いたずら王女とわがまま王子④
3人のお姉さまたちに呼ばれてお庭に向かうと、すぐに立場は逆転してすぐに3人はわたしの前に膝を付いていた。
『ルフィーナ様、申し訳ございません』
「あら、何を謝っているのかしら? あなたたちがわたくしに何かをしたかしらね」
『い、いえ……あの、無礼な立ち振る舞いと、態度と……』
「それに対しては仕方のないことよ。わたくしがあえてそうしているだけのことなの。そのことでわたくしがあなたたちに怒るなど、あり得ないことよ。立ち上がって、忠誠の印でも付けて頂こうかしらね」
なんて、王女たる態度と話し方を久し振りに見せつけてしまったけれど、そんなことはどうでもいいこと。それでも、彼女たちはわたしの近衛騎士。それも忠誠度が高い彼女たちには、それを示してもらう必要があった。そうすることで納得もしてもらえるのだから。
セラ、テリディア、ルヴィニーアの3人はわたしの手の甲に口付けを落とした。これは本来はアスティンとか、男騎士にして頂くことなのだけれどわたしは近衛騎士にも印を付けてもらう事にしていた。
「それで、セラ。わたくしに何か言いたいことはあるのかしら?」
「は。トビアス王子のことについてですが、やはり目的は単なる花嫁探しだけでは無く、自分の立場をもっと示したいがための行動を取っているようであります。それ故のわがままぶりかと……」
「フフ……それにしてはセラには随分と甘えが入っているように思えるのだけれど、好意はお持ちなの?」
「あり得ません! あたしの好意はルフィーナ様のみにございます。男……それも他国の末王子ごときにそんな感情も気持ちも捧げるつもりはありません」
「そ、そうなのね。アスティンに似ていても駄目なの?」
「ルフィーナ様こそ目を洗うべきですよ? 雰囲気こそアスティンですが、アレは単なるわがまま王子です。アスティンはあんなわがままでも無ければ、情けない男でもないはずです。お忘れですか?」
「そ、そうね。ありがとう、セラ。寂しさからか、アスティンの幻を彼に当てはめすぎてしまっていたわ。そうね、あんなわがままではなかったわ。わたしのほうがよほど……」
「ええ、ルフィーナ様の方がよほどですよ」
てっきりセラはあのわがまま王子に惚れてしまっていたかと思っていたのに、まるでそうではなかったわ。むしろ怒られてしまったわ。
「テリディア、ルヴィニーア。あなたたちも、セラを見習って身分と強さを見せつけないように、わがまま王子に尽くすのです! よろしくて?」
『ははー。我ら姉妹は、王女様の騎士にござりまする。貴女様の為に従います』
「ところで姫さん、そうは言ってもこのまま大人しくしてるつもりはねえんだろ?」
セラはやはり気付いているのね。さすが長い事、傍にいるだけのことはあるわね。テリディアたちはまだまだ、その辺を見抜けていないようね。
「あ、あの、セラフィマ様? どういうことなのでしょうか?」
「あぁ、テリディアもそこの姉ちゃんもまだまだ姫さん、ルフィーナ様の本性には気付いてないだろ? 王女様だけど、幼い頃はいたずら姫だったからな。あたしはその時から見てるのさ」
「そ、それは何とも羨ましいことです。それで、ルフィーナ様の企みとは?」
「それはまだあたしにも分からねえな。なぁ、姫さん?」
「ええ、まだまだ考えてる最中よ。それに、あの御方にも話しておかなければ戦になりかねないわ」
この国の王と会っているアルヴォネン様。アスティンのお父様にはきちんとお話をしておかないと、冗談も通用しない御方ですもの。わたしの企みで大変なことになるのは目に見えているし、この国から出られなくなってもこの先困るものね。
「ところで、ハズナは? テリディアは一緒ではなくて?」
「は、彼女はルカニネと共に、アスティンを最後まで護衛するとかで彼の近くにいるはずですが……」
「違うわね。ルカニネは好きな騎士の傍にいたいだけね、きっと。だから、ハズナは必ず、わたくしの所へ戻って来るわ。あの子はわたくしにしか従わないもの」
「好きな騎士ですか。しかし、ヴァルキリーです。それを破ることはさすがに……」
「ルカニネはそういう騎士だと思っていたわ。それでも咎めはしないわ。わたくしはお父様とは考えが違うのですもの。好きな人と離れて行動し続けるのなんて、本当は望んでなどいないのですもの」
まさしくわたし自身に跳ね返って来ている言葉ね。アスティン……あなたに会いたい。早く、早く――




