51.特別なアスティン
「ハヴェルとドゥシャン! 懐かしいな。また会えるなんて思わなかったよ。カンラートは元気かな?」
「思い出してくれたみてぇだな、イグナーツ。やはり、アスティンがお前を戻してくれたわけか。まぁ、そうだと思ったがな。お前に懐いていたのはアスティンだったわけだしな。俺じゃなくてもよかったわけだ……」
「うん、アスティンのおかげだよ」
「おぅ! イグナーツじゃねえかよ! 久しいな。カンラートの野郎は相変わらず口やかましい野郎だぜ。会わなくて正解かもしれねえな。ハヴェルはヒゲを無くしちまったけど、俺はこの髪を切るつもりはねえぜ」
「はは、彼もそのままなんだね。心配かけてごめん」
「まぁ、気にすんなよ。俺もハヴェルも、そんでそこのアスティンもお前と話が出来て最高に嬉しいんだからよ! それに良かったじゃねえか。愛する王女とずっと一緒に暮らすんだろ? 羨ましすぎるぜ!」
ドゥシャンも嬉しそうにしてる。良かった。でも、ハヴィ……ハヴィとも別れることになるの? そんなことないよね。だって、せっかく兄騎士のみんなとまたこうして話が出来ているのに。
「アスティン、見習い騎士はどこにいるんだ?」
「あっ、うん。レイバキアの宿かどこかにいるはずだよ」
「そうか、じゃあ言づてをして来いよ。俺とドゥシャン、イグナーツとでここで待ってやるから」
「え? な、なんて?」
「残念かもだが、見習い騎士を王国に同行させるわけにはいかねえんだよ。王国には俺とアスティン。ドゥシャンとルカニネ。そんで、イグナーツと王女だけだ。見習い騎士は女だから、レイバキアに残しても問題ないだろうしな。だからアスティン、伝えてこい! 「アスティンの下で言うことを聞いてれば、強くなれるぜ!」ってな」
「う、うん……じゃあ、ハヴィは、ルプルとはもう……そういうことなんだよね?」
やっぱりハヴィは俺とも別れようとしているのだろうか。でもその前にルプルとも。
「あぁ。あいつとは何だかんだで、お前の部下として一緒にいた時間が長かったからな。直接挨拶出来ねえのはすまねえけど、お前から言ってもらう方が一番だ。じゃあ、頼んだぞ!」
「分かったよ。じゃあ、俺行ってくる! すぐ戻るからね」
ハヴィたちが俺を待っててくれる間に、俺はレイバキアに戻ることにした。彼女はどんな反応をするのだろうか。騎士ハヴェルと会うことが出来なくなる。そんなのは想像もしていないはずだから。
「……いいのか、ハヴェル。アスティンの奴は薄々気付いてるぞ? お前が何を考えているのか」
「そういうお前は割と薄情だな」
「何を抜かしてやがる。野郎がどこに行こうが知るかよ。別にこの世界からいなくなるわけじゃねえんだ。だろ? だから、心配も悲しみもねえな。ハヴェル、テメエが騎士を続ける限りはどこかで……」
「そうだな」
ハヴェルとドゥシャンは常にふたりで行動をしていた騎士。飲み仲間、友人。そんな彼らには俺なんかと違って、言葉はいらないのかもしれない。
レイバキア――
「あ、あの、ルプルはどこにいますか?」
「あなたは、アスティンですね? アリーから聞いていますよ。こちらです」
「は、はい」
まさかまた変な部屋に案内されるんじゃないよね。そんな時間なんてないのに。
「アスティンさん! ど、どうだったんですか? あの騎士に勝てたのですか?」
良かった。ホントにいた。と言うより、ルプルだけじゃなくてアリーさんもいるし……あれ?
「あの、何で俺しかここにいないんですか? ほ、他の男の人はどこに?」
「ジュルツの騎士アスティン。お前はレイバキアを救った恩人だ。ラルディ王女とあの騎士によって、我らは自由を封じられていたのだ。あの部屋でのことも、全て王女の指図によるものだった。それをお前が解放してくれたのだ。私達レイバキアの女性……女騎士は、アスティンのみを特別に認めることにした」
「へっ!?」
「ふふ、間抜けな顔もなお愛しく思えて来る。我が国はマジェンサーヌ王国の支配下だ。それゆえ、よほどのことが無い限り、外からの人間。それも男は入国を許さない。だが、アスティン。お前だけは、いつでも歓迎をしよう。お前を慕う騎士は沢山いる。お前さえ良ければ、何人か同行させてもいい。なんなら、我でも構わぬ」
「えええええーーーー!? い、いや、それはさすがに」
驚いてる場合じゃなかった。伝えないと。
「と、とりあえず、その話は後でお聞きします。アリーさん、ありがとうございます」
「そ、そうか。わかった」
「ルプル。落ち着いてよく聞いて欲しいんだ」
「はい、何ですか?」
「ハヴェルがルプルにはもう会えないって言ってて、だからあの……」
「あ、そうなんですね。分かりました! よろしくお伝えください」
「へ? い、いやいや、お別れって意味だと思うんだよ? 会えないんだよ?」
何でこんなにあっさりしてるんだ。悲しくないのかな。
「確かにアスティンさんの部下として仲間でしたけど、わたしが好きなのはアスティンさんなので。ですから、わたしからもハヴェルにはよろしくお伝え下さいね」
「わ、分かったよ。伝えておくよ。じゃ、じゃあ、ルプルはもうしばらくここに滞在しててくれるかな? 俺はハヴェルたちと王国へ向かうから」
「はいっ! もう心配はないと思いますけど、気を付けて下さいね。アスティンさんのお迎えをお待ちしています」
「うん、待ってて」
もしかしなくても思い入れのあるのは俺だけなのか。考えてみれば、ルプルとハヴェルってそんなに長く一緒にいたことないのかもしれないな。
「そ、そういうわけでして、アリーさん。俺は今すぐに王国へ向かわないと行けないんです。今回は同行をお願いできませんけど、いずれお願いする時にはよろしくお願いします! で、では、行きます」
「そういうことでしたら、どうかお気をつけて! ルプルさんともども、アスティンさんのお帰りをお待ちしていますよ」
まさかイグナーツと戦って、ラルディを改心……いや、改心させたのはイグナーツだけど。何故か俺だけがこの国に認められているとは思わなかったなぁ。でもこれで、ルフィーナと一緒に来るときには何の心配もいらなくなったってことだよな。
とにかく急いでハヴィたちに合流しないと。そして、たくさん彼と話をしよう。ハヴィとイグナーツと。




