いたずら王女とわがまま王子③
お庭の草むしりはタリズが丁寧に教えてくれたおかげで、王子に文句を言われることのないくらいに草を刈りつくしてあげた。その様子を見守っていたタリズに怒られてしまったけれど。
「ルフィーナ様! いくら雑草と言えど、土をあらわにするほど刈ってしまうのはやりすぎですぞ!」
「あら、そうなのね。次は気を付けるわ」
「と、ともかく、今はまだ大人しく王子の世話をしてくだされ。久方ぶりに出会えたのに、ルフィーナ様と争うなど望んではおりませぬぞ」
「ええ、勿論よ! わたしだって王子の世話位は出来るわ。そう、これはいつかの予行演習なの。愛する彼との間には、いつか新しい息吹が出来るはすですもの。その子がわがままぶりを発揮した時の為に、わたしは王子のわがままに耐えなければならないの」
「アスティンとルフィーナ様の……それは確かにわがままな子に育ちそうですな」
そんなのはずっと先の話。愛するアスティンと再び会うその日までに、わたしはもっと自分を磨いておく必要があるんだから。彼も今頃は厳しい試練に耐えている最中に違いないわ。
「それではタリズ。わたくしもわがまま王子のお部屋に戻るわ。お庭のこと、その他の事は秘密裏に進めて頂戴ね」
「はい、承知致しましたぞ」
それにしても、教育係のナミュールといい、庭師のタリズといい……みんな、わたしが姫の時に故郷を離れてジュルツ城に来ていたのね。もちろん、フィアナお姉様もそうだったのよね。お姉様は元気に過ごしているのかしら。いつかまた会えることが叶うなら、その時はわたしもお姉様のような王女になっていたい。
「遅いぞ! 庭の草は刈れたのか?」
「もちろんですわ。根こそぎ刈って差し上げましたわ!」
「じゃあ、後で見に行くからな! 全く、ルフィーナはトロすぎるんだよ。僕の動きを少しは見習ってほしいものだな」
あら? 口調が僕に戻っているわ。何か誰かが彼を叱ったのかしら。
「そ、そういえば、トビアス王子はおいくつかしら?」
「な、何だよ? 年上だからって偉ぶるつもりなのか? もうすぐ16になる。だけど、僕は王子なんだ。末王子だけど、偉いことに変わりはないんだぞ! ルフィーナが僕より年上でもちっとも偉くなんかないんだからな!」
「ふふふ……それはそうね。あなたは王子様ですものね。それに比べたら、わたしなんてただの娘ですわ」
「何だ、分かってるじゃないか。お前の姉たちみたいに、お前も少しはおしとやかに大人しく……優しくなって欲しいものだな!」
わたしの姉たち……セラとテリディア、ルヴィ。彼女たちの表情が心なしか、とてつもなく何かを我慢し続けているように見えるのだけれど。
「ルフィーナ様……ルフィーナ。お話ししたいことがあるの。良かったらお庭でお話しましょ?」
「ええ、いいわよ」
「何だよ? みんなでどこに行くんだ?」
「トビアス王子は、お部屋で休んでてくださいね。わたくしたちは、妹のルフィーナに説教をしに行きたいの」
「分かった。やっぱり、姉が言うのが一番だよな。ルフィーナ、きっちり教えてもらえよ? 帰ってきたら、僕の部屋を掃除してもらうからな」
「分かりましたわ」
3人の表情はとても穏やかに見えるわ。少なくとも表面上は。それにしても、あそこまでわたしに強く言ってくる人なんて今までいなかったわね。これはこれでとても面白いかもしれないわ。
アスティンの進んだ道と違って、何も起こらない道のりかと思っていたけれど、意外な形で長くい続けることになりそうだわ。




