84.ルフィーナ王女のいたずら計画③
「まったく、誰も来ないではないか! あのハズナとかいう子供も勝手に俺を使うようになりおって。だから嫌な予感がしたのだ。ルフィーナの命じに従うなどとまったく……」
「アー……アー――」
「ん? なんだ、ヴィア。珍しく声を出して何かあるのか?」
「ル……ルー」
「むぅ、まるで分からぬ。くっ、俺に子守など出来はせぬというのに。あいつめ」
やはり愚痴を吐きまくりね。相変わらず立ち姿だけ見ていれば、彼ってば英姿颯爽としているし、騎士団長として立派にしているのに子育てとかになると、てんで駄目ね。
「貴様! カンラート・エドゥアルト! 何を愚痴っているのだ。貴様の娘に失礼ではないのか!」
「ぬっ? ヴァルティアか!? 遅いではないか。俺をここで散々、待たせ――ル、ルフィーナ!? お、お前か。ヴァルティアかと思ったではないか。どうりでヴィアが騒ぐわけだ」
「うふふっ! お姉さまの真似をしてみたの。相変わらずのお兄さまですわね。安心したわ」
「どういう意味かは聞かぬが、お前にそう言われても腹が立たぬな」
「それはそうと、彼女がヴィアでしょう?」
「あぁ、そうだ。正確にはヴァルヴィアだが……俺の名など一つも入っておらぬがな」
ヴァルティアお姉さまの娘だからヴァルヴィアね。男の子だったらカンラートの名前にしていたかもしれないのに、そういうところも惜しいのね。
「ヴィア、ごきげんいかがかしら?」
「ル……ルー」
「ルフィーナよ。お話出来るようになったら、たくさんお話しましょうね」
お姉さまに似てきっと美人になるわね。そして間違いなく最強になる予感がするわ。
「それでお前、俺に役目を任せるつもりで呼んだのだろう? それもアルヴォネン殿と交代させてまで。それは重要な事なのだろうな?」
「あら? わたくしがお兄さまを騙すとでも言うのかしら?」
「そうだと思っているが? ルフィーナはこれまで幾度も俺を騙してきているではないか。その度に落とし穴に落とされたり、ヴァルティアの敵にしたり……あげく、涙まで使うようになったではないか。果たしてこんな遠くの地にまで俺を呼んだとして、それが嘘ではないと誓えるか?」
「カ、カンラート……わたくしを疑っているの?」
「ふ、ルフィーナ。お前の涙など俺には効かぬぞ。お前を泣かせたとて、ここにはお前しかいないのだからな」
だいぶ疑うようになったわね。ふふっ、それも想定済みだわ。その為にヴァルティアお姉さまを嫁にしたのですもの。これを使えばカンラートといえども、言うことを聞かないわけにはいかないはずよ。
「いいわ、カンラート。本当のことを教えてあげるわ。あなたにヴィアを預けたヴァルティアはどこに行ったと思う?」
「む? 俺よりも先にお前に会うために……いや、分からぬな」
「カンラート……お姉さまは……うぅっ――」
「むむ? な、何故、涙を流しているのだ?」
「アスティンに似た王子のお嫁さん候補になってしまったわ! わ、わたしはどうすればいいというの? まさか、この国の末王子がアスティンにそっくりだったなんて思わなくて、強く反対も出来なかったの……あまりに彼がアスティンに似ているものだから、お姉様もその気になってしまったの。今頃は彼の部屋に一緒にいるはずだわ……」
「な、なにっ!? 俺がいるというのに、アスティンに似ているだけの王子の嫁候補になっただと? ルフィーナ、お前……お前が何故あいつを止められなかったのだ?」
「ごめんなさい、お兄さま。わたしも、アスティンに似ている王子に強く言えなくて、だから……」
「な、何てことだ……どうりで戻って来ないはずだ。それにヴィアを預けたということは、候補になっても何の不思議もないではないか! くっ、ど、どうすればよいのだ。ルフィーナ、俺は何をすればいい?」
まんまと引っかかってくれたわ。そうすることでカンラートのことだから責任を感じて、絶対に断らないはずだわ。
「カンラートにお願いしたいことがあるの。これはとても重要な役目なの。あなたにしか出来ないことよ」
「そ、そうか! やはり本当であったのだな。お前が俺を騙すはずなどなかったのだ。すまぬ……」
「ううん、いいの。そ、それで、お兄さまには……」
「王女さま、連れて来た」
ふふっ、ハズナはいいタイミングで連れて来てくれたわね。
「むむむっ!? お、俺に似ているが……どなたなのだ?」
「なるほど、ルフィーナ王女の騎士殿か。確かに似ておる」
「カンラート。この御方は、キヴィサーク国王陛下ですわ。先程の花嫁候補は、陛下が王子の為に募ったことでもあるの。つまり、そのことを止められるのも陛下しかいないわ」
「国王陛下!? し、失礼致しました。私めは、ジュルツ国王立騎士団、団長のカンラート・エドゥアルトにございまする。此度の無礼をお許し下され」
これで間違いなく計画が動くわ。それにしても、これほどまでにそっくりだなんて本当に困るわね。国王陛下にも惚れてしまいそうになるもの。




