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わがまま王女と駆けだし騎士の純愛譚  作者: 遥風 かずら
外伝ストーリー①:プリンセッサの脅威
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44.アスティンの胸騒ぎ④


 ラルディと水の術士が対峙している今が好機と考えた俺は、自身の剣をしっかりと手にして王女に向かって駆けだしていた。意表を突かれたラルディは、振り下ろした俺の剣を避けられない……そう思っていたのか、諦めて顔をそむけていた。でもそうじゃなかった。寸での所で、俺の剣は王女を守る騎士によって阻まれた。


 幼き頃から変わらぬ顔立ちと、一昔前のジュルツ騎士団の白銀鎧を身に纏っている騎士の名前は――


「お、お前……い、生きてたのか!? イ、イグナーツだよな……なぁ、そうだよな?」


 イグナーツ……俺が幼い頃にお世話になっていた兄騎士。俺が騎士を志すことを決めた優しき騎士。もう会えないと思っていた。父さまから聞かされたのは、帰らぬ人となった。ということだった……それでも、どんな形でも、彼に会いたいと願っていた。それなのに、どうしてあなたが俺の前に、敵として現れるんだよ。


「イ、イグナーツお兄ちゃん……な、何で、どうして――」


「剣を引いてくれないか、若きジュルツの騎士よ……僕は、ラルディ王女を守る騎士イグナーツ。王女に刃を向ける者に容赦はしない」


「――え」


「お、おいおい、お前……弟騎士のアスティンを覚えてねえのかよ!? あんなに可愛がってたじゃねえかよ! 答えろ、イグナーツ! お前、俺らのことを覚えてねえのか?」


「……僕は王女の騎士。すまないけど、キミ達のことは知らない。分かっているのは、王女に剣を向ける敵だということだけだ。この場の乱れは僕がおさめる。王女の身の安全を守るのが、僕の役目でもあるんだ。剣を引いてくれないか? そうすれば、他の者にも手出しはしない」


「イグナーツ、いいわ。あなたも剣を収めなさい。わたくしは平気ですわ。フフ……それにしても、アスティン。まさかあなたがイグナーツの弟騎士だったなんて、やはり因縁があったというのね。もっとも、イグナーツは、記憶を失っている騎士。あなたたちのことなんて、一つも覚えてなんかいなくてよ? あらあら、あまりのことに戦意を失ってしまったのかしらね。可哀相なアスティン」


「ラルディ、ここは退こう。そして一刻も早く、王国へ向かおう」


「……そうね、そうしたいところだけれど、中々面白いことが起きそうだわ。あなたとアスティン……本気で戦えばどちらが強いのかしらね。アスティンを打ち倒して、あなた、イグナーツは晴れてわたくしの夫君として認めてあげるわ。そして、ずっと王国で一緒に暮らすの。お姉様とわたくしとあなたとで」


「それが君の望むことなら、僕はそうしよう。ジュルツの若騎士アスティン。僕とラルディは数日、この国に留まる。この国を出るのは、君を倒してからにする。今は体を休めて置いてくれないかな。弱っている騎士を倒すのは、騎士としての心に反するからね。では、ラルディ……行こう」


「ええ、行きましょう。わたくしの愛するイグナーツ」


 戦意喪失で動けない俺の前から、ラルディ王女とイグナーツは姿を消した。どうしてだよ……どうして、せっかく会えたのに、こんな酷い運命で会うことになるんだよ……イグナーツ。


「おい、アスティン! しっかりしろ!! おい!」


「うぅ……どうして、どうしてなんだよ」


「副団長!!」


 ドゥシャンが俺を呼んでいる。だけど、俺は溢れる涙がずっと止まらないまま、その場で立ち尽していた。イグナーツと本気で戦うなんて、俺には出来ないよ。俺はどうするべきなんだ。どうすればいいのかな、イグナーツお兄ちゃん。口調も態度も、あの頃のままだったのに……全てを忘れているなんて。


「な、何事か!? こ、これは一体、何があったというのだ? お前はジュルツの騎士か?」


「何だ、あんたは俺らを襲った女騎士か? 何だよ今頃……どこで何してやがった?」


「アリーだ。私は、ジュルツの騎士様たちを丁重にお迎えする為の準備をしていたのだ。それがなぜこんな、こんな所に外の者たちが集まっているのだ? 何があった?」


「ジュルツの騎士様だぁ? 俺らの時は襲って来やがったくせによく言うぜ。で、その騎士様ってのはどなた様だよ?」


「それは……」


 レイバキアの女騎士アリーでさえ、その場に膝をつく騎士。彼と、彼に付き従うヴァルキリーたちが部屋の中へ姿を現わした。


「えっ!? ア、アルヴォネン殿!? し、失礼を致しました」


「……よい。ドゥシャン、イグナーツはここにいたのであろう?」


「はっ! 先程までおりましたが、王女と共に姿を消しましてございまする」


「ハヴェルはどこにいるのだ?」


「不明にございます」


「そうか。分かった……では、ドゥシャン。それに他の国の方々、この場から早々に退出されよ。そこの騎士は、我が片付けねばならぬ」


「は! 分かりました。では、このドゥシャン。先に失礼致しまする」


 ドゥシャンをはじめ、部屋に残っていた外の者たちと、ヴァルキリーは即座に退出していく。


「アルヴォネン様、恐れながら、その騎士を片付けると言うのは?」


「アリー殿。なに、仕置きをするだけだよ。アレは我が息子なのでな。腑抜けた息子と話すには、父だけで十分であろう?」


「失礼致しました! では、私も失礼致します。後ほど、お話をお伺い致します故、この場を離れます事をお許しくださいませ」


「うむ」


 俺はイグナーツお兄ちゃんとなんて戦えないよ。俺はどうすればいいと思う? ルフィーナ……俺は、どうすれば――

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