ルフィーナ王女と守護者①
「……ということです」
「で、では、今頃はアスティンやハヴェル、ドゥシャンと行動を共にしているというのか!? イグナーツめ……あいつに会えないのは俺だけということになるのか。一言くらい、俺にも何か無いのかよあいつめ」
「では、失礼致します」
「いや、待て、ヤージ従騎士」
「は? 他に何かありますでしょうか?」
「その……ルフィーナの方はどうなのだ? アルヴォネン殿がお傍についておられるから心配など無いが、ミストゥーニから別れてしばらく何の音沙汰も無いのだが、何か聞いてはいないか?」
「いえ、王女からは何もありませぬ……」
「分かった。下がれ」
「はっ」
ジュルツ城の守護を任されているカンラートは、かつての盟友イグナーツのことを聞かされて苛立っていた。加えて、ルフィーナからも特に報せが無かったことで城の中を無意味に歩き回ったりしていた。
「あの、カンラート様。ここの所、忙しない様に見受けられますが、御子には会いに行かれてはいないのですか?」
「何だ? 我が子に会った所で状況が変わるとでも言うのか?」
「いえ、しかし……カンラート様は王女の留守を託されておいでなのに、貴方が落ち着かないようでは城中の士気も下がる一方で……」
「では、マフレナ。シャンタルを呼んできてはくれぬか? あいつは俺が部屋に入るだけで説教を始めてしまうのだ。だが、近衛のマフレナならば問題ないと思う。頼む」
「わ、分かりました。わたしがシャンタル様にお話をしてくればよろしいのですね?」
「ああ、そうだ。俺はここであいつを待つ」
「はい、今すぐに」
ジュルツ城の留守を預かっているカンラート。彼は騎士団の団長でもあることから、近衛騎士以外の者はうかつに口出し出来なかった。さらには城内の騎士のほとんどが女性のみだったからというのも関係していた。
「全く、連絡くらい寄こせばいいではないか。それでも俺の妹か? ルフィーナ……俺のことが好きと言っていたではないか。妹というのは兄に甘えて来るものではないのか。むぅ……」
「おい」
「しかし俺は兄として、城の留守を……むむむ」
「エドゥアルト!! 我を無視するなど随分と偉くなったものだな?」
「お、お前か。それに娘まで抱いて来るとは。どうして俺が部屋に行っては行かんのだ? 俺はお前の夫なのだぞ? 何故お前はそうなのだ」
「ほぅ? 子を授かったら優しくなるとでも思ったか? 我がルフィーナにも言われたのを忘れたか?」
「い、いや、それはそうだが……しかし、今は俺とお前と子しか城にいないではないか。何故俺に厳しさを見せるのだ? お前にしばらく触れることを許されていないのだぞ? 夫婦となったのにあんまりではないか!」
「貴様はルフィーナの代わりを務める立場なのだぞ? そんな甘いことでどうする! それともやはり城を守ることを棄てて、懐かしさに走りたいか? それでも我は構わぬぞ。我と別れる覚悟があるのならばな」
「くっ……お前。昔よりも俺に手厳しくなりおって。皇女の時の方がまだ可愛げがあったぞ」
「ふ……貴様もガキ大将の時の方が可愛かったな」
「うぐぐぐ……」
「失礼致します! アルヴォネン様が帰還致しましてございまする!」
「アルヴォネン殿が!? な、何故戻られたのだ。まさかルフィーナの身に何かあったのか?」




