79.アスティンの寄り道①
「じゃあ、ちょっと迎えに行ってきます。ふたりはそのまま待っててもらっていいですか?」
「うん、行って来て」
「慌てなくていいぜ!」
レナータとハヴェルを乗せた馬車を守りながら、まずは見習い騎士ルプルを迎えにレイバキアに寄ってもらっていた。長いこと彼女を置いたままにしていたのは申し訳ないと思いながら、かける言葉を考えていた。
ルプルがいそうな場所といえば、騎士の宿舎くらいしか思い浮かばなかった。さすがに女性騎士だけの所に僕一人だけが迷って歩いているのはまずいと思って、辺りを走り回った。
「むむ……どこにいるんだろ? その辺の人に聞くのは気が引けるんだよな」
「そこのアスティン!」
「へ? アスティンは僕ですけど、な、何ですか?」
「探し人か?」
「はぁ、まぁ……」
話したことも無い人に名前を呼ばれるとはどういうことなんだろうか。なんてことを思っていたら、大勢の女性に囲まれていた。これはもしかして危機ということなのかな。
「アスティンさま」
「はひっ! な、なんでしょうか」
「あなたはレイバキアで許された騎士様です。どうか、ここでわたくしたちをお守りくださいませ」
なんか英雄扱いされてるけど、そんなことしたかな。だとしても、ここで時間をかけてるわけには行かないんだ。早く行かないと。
「い、いえっ、あの……ジュルツの見習い騎士ルプル・ネシエルはどこにいますか? 彼女を迎えに来ました」
ラルディを追い払ったことが関係してるのかもしれない。それでも僕はここに留まるわけには行かない。
「アスティンさん?」
「あっ、ルプル! 良かった、迎えに来たよ」
「む、迎えに!? す、すぐに行きます!」
何か意味の違う受け取り方でもしたかのようにすごく嬉しそうにしてるけど、元気そうで良かった。彼女が戻って来るのを待っていると、顔見知りの騎士が声をかけて来た。
「アスティン! 無事だったか。お前がレイバキアの危機を救ってくれたことは、国の誰もが知っている。アスティンを見かけたら、特別に迎えろと伝えているのだ。驚かせてすまないな」
「あ、あはは……特別。そ、そうでしたか。ところでアリーさんは、意中の方はいないんですか?」
「な、なにっ!? お前、我のことを……?」
「いえいえいえ、ち、違うんです。そうじゃなくて、アリーさんお強いので無理を承知でお願いしたいなと思うことがありまして」
「何だ? お前の願いなら聞くぞ」
「僕と一緒にジュルツに来てもらえませんか?」
「そ、そ、それは……プロポーズというやつか!? き、急にそんなことを言われてもな……」
あ、あれ? 僕の言い方がおかしかったのかな。変な方に取られている気がする。これはまずい。
「そうではなくて、その……僕はアリーさんに鍛えてもらった時に感じたことがありまして、同じ騎士の国ですけど、戦い方がまるで違うことに驚いたんです。ですので、その戦い方を我が国の騎士にお教え願えたらなと思ってまして」
「な、何だ。紛らわしい言い方をする奴め。そうか、それは見習い騎士たちにという意味か?」
「はい! そうです」
「……なるほど。ジュルツにはアルヴォネン様もおられるのだな。あの方にも大したお礼をしていなかった。分かった。アスティンの言葉だ、引き受けたぞ。すぐにでも出立するぞ」
「え、えと、その……ジュルツに戻る前に寄る所がありますので、それにもお付き合い頂ければ……それと馬車を守りながらになりますので、どうかお願い致します」
「馬車? どなたかが乗られておいでか?」
「えーと、マジェンサーヌ王国の……レナータさんと我が国の騎士です」
「……レナータ王女か。分かった。事情は後で聞く」
王国の王女と聞いて一瞬、眉を顰めていたけどアリーさんならきっと理解するはず……。とにかくこれで、後は国境のミストゥーニに行けばジュルツはすぐだ。父さまは確かルフィーナの元にいるはずだから、ジュルツにはシャンティとカンラートがいるはずなんだよな。
思わぬ形でジュルツに戻ることになってしまったアスティン。希望を胸に秘め、彼女を想う彼の先行きに不安を感じることは無い。




