42.アスティンの胸騒ぎ②
「あ、あの、随分と歩くんですね。宿舎はそんなに大きい所なのですか?」
「……あぁ、そうだ。お前……アスティンのような外騎士がここに来るのでな。来た者たちは、そこに集められるのだ」
「え? 集められる? な、何で……そんな大げさな。あの、俺は部下の所に行きたいのですが」
「ここだ。中へ入れ。入ったら中にいる者たちと話でもしていろ」
「へ? はぁ、まぁ……」
案内された部屋に入ると、俺の他にも確かに男の騎士や弓士、村人とかが集まっていた。国の中では女性しかいなかったけど、実は結構いたってことに安心出来た。そして、少ししてドゥシャンも案内されて来た。
「おっ!? アスティンじゃねーか! 何だぁ? お前もここに案内されたのかよ。好きだねえお前も」
「ち、違うよ。俺はドゥシャンと違って、ルプルを探していたんだ。そしたら案内されただけで……」
「ほぅ? 物は言いようだな。どうせ俺と同じで宿舎に行こうとしてたんだろ。全く、素直じゃねえな」
素直じゃないのはドゥシャンじゃないか。困った兄騎士だなぁ。でも困ったなあ。どうすればいいんだろ。
「失礼する。お主たちはジュルツ国の騎士か?」
「はい。そうですが、あなたは?」
「私は、アグワ……水都の術士。マジェンサーヌ王国に行く途中だったのだが、ここへ連れて来られたのだ。名は何と申す?」
「俺はドゥシャンだぜ。こっちは副団長のアスティン」
正体をばらしてどうするんだよ、ドゥシャン。頷くしかないじゃないか。
「副団長殿か。お主はマジェンサーヌ王国を承知か?」
「えと、そこに向かおうとしていましたが、何か?」
こんなに正直に話していいものなのだろうか。水都? どこにあるんだろ……でも、何か胸がざわついてるんだよな。術士って何だろ。魔法ってことかな? 魔法……何だか昔、魔法で嫌なことをされたような気がするけど、覚えてないしなぁ。
「では、そこの王女様はご存知か? 私は水都に王女様が居を構えたいと仰っていたのを聞いて、受け入れの準備が出来たことを伝えに参ったのだが……この国には良くないものがいて気になっているのだ」
「王女様? えと、我らジュルツの騎士は王国の王女様に会いに行くつもりなのです。ですが、何故この部屋に?」
「他の者も腕に覚えのある者たちばかりだが、この部屋に集められたまま出ることが叶わぬ」
「おい、アスティン。どこか出口を探すぞ。探して女性達の宿舎に急ぐぜ!」
集められたまま出られないって、そんな馬鹿な。どこかに出口くらいあるはずだよ。何でみんな動かないんだろ。そうして、俺とドゥシャンは出口らしきものを見つけて、そこから出ようとした――
すると出させない為なのか、案内してきた女性とは別の人が姿を見せた。
「どこへ行くつもりか?」
「我らジュルツの騎士はここで休んでいる余裕などありませぬ。何故、ここに他の者たちも閉じ込めているのか、聞かせてもらいたい」
「……それを決めて下さるのはあの御方だ」
「むぅ、何だよ! おい、アスティン! こうなりゃあ、関係ねえぞ。突破するしかねえ」
「うん、行こう!」
よく分かんないまま部屋に居続けるなんて、そんな余裕は無いんだ。だから、俺とドゥシャン。続いて他の人たちも出口に向かって駆けだした。そもそも女性騎士アリーさんはどこに行ったんだよ。ハヴィもここにはいないみたいだし。
出口に一斉に向かう俺たちを、愛想の無い女性は黙って見ていた。何だ、出られるじゃないか。
「ドゥシャン、案外あっさり出られるみたいだよ。急ごう」
「……ア、アスティン、う、動けねえ」
「え?」
見ると、ドゥシャンや他の人たちの動きが止まっていて、急激に部屋の温度が下がっているような感じがした。俺も、気付けば足元が凍っていて……そして――
「うふふ……アスティン。何年ぶりになるのかしらね。あなたに会える日を楽しみにしていたのよ?」
「だ、誰?」
「あらあら、わたくしのことを記憶から消されたのかしらね。わたくしはあなたのことを忘れたことなどないというのに……それと、ヒゲ騎士のことも」
覚えが無い。俺が覚えているのは、シャンタルと旅していた時の記憶とルフィーナの……。
「思い出せないのかしらね。あなたの足元を、あの時も凍らせて差し上げましたのに。思い出して下さらないと、あなた以外の方たちは会話も出来なくなってしまいますわよ? それでもよくて?」
足元……凍りつく。動けない……? シャンタル……俺、シャンティに助けられたのに、またこんな所であの時のようになってしまいそうだよ。胸のざわつきはこれのことだったんだ。
「ラルディ?」
「ウフフ……ええ、アスティン。思い出してくれましたのね。それに免じて、あなただけは――」




