とある国のお嫁さん候補①
「姫さん、こうなれば覚悟決めて強行突破しかねえな」
「そうね。セラがいれば何も問題ない気がするわ!」
まさかアルヴォネン様が通行証を持ち歩いているだなんて、わたしは思っていなかった。それでもそんなに心配はしていないのは、アスティンに比べてわたしの行く先には危険がないことを聞いていたから。
キヴィサーク国門付近に馬車が近づくと、予想通りに止められて通行証の提示を求められた。もちろん、そんなのは持っていないわたしたち。国を守る衛兵は、馬車の中にいる者の姿を確かめようとしていた。
「セ、セラ、ど、どうしましょ?」
「捕まる前にあたしが突っ込むよ。姫さんは、あたしの後ろに……」
「そ、そうね。セラがいてくれて助かったわ。それじゃあ、衛兵が確かめてくる前に扉を開けましょ?」
「よし、開けるぜ!」
勢いよく馬車の扉を開けて、セラとわたしは外に出ようとした時にはすでに複数の衛兵に囲まれていたみたいだった。先手を打たれてしまったのは仕方のないことかもしれない。
「セラ、抵抗はやめて大人しく捕まるのも案外、楽しいかもしれないわね」
「さすがルフィーナ様だな! そういうことなら、姫さんに従うよ。見た感じ、こっちの身なりで判断してるっぽいから、手荒な真似はしなさそうだ」
「そうみたいね。何をされるのか分からないけれど、何も心配なんてしていないわ。少なくとも、レイリィアル国ほどの非道はしてこないはずですもの」
キヴィサーク国――
「外の姫君たちは、こちらでお待ちを」
てっきり捕まって、どこかの牢屋にでも閉じ込められるかと思っていたのに、拍子抜けと言わんばかりの待遇を受け、応接間らしき場所へ通されてしまっていたわたしとセラ。
待てと言われても、大人しく待つわたしたちじゃなかったこともあって、ずっとふたりで話をしていた。
「姫君たちって、セラもお姫さまとして見ているのかしらね?」
「あたしはガラじゃないな。姫さんってことなら、ルフィーナ様だけで十分だろ」
「あら、でも確かセラは本物のお嬢様なのよね? アスティンに聞いているわ」
「全く、口の軽い奴だな。そういう所があるから隙があるんだ、あいつは」
「ふふっ! 彼はセラのことが好きだったのよ、きっと。もちろん、一番はヴァルティアお姉さまだろうけれどね。ホントに、アスティンったら可愛いわ。彼は今頃何をしているのかしらね……」
王女であるわたし自らが決めた事だけど、愛するあの人の声も姿も、近くに感じることが出来なくなっているのは、やはり寂しい。いつかの旅の様に、彼への想いは募るばかり。
「ちょっとだけ頼りないが、アスティンなら平気だと思うぜ。どういうわけか不思議な魅力がある奴だからな。だから、姫さんは姫さんらしく元気いっぱいに動いていていいと思う」
「ええ、そうね。そうするわ。通行証が無かったのは誤算ではあったけれど、くよくよしても始まらないものね! セラの言う通り、わたしらしく振る舞うとするわ」
アスティンのことで盛り上がっていたわたしたちに、扉の向こう側からようやく声がかかった。
「外の国より参られし姫君たちよ、歓迎いたす。これより、そなたたちを王の前へとご案内致しまする。扉を開けた先の通路を最後まで歩き、王の間へと進まれるがよい」
通行証が無いまま衛兵に連れられたかと思えば、丁重に扱われている。ということは、咎めも無く、国内に入ることを許されたということなのかもしれない。その為の謁見……そう信じて疑うことが無かった。
「行くしかないわね」
「おう、そうだな。姫さんと一緒に進むぜ!」
騎士姿のセラに付き添われながら、わたしは指示通りに光の見える先に向かって通路を進んだ。何が来ても恐いものなんてあり得ないわ。わたしには守るべき国と、守らなければならない人がいるのだから。




