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わがまま王女と駆けだし騎士の純愛譚  作者: 遥風 かずら
外伝クライマックス:プリンセッサの恋愛譚
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77.承継の儀を以って


 ラルディ王女とイグナーツ。あのふたりならきっと上手く行くし、王国の民たちも安心して見ていられるんじゃないだろうか。他国の僕でも、何となくそう思えた。そして残るは、ハヴェルとレナータ王女だ。


 きっと僕の知らない所、ハヴェルとレナータ王女がふたりで会っていた時に決めていた答えを出す時が来たんだ。それはラルディにとっても、王国にとってもとても重要で大変なことなのかもしれない。部外者ではあるけど、兄騎士ハヴェルのこともしっかりと見届けなくちゃ駄目なんだ。


「あら、お姉さま? どうかしたの?」


「ラルディ王女、そして騎士イグナーツ。わたくしレナータ・マジェンサーヌの言葉をよくお聞きなさい」


「――え」


「……! は、レナータ様のお言葉をお聞きいたしまする」


 ラルディは驚いたまま固まっているけど、イグナーツはすぐに気付いてその場で膝を付いている。ハヴェルの言う、これがレナータ王女の風格なのだろうか。


「わたくしは、妹であるラルディ・マジェンサーヌに王国王女としての資格を継いでもらい、未来永劫において守って頂きたいと思っております。わたくしは、この場をこの儀を以って……王女を――」


「ま、待って! お、お姉さま、その先を言っては駄目よ! そ、そんなの、許されないわ。そんなことをしたらお姉さまはわたしと一緒に王国を守っていけなくなる……」


「それがわたくしの望みですわ。ラルディ王女には、わたくしの意志を継いで騎士と共に王国を守って頂きたいの」


「ま、まさか、そこの騎士と……」


「ええ、そうよ。これはあなたが王国に戻って来た時に決まっていたことなの。その為にわたくしは、王国の民と周辺国との話し合いをしてきた。そのこと、了承を得ているわ。どうか、受け入れてラルディ」


 双子王女の別れ。姉妹の別れでもあるんだ。ルフィーナとフィアナ様が会えなくなったように、ラルディとレナータ様もそうなってしまうのだろうか。


「王女ラルディ様、我ら王国の民はレナータ様のご意志を受け入れております。どうか、お返事を」


「お、お姉さま……わたしが良くないことをしてきたから、だからなの? それが許せなくて、わたしを引き離すというの?」


「違うわ。あなたも知っての通り、わたくしは騎士ハヴェルに誓いの口づけを与え賜えた。そのことは存じていたでしょう? 認めて頂きたいの。あなたを許さないなど、一度もそんなことを思ったことなんてないわ。あなたのしてきたことと、わたくしの想いはまるで別なことなの。それとも、ラルディの方こそわたくしを許してはくれないのかしら?」


「レ、レナータお姉さま……」


 物腰が柔らかくて、優しい雰囲気を纏っているレナータ王女。僕は彼女を儚さを持っていたフィアナ様と似た感じだと思っていた。だけど違う。揺るぎの無い想いはこの場にいる誰よりも強くて、そして妹を大事に想っている。想っているからこその、強さを見せているんだ。


 沈黙と静寂が続いた場は、彼女の想いと痛みで以って破られた。民はもちろんのこと、僕もハヴェル、イグナーツも動くことが出来なかった。これは王国の双子王女、姉妹だけの会話だったんだと感じた。


「――っ」


 ラルディの振り上げた手が、レナータ王女の頬に当てられていた。レナータ王女は彼女の振り上げた手から目を逸らさず、その手の行方にぐっと唇を噛みしめながら、覚悟を決めていたように見えた。


「……ごめんね、ラルディ。わたしの可愛い妹、ラルディ」


 叩かれたレナータ王女が謝っていた。彼女の涙が頬を伝い、その意味を物語っていた。ラルディの手はレナータ王女の頬に添えたまま、ラルディも同じように涙を流していた。


 言葉の無い痛みと想いの涙が、姉妹の出した答えだったとでもいうかのように。静寂を嫌うように、姉妹のいつものやり取りが再開していた。


「レナータお姉さま。し、仕方ないわね。わたしがお姉さまの分まで、故郷を何とかして見せるわ! わたしには、愛するイグナーツもいることだし民たちがいてくれるのですもの。何も心配なんていらないわ!」


「うふふっ、そうね。ラルディなら出来るよっ。わたしはただのレナータになるけれど、きちんと故郷には帰って来るから、歓迎してね?」


「か、歓迎って……お姉さま、それはおかしいわ。やっぱりお姉さまは少しばかりおバカ……じゃなくて、お間抜け、と、とにかく気に入らないけれど、そこのハヴェルも一緒に連れて来てね。約束!」


「うんっ! ありがとう、ラルディ。それと、本当におめでとう! 私よりも先に恋を成就するんだもの。羨ましいなぁ」


「何を言っているのかしらね~お姉さまはすでに……まぁいいわ。すぐに発ちたいのよね?」


「うん。わたしとハヴィで、ハヴィの国にご挨拶に行かなくちゃいけないの。それと、住むところもね」


「そこのアスティン! こちらへ来なさい!」


「ひっ! は、はい、何でございましょうか」


「き、気持ち悪いわね。別に王女相手だからってかしこまらなくていいわ。あなたはわたしの初恋相手だったわけだし」


「あはは……初恋ってアレが」


「と、とにかく、アスティンはわたしのレナータお姉さまとハヴェルを護衛しなさい! 王国の馬車を用意して差し上げるわ。これは特別よ。他国のそれもあなたなんかを特別扱いだなんて、光栄に思うことね」


「特別……はは、どこかで聞いた言葉。あ、ラルディ、途中で寄り道は許されるかな?」


「それはお姉さまに聞いてくれるかしら? そこまでは知らないわ」


「あ、あの、レナータ王女」


「アスティンくん、わたしは王女じゃないわ。ハヴィのレナータなの。それでなぁに?」


「え、えーと……」


 ハヴィのレナータか。そんな甘い言葉を聞いてるとますます会いたくなるなぁ。僕の王女ルフィーナに。

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