらで「ルフィーナちゃん、大好き」なんて消えないペンで書かれた文字が残っていた。自分で書いた文字とはいえ、不思議と恥ずかしさは無くむしろ盾を持っているだけで、彼を感じられることが出来ている気さえ感じていた。


「ところで、その鎧はどなたからお借りしたものですかな?」


「え、えーと……正確には、許可を得たものではないのだけれど、お姉さまのモノなの。これを着ればわたしもヴァルキリーっぽく見られると勝手に思っているだけなの」


「ということは、シャンタル様の鎧ですか!? しかし、サイズが……」


「仕方ないことですわ。ヴァルティアお姉さま専用の鎧ですもの。わたしが着たところで合うはずがないわ」


「そのシャンタル様は今、何をされておいでか?」


「お、お姉さまは……耐えているわ! そ、そう、わたしの代わりに頑張っているの!」




 数日前、ヴァルティアお姉さまとセラたちは、わがまま王子の花嫁候補として国民に紹介をされてしまった。その中にわたしは含まれていない。なぜなら、お姉さまの登場ですっかりと王子が虜となってしまったから。


「ぶ、無礼者!! き、貴様、我に近付くな! 我はこう見えて……」


「トビアス王子。ごめんなさい、お姉さまを説得致しますわ。その代わり、わたしを花嫁候補から外して頂いてもよろしいでしょうか?」


「ルフィーナが候補から外れる? 別に俺は構わないぜ。セラもいるし、新しく追加されてきたシャンタルと、マフレナもいることだしな。お前は草むしりとか部屋の掃除だけしてればいい」


「はい……それで構いませんわ。では、少しばかり失礼しますわ」


「ルフィーナ。これは何の真似だ? わたしが何故あんな似ても似つかない偽アスティンなぞの嫁候補にならねばならんのだ? ここに来たのはそもそもお前の命じによるものであって……」


「お姉さま。わたし、あの末王子を改心させたいの。お姉さまたちが来てくれなければ出来なかったことなの。王女という身分を隠し続けて、それでもあの王子のわがままに付き合って来たわ。でももう、わたしだけの力ではどうにもならないの。お願い、お姉さま! どうか、わたしの為に耐えて欲しいの」


「――それほどのことをされてきたというのか」


「それと、お姉さまの鎧はわたしが大切に預かっておくわ。さすがに花嫁候補が騎士の姿をしているのはおかしいですもの」


「ま、待てっ……、いくら娘がいるとはいえ、その鎧はわたしの――」


「わたくしが預かりますわ。よろしいかしら? シャンタル」


「こういう時に王女に戻るとは……何も言えぬではないか」


「うふふっ、そういうわけだからお姉さまは、可愛らしいお洋服で王子の相手をお願いするわね!」


「こ、こらっ! ルフィーナ! どこへ行く」


「耐えてね、お姉さま」


 そんなこんなでお姉さまをも騙す形になったけれど、わたしの当初のいたずらはわたしが得意とする落とし穴の予定だった。けれど、そんな優しいいたずらでは我慢できないほど、わがまま王子にはうんざりしすぎていた。


 どうにか彼をいい子に戻したい。その為には多少驚かせながらも、痛い目に遭わせる必要があると思ってわたし自身が特訓をしている。元は素直な末王子だったとサーク様から聞かされていただけに、色々と試行錯誤を繰り返していた。


 何とも言えないけれど、わたしも少しはそれを出来るようになれれば、改心させることが出来るかもしれないと考えた。国を巻き込んでのいたずら計画には、多くの民と国王陛下までもが参加してくれているだけに、大ごとになってしまっているのが正直な所。


 こんなはずじゃなかったのに、早くアスティンに会いたいのに、偽アスティンを何とかしないとあなたに合わす顔が無いもの。あなたの盾を使って、あなたの想いを感じながら頑張ってみせるわ。

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