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とある国のお嫁さん候補③


 こんな思いをするならアスティン似の末王子に付いて行くべきじゃなかったわ。こんなこと、教育係のナミュールでさえもさせなかったことなのに。


「ルフィーナ。次はそこをやってくれる?」


「むむ……わ、分かったわ」


「い、痛いっ! そんな簡単なことも出来ないの? 君は花嫁以前の問題なんじゃないの!?」


「こ、こうかしら……?」


「ルフィーナじゃダメだ! そこの……セラフィマにやってもらうからいいよ、もう!」


「ご、ごめんなさい……」


 アスティンに似ているだけのわがままな末王子、トビアスはあろうことか、わたしとセラに体ほぐしのマッサージをやらせている。こんなこと、したことのないわたしには力の加減も何もかもがさっぱりすぎた。


「ル、ルフィーナ様。ここはあたしがやりますから、その、そこでお休みください」


「くーー! な、なんてことなの。たかが人の……足を揉むだけだというのに。どうしてそんなに文句を言われなければならないのかしら」


 花嫁候補なんて、正直言って何の意味も無ければ関係もないこと。それがどうしてこんなことをしているかと言うと、それはもちろん、キヴィサーク国を通過するための通行証が無かっただけのこと。


 カンラート似の国王と、アスティン似の王子。ただそれだけのことなのに、末王子のことを引き受けてしまったわたしは後悔の念に駆られている。唯一、セラだけがトビアス王子のわがままを素直に受け入れて、頼みごとをされている状況。


「セラフィマ。もういいよ、ありがとう。そこのルフィーナは、お庭の草むしりをして来なよ。それくらいは出来るよね?」


「お、お黙りなさい! わ、わたくしを誰だと――」


「(姫さん、今はまずい。ここは大人しく言うことを聞いた方がいい)」


「(むむむ……)」


 セラの言う通り、わたしがうかつに王女という身分を明かして、暴れてしまえば戦になりかねない。それくらいわたしたちは、沢山の衛兵に監視されながら王子の部屋にいる状態。


「ほら、早く行きなよ。ルフィーナ。庭に行ったら、庭師のタリズって爺さんが色々教えてくれるはずだけど、怒らせないで言うことを聞いてよね」


「わ、分かったわ」


 タリズ? あら? 確かジュルツ城の庭師もタリズだわ。でも、わたしが王女になってから見かけなくなったけれど、もしかしてここが故郷なのかしら。もし同じタリズならわたしを何とかしてくれるかもしれないわ。


 フフフッ、見てなさいよ。偽アスティン王子! わたし、ルフィーナはこんなことでへこたれたりしないんですからね。そうと決まれば、早く庭に向かわなければいけないわね。

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