とある国のお嫁さん候補④
まったく、何が花嫁候補なのかしら。あんなのただのわがままで小生意気なアスティン王子なだけじゃない! あんな王子を夢中にさせることなんて不可能だわ。せっかくアスティンに似ているのになんて勿体無いのかしら!
キヴィサーク国に来たはいいけれど、すんなりと事も運ばず出られず。わがまま王子の世話をしなくてはいけない面倒事を押し付けられているわたしたち。それでもセラのことは気に入っているのか、素直に言うことを聞いている偽アスティン。
「何だか納得いかないわ!」
苛立ちを見せながら庭を目指して歩いていたわたしに、まさかの国王から声がかかった。
「そなた、ルフィーナはジュルツの王女なのであろう?」
「な、なんのことかしらね~」
「隠さずとも分かるものだ。アソルゾは変わりないか?」
お父様を知っているというの? あぁ、そういうことね。最初から仕組まれていたということなのかしらね。さすがに国王陛下の時代が長かっただけあるのね。知人くらいはいてもおかしくはないわね。
「お父さまは今頃はどこかに出かけているわ。恐らくは元気なのではないかしら。あなたはこの国の王なのでしょう? もしかしてお父さまのお知り合いなのかしら?」
「フ……さすが勝気な所は似ている。アソルゾもそうだが、アルヴォネンとは旧知の仲なのだよ。彼はもうすぐここへ来るのだろ? そなたを手助けするために」
「全てお見通しなのね。それでは、わがまま王子の花嫁候補というのは嘘なのかしら?」
「いいや、嘘ではない。あの通り、贅沢と甘やかしが原因でああなってしまったということもあって、見合いが上手く行かぬ。そこで花嫁候補を募った。募ったが、それこそが偽り。正しくは、トビアスが自ら夢中になるような女性を求めることこそが目的なのだよ」
「ふぅん? では、わたくしにそうさせたいとでもおっしゃるの?」
「ルフィーナ王女であれば、そうなるだろうと思っているのだが……王女も手を焼くということか。そなた以上のわがままだとすれば厳しいやもしれんな。タリズにそなたのことを聞いて、トビアスをどうにか出来ると信じていたのだが……」
やはりタリズがここにいるんだわ。それもわたしのことを話しているですって? だけど彼がわたしを知っているのは落とし穴を掘ったり、森で迷子になった時がよほど印象に残ってるくらいだと思うのだけれど。
「そのタリズはキヴィサーク国の人間なのかしら? まだ健在?」
「うむ。我が国きっての人物。幼きそなたを見守るように、庭師としてジュルツに長く在していたのだ。王女となったことで盟約を終えて、我が故郷へ戻ったと云うわけだ。もちろん、健在であるぞ」
「会いたいわ!」
「では、このまま進んで庭へと駆けるがよい。念のために衛兵を付けるが……」
「いらないわ! さすがに城の中に賊なんていないのでしょう?」
「いや、タリズが……まぁよい。そなたならば対処出来るだろう。彼もそなたを見て、鋭さを和らげるはずだろうからな。その後は王子を頼む」
嫌だけれど仕方ないことかもしれないわね。なんにしても、アスティンに似ているだけに見捨てることなんて出来るはずがないわ。わたしが偽アスティンを磨いてやろうじゃない。
それにしても、衛兵を付けるだなんておかしなことを言うものね。タリズは庭師のはずだわ。それに高齢で今頃は腰を痛めているに違いないわ。わたしが彼を労わってあげなければね。
考えてみればジュルツ内では必ず近衛が傍にいたし、外でも誰かが近くにいたけれど国外の、しかも見慣れない場所でひとりになるだなんて初めてかもしれないわね。
庭に近付くわたしは、あの国王が言ったことの意味をすぐに知ることになる。衛兵のひとりくらいは隣に置いとくべきだった……なんてね。




