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わがまま王女と駆けだし騎士の純愛譚  作者: 遥風 かずら
外伝ストーリー②:プリンセッサと騎士たち
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52.兄騎士ハヴェルの言葉


「おせぇぞ、アスティン! 全くしょうがない奴だな」


「ご、ごめん。急いだんだけど、結構待たせてしまってたんだね」


 レイバキアに残してきた見習い騎士のルプルに、ハヴィからの言づてをして、すぐに俺はみんなが待つ道へ急いで戻って来た。急いで来たけど、それなりに時間は経っていたみたいでドゥシャンから文句を言われてしまった。


「お帰り、アスティン。本当にせっかちな兄騎士だね」


「へっ、よく言うぜ。さんざん俺らを待たせやがったくせによ。イグナーツ! テメエの方こそ俺らに謝るべきだぜ」


「確かにそうだよね。ごめんね、みんな」


「そこの長髪! あなた、何様なのかしら? 愛しきイグナーツに向かってその生意気な口の聞き方は一体なんなの? まるで誠意というものが感じられないのだけれど、あなたにだけは何か腹が立つわ」


「おっと、そいつは悪かったな。だが、俺らはいつもこんな感じだ」


「へぇ……?」


「大丈夫だよ、ラルディ。ドゥシャンは口は悪いけど、悪者じゃないんだ。許してあげてくれるかい?」


「貴方がそういうなら……」


 あれがさんざん俺をしつこく追っていたラルディ王女か。イグナーツのおかげだけど、何だか何とも言えないなぁ。でも、ドゥシャンも楽しそうにしてるし良かった。


 一方でハヴィは大人しいんだよなぁ。ずっと何かを考えているようにも見えるし、悩んでいるようにも思える。ハヴィとはきちんと話をしたい。たぶん、俺じゃないと話せないことなのかもしれない。


「あ、あのさ……」


「アスティン。俺と話でもするか」


「えっ? あ、うん。俺もそう思ってたところだよ」


 それにしてもずっとヒゲ姿のハヴィしか見たことが無かったから、こうして話しながら顔を見てても本人とは思えないほどに精悍な顔つきだなぁ。ヒゲで隠していたなんて何だかずるい気がする。


「どうした? 俺の顔に何かついてんのか?」


「い、いや、だって初めてだから」


「あー……そうか。アス坊と呼んでいた頃から、俺はヒゲ面しか見せて来なかったな。で、どうよ?」


「惚れるよ!」


「アスティン、惚れるのは俺じゃなくて王女にしとけよ?」


「そ、そういう意味じゃないよ! 騎士としてそんな凛々しい感じの人は父さまとカンラートくらいしか会ったことが無いから、何か感動したんだよ」


「そ、そうか。それはありがとよ」


 ハヴィ……ハヴェル。俺の兄騎士。最初はお城を守ってた騎士だった気がするのに、でもルフィーナに出会った時からお世話になってるんだよな。そういう意味じゃ付き合いは長いかもしれない。


 兄騎士は4人だけど、4人の中でも俺のことをアス坊として可愛がってくれたのはハヴィだけなんだよな。それだけに何だか、こうして話をしてるだけなのに涙が出て来そうになっているのはどうしてだろう。


「アスティン、お前は幸せか?」


「えっ? な、なに急に……」


「いや、幸せってのは人それぞれで違うものだ。だけど、今のお前はどう思っているのか聞きたくてな」


「そうだね。俺はルフィーナと晴れて婚姻して、一緒に暮らせて……何故か副団長にもなれて、こんなに幸せでいいのかなって思ってるよ。ハヴィはどうなの?」


「そうか。俺は……弟騎士であるアス坊がそういう顔をして話してんのを見れて幸せだぜ。だからこそ、お前にはハッキリと言いたい。俺がいなくなっても、お前は大丈夫だ! ってな」


 ああ、やはり……また俺の近くから兄騎士がいなくなろうとしているんだ。でも、かつてのイグナーツのような悲しい意味での別れじゃないってことは、何となく分かるよ。


「ハヴィは……そのヒゲを剃った時に決めていたことがあるんだね?」


「まぁな。もちろん好きで伸ばしていた髭でもあったが、アルヴォネン団長から密かに言われていたことでもあったんだ。そして、髭自体がいつしか俺の行く末を左右することになるとは思っても見なかった。だが、このことをきちんと話すのはアスティン。お前だけだ」


「ルフィーナはそのことを知らないのに、今回の旅にハヴィを選んだってこと?」


「お前の嫁さんはそういうことを見抜ける力でもありそうだな。偶然だ。今回の旅は、俺にとってはジュルツに感謝を示すとともに、ジュルツの騎士でいられて良かった。そういう旅になった。言ってる意味が分かるだろ?」


「……うん」


「だから、アスティン。目元に溜め込んでいる涙はまだ流すんじゃねえぞ? それは王国に……いや、俺と彼女の門出の時までとっとけ! いいな?」


「わ、分かったよ。ハヴィ」


「よし、それでこそ俺の弟アスティンだ。血は繋がってなくても、お前は俺の弟だ。もっと強くなれよ、アスティン」


「うん」


 そうか。イグナーツはラルディ王女。そしてハヴェルは俺が会ったことの無い、もう一人の王女様の騎士になるんだ。その人の為にハヴェルはジュルツと、俺と別れるんだ。


 兄騎士ハヴェル。王国の王女との幸せを掴むためにヒゲを剃って迎えに行くんだ。そういうことなら俺も、兄騎士を応援しないと駄目だ。ラルディ王女のことが解決した今、次は彼の応援をしなくちゃ駄目なんだ。

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